#02 アカバネの一族

「それでね、マチエさんビックリしちゃって。注文のお盆をひっくり返したんだけどそこに乗ってたお味噌汁がお客さんの頭に思いっきりかかってさ」


「はは、そりゃ傑作だなぁ」


「すっごいクレーマーな人だったけど、あの時は周りから笑い者にされてさすがにもう村に来ないんじゃないかなぁ。マチエさんもミスした割りにはニコニコしてたし、もしかしてわざとだったのかも」


「それは流石に……いや、あるかもなぁ」


 サクラとジンは、他愛もない話を交わしながら自宅への帰路を並んで歩いていた。

 兄は肩に自身の荷物を担ぎ、サクラはキッチリ10キロの米が詰められた袋を両脇に一袋ずつ抱えながら。帰り道、再度米穀店に寄り頼んでいた注文をゲンナイから受け取る際、さすがに計20キロもあるものを妹に持たせるわけにはいかないとジン自ら抱え上げようとしたのだが、そこはサクラが無理に制止し自分で持っている。

 兄だって長い旅路を経てようやく地元に帰ってきた身であり、当然ジン本人の荷物だってある。それにこの程度のもの、毎日欠かさず稽古している自分にとっても大したことないと言って押し切ったサクラだった。


「兄さんは? 向こうでは特に変わりなかった?」


「ああ。何たって兄さんは強いからな。どんな仕事だってへっちゃらさ」


 見せ付けるように腕まくりするジン。対しサクラは、つい訝しがるように疑いの視線を向けてしまう。


「……前から何度も聞いてるんだけどさ、結局兄さんってどんな仕事してるの? いい加減教えてくれてもいいんじゃない?」


 実はとんでもなく危険な仕事でもしているのではないかと時折心配になるサクラなのだが、そんな気持ちを知ってか知らずか、ジンは毎度同じようにわざとらしく笑い誤魔化してくる。


「フッ、そいつは我が愛しの妹にも教えられないな……なんたって世界の命運さえも握る超極秘の、」


「またそれぇ? いっつもそうやって適当に流そうとするんだから」


「フハハハ! 悪い悪い。まあ、時が来たらいつかサクラにも話すさ。こっちにも色々と事情があるもんだからそうペラペラと口にできないんだよ」


「むぅ……今に始まったことじゃないし、別にいいけど」


 兄の仕事の詳細については、話をしてもこうなるのはいつもの事。早々に切り上げて別の話題へと移る。

 両脇に抱えるズッシリとした重さの袋を眺めて、ふと思い出したことがつらつらと口に出た。


「そういえば、私も前より大分成長したんだよ!」


 つい語尾が跳ね上がり、自慢でもするかのような口調になってしまう。

 主語がないサクラの言葉にジンは一瞬何のことかとキョトンとするが、そんな兄の様子を見て慌てて訂正しようと言葉を続く。


「あ、べ、別に体のことじゃないよ!? 普段のお稽古のことだよ!?」


「んー? あぁ、そういうことか。いやまさか、女性としての身体的成長を嬉々として話してきたかと思って、うちの妹が知らない間にこんなスケベな子になったのかとついびっくり……」


「なぁ!? そ、そんな訳ないでしょ!?」


 こっちは身長などの意味合いで言ったというに、思わぬ返しに声が裏返り顔が真っ赤になってしまう。相手が冗談の通じるサクラでなかったから完全にセクハラである。

 ついテンションの高さで言葉足らずになってしまったサクラ自身も当然原因の一つではあるが。


「も、もう……変なこと言わないでよね」


「はは、それで? 今もちゃんと毎日の稽古続けてるのか?」


「当たり前でしょ? 兄さんが当主を引き継いだ時には私がしっかり兄さんを支えて、兄さんの次は私が当主を引き継ぐってずっと昔から決めてるんだから」


「サクラは意識高いなぁ。うんうん、兄ながらその姿勢は関心するぞ」


 またも子供扱いされてる気がして不本意ではあるが、ここはぐっと堪えるサクラ。

 それ以上に、今はどうしても兄に報告したいことがあったのだ。


「実はね、私、ようやくアカバネの"血継けっけい"が目覚めたんだ」


「え……?」


「まだ兄さんみたいに自由自在に扱えるわけじゃないけど、実技稽古で使える程度には……、」


 まくし立てるように喋ったところで、話を聞いていたジンが呆然としていることにサクラは気づいた。


「……? どうかしたの?」


「え? ……ああ、いや。サクラもようやくここまで来たんだなぁって兄さん驚いちゃったぞ」


 次の瞬間にはその違和感はとっくに消え去り、ジンは呑気に笑ってみせる。

 本当に驚いて声が出なかっただけだったのだろうかと、サクラも改めて口を動かした。


「自分で使って改めて思うけど、やっぱり私達の家系……っていうか、"この村の一族"に伝わる血継ってほんと不思議だよね。まるで超能力みたい」


「実際、みたいなもんだろ? しかしこれでサクラもうちの一族に恥じない一人前だな」


「えへへ……」


 素直に兄に褒められて、つい口角が緩んでしまうサクラである。

 そんなサクラにまるでご褒美でも渡すように、ジンは気軽な調子で口を開いた。


「そうだ。この後家に帰ったら、久々に兄さんが稽古付けてやる。どうだ?」


「え、ほんと!? やった!」


 思わぬ提案に、サクラも思わず心の中でガッツポーズ。体が小さく飛び跳ねた。

 昔こそは兄と二人で稽古をつけるなんて当たり前だったが、例の仕事とやらで度々ジンが村を離れるようになってからはほとんどご無沙汰している。こうしてたまに帰ってきた時にしかそういった機会はないため、サクラにとってそれ以上の手土産はないようなものだった。


「私が成長したの、血継だけじゃないからね! 剣術だって以前から大分強くなったんだから!」


「へぇ、それは楽しみだな。きっと母さんのことだからご馳走用意してるだろうし……父上にもしっかり挨拶しないといけないから、あまり長い時間は取れないけど……」


「うん、それでもいいよ。兄さんと稽古できるの本当に久々だから、時間用意してくれるだけで私は十分だよ!」


 少し申し訳なさそうにする兄に、サクラはまるで元気付けるかのように言ってみせる。

 実際、兄の多忙はサクラもよく知っている。こうして実家に帰ってきても、厳格な父との仕事に関する話だけでなく、村の次期当主でもあるため他にも色々とやらねばならないことがあるに違いない。そんな中で時間を割いてくれるだけでもサクラにとっては十分嬉しいことだった。

 感謝こそすれ、文句を言うことではない。

 サクラの言葉にジンは気を取り直すようニッっと笑顔を浮かべた。


「……よし! そうと決まったらさっさと帰ろう! サクラ、家まで競争だ!」


「え!? いや私このでかい荷物が……って、ちょっと!? 待ってってば!」


「それ持つって言ったのはサクラだろー! それも稽古の一環だー!」


「そ、そんな! 卑怯! 私だけハンデなんてズルいってばーっ!」


 ダダダダーッ! と突然勝負事に発展させ、手持ちの荷物が少ないにも関わらず大人気なく先へ突っ走っていくジン。

 こんなことならどっちか一方ぐらい持たせとけばよかったと過去の行いを後悔し、20キロの重りにヒィヒィ言いながらサクラも慌てて後を追いかけた。






*****






 ―――全力で走れば、行きと同様帰りもものの数分で家に到着する。

 村の中央にそびえ建ち、中でも最も大きなお屋敷。今の時代にそぐわない、"アカバネ一族"の当主が住まうこの立派なお屋敷こそ、サクラの住まう実家である。


 玄関をくぐるジンに続き、ゼェハァ息を切らしながらサクラも数十分ぶりに自宅へ帰還する。家を出たときには想像もできないほどの疲労っぷりである。とはいえ両脇に抱えた大きな袋は決して落とすことなく、自宅の中へと踏み入っていく。


 玄関で脱いだ靴をしっかりと揃えつつ、居間へと歩みを進めていく。居間だなんて言い方をしているが、ようはリビングだ。木目の床と畳、部屋を遮るのは扉ではなく障子と、外観に合わせて中身も古臭い構造となっているが、一つ一つの部屋単位で見れば一般的なキッチンが設置してあったりトイレやバスルームも綺麗な洋式であったりと、機能面的にはそこまで時代遅れしている訳ではない。

 何だかんだこの小さな村の中では最も偉い地位の者が住まう住宅だ。何度も工事の手は入ってるし、住みやすさで言ったら十分良好な方である。


 もし目立った欠点があるとすれば、普段仕事でいない兄を含めてもたったの4人で暮らしている家……にしてはあまりにも広いということ。玄関から居間まで、のんびり歩くとたっぷり1分は掛かる。あまりの広さに、何年か前に使っていなかった部屋を取り壊して2つ目のトイレを増設したほどである。


 米の詰まった袋をさっさと床に下ろしたい衝動を必死に我慢しながら母がいるであろう居間まで歩き、ようやくといったところで辿り着く。数歩前を歩いていたジンが障子を開けてくれた。

 部屋の奥のキッチンでリズム良く包丁を動かしていた黒髪美人の女性、アカバネ・キッカ―――つまるところ、サクラとジンの母親が、こちらに気づき嬉しそうに顔を上げた。


「まあ! ジン、おかえりなさい。サクラもご苦労様」


 出迎えた労いの言葉に対し、ジンはその場で深くお辞儀した。前に進もうとしたサクラは思わず前のめりになってバランスを崩しそうになる。


「母上。アカバネ・ジン、ただいま帰りました」


 礼儀が正しすぎるジンの態度に、母は困ったように笑みを浮かべる。


「もう、ジンったら。父さん相手じゃあるまいし、正式な場でもないんだからそこまで堅苦しくしなくてもいいのよ」


「もー、兄さん早くしてー。私これ重いんだから」


 前後からそれぞれ言葉を投げかけられ、苦笑いを浮かべたジンはサクラが先に部屋に入れるように道を開けると、改めて母の方へ向き直る。

 次は引き締まった真面目な顔ではなく、緩く解けた家族の顔として。


「……母さん。ただいま」


「ええ。おかえり」


 家族らしい挨拶を済ませた兄の横を通り抜け、わっせわっせと大きな袋をキッチンまで運びいつも米を置いている定位置にゆっくりと下ろした。

 非常に物理的な肩の荷をようやく手放せたことで、ふぅっと息をつく。本当はこの後米の保存容器に移したりする作業が残っているのだが、それはおそらく母がやっておいてくれるだろう。何だか一気に体が軽くなった気がする。


「サクラ。今日の晩御飯はご馳走だから、マチエさんとこのバイトが終わったら早めに帰ってきなさいよ」


「はいはい~。あ、唐揚げはある?」


「あるわよ、安心しなさい。なかったらどうせ文句言うんだから」


「さすが母さん分かってる~!」


 まったく現金な子ね、と呆れたように母が笑うが、サクラとしては夕飯に好物の唐揚げが待っていると分かっただけでも朗報である。

 開けた障子の辺りからジンまでもくすりと笑った気がしたが、おそらく気のせいではないだろう。


「お前相変わらず唐揚げ大好きなんだな」


「もちろん! もっと言うなら鶏肉の素揚げが一番! それだけでも美味しいしご飯にも合うし、鶏肉だから栄養価も高い! スタミナも付く! あー今すぐにでも食べたくなってきた」


「一応は女子なんだから、ほら、もっとスイーツ系とか答えれないのか?」


「え~、甘いものそんな好きじゃないし」


「ふふっ、この子ったら妙なところだけお父さんに似てるからね」


「確かに」


「ちょっと。それ私褒められてるの?」


 家族間での何気ない会話。どことなくバカにされてるような気もするが、まあ、久々に一家揃った日なのだ。これ以上突っかかるのは我慢しておく。

 と、ジンがふと思い出したように口を挟んだ。


「それじゃあ俺は父上に挨拶してくるよ。今父上は?」


 ジンの問いに、母は少し悩みながら首を捻る。

 部屋の数が多いだけに、「○○へ行く」「○○にいる」といった話を事前に聞いていないと、家の中でさえ誰がどこにいるのか分からないのも、やはりこの家の欠点だろうか。


「たぶん書斎じゃないかしら……? 最近は朝御飯の時間まで仕事で篭りっ放しだからね」


「書斎……?」


 ジンがさぞ意味が分からないように疑問の声を上げる。

 会話をぼーっと聞いていたサクラは、あっ、と真っ先に気付いた。


「母さん、空き部屋を父さんの書斎に改装したのは二ヶ月前だから兄さんは知らないはずだよ」


「あ、ああ! そういえばそうだったわね」


「……? まさかまた何か工事したのか?」


 トイレを増やした件といい、一般の家庭に比べれば割と高い頻度で部屋の改築などを行っているこのお屋敷。ジンがついそう予想してしまうのは当然といえば当然か。

 しかしサクラは、少し呆れた様子で首を横に振った。


「最近の父さん、どこと何の仕事してるのか知らないけど、書類と睨めっこするデスクワークが増えてきたみたいでさ。仕事用の部屋ってことで、本棚とか机とか少し移動させたの」


「………そうか……」


 サクラの応えに、一瞬妙な沈黙を挟んだが、納得したようにジンは頷く。


「しかし、どこの部屋を書斎にしたんだ?」


「ええっと、東から見て近い空き部屋の……って口で説明してもいっぱいあるから分かんないよね。私案内するよ」


「あ、ああ。悪いな」


「別にいいよ」


 今度は自分が先行する番だと、別に張り合ってるわけでもないのにひょこひょこと調子よさ気に部屋を出ようとするサクラ。その際、背後から母の声が響いてきた。


「二人とも、8時には朝御飯できるからそれまでには戻ってくるのよ。あとジン、父さんにもそう伝えておいて」


「了解ー」


「ああ」


 足を止めることなく適当に返事を返しつつ廊下へ出る。ジンは一歩下がって、サクラが部屋から出たのを確認するとゆっくり丁寧に開けられた障子を再び閉じた。


「サクラ」


「ん?」


「父上は……、」


 そこまで言いかけて、しかしそれ以上は思いつめたような態度で沈黙してしまうジン。思わず不思議そうに彼の様子を伺ってしまうが、数秒の末、兄らしい茶化すような笑顔を浮かべた。


「いや、なんでもない。さぁ案内頼むぞ~」


「……? まあいいけど」


 違和感が覗いた彼の態度が少し気になるサクラであったが、そう言う以上はなにを聞いても応えてくれないのがジンだと、彼女はよく熟知している。特に気に留めるのはやめて、サクラは兄の案内役として父の書斎へと足を向けた。




 ―――とは言っても、場所さえ把握していればすぐに辿り着く。

 案内とはいうものの特に難しい経路を案内するわけでもなく、呆気なく父の書斎前に辿り着いた。

 廊下と遮るのは障子ではなく襖にしている。和風の建築物ということで防音性なんてたかが知れてるが、ほんの少しでもないよりかマシじゃないかと他の部屋の襖をこちらに付け替えた記憶がある。

 ノックするとガタガタうるさく響くため、サクラは小さく襖を横へずらすと、その隙間から中に入るであろう父に小声で話しかけた。


「おとっ……、ち、父上。おはよう……ご、ざいます」


 無理に丁寧な口調で話そうとして、非常にぎこちない喋り方になってしまう。背後でジンが苦笑いしてるのが見なくても伝わってきて、僅かに顔が熱くなってしまう。

 父であるアカバネ・カロクはとても厳格な人だ。家族団欒の場などはともかく、一対一で真面目な会話を話すような場ではできるだけ公の場と思い、丁寧な口調で話すよう小さい頃から指導されている。……まあ、サクラに関してはいつまで経ってもぎこちなさが取れないため、実はほとんど諦められているのだが。


「……サクラか」


 部屋の中を覗くのと同じタイミングで、座布団に胡坐で座り机と向かい合っていた父が肩越しにこちらへ振り向いてくる。僅かに白髪が混じった髪に無精ひげ。だが、その顔つきからは確たる甚大なオーラを漂わせている。

 こういった雰囲気で話すと肉親であるというのに未だ緊張してしまうサクラ。とはいえ、用件さえ伝えればサクラの出番はそこまでだ。襖を一枚分開けきると、後ろに立つジンが父からも見えるように一歩横へズレた。


「ジン兄さまがお帰りになりました」


 父の目線が兄へと注がれる。彼は特に物怖じすることもなく一歩前へ踏み出すと部屋の中へ踏み入り、小さく頭を垂れた。


「父上。アカバネ・ジン、只今帰りました」


「……うむ。御勤めご苦労であった」


 父からの労いの言葉を受けて、ジンは頭を上げる。

 互いに僅かな沈黙の末、父が重たい調子で再度口を開いた。


「ジンよ。向こうでの調子はどうだ?」


「……特に滞りもなく、これといって問題はありません」


「そうか……。では、問いを変える。お前の目から見て、向こう側に変わった動きは感じられないか?」


 一体何の話をしているのか、傍から聞いてるサクラにはまったく意味不明である。しかしそんなサクラの心中などお構いなしに、二人のやり取りは進む。


「以前同様、特に変わりは見受けられません。我々の動きも気付いてはいないかと」


「うむ、ならば良し。……ジン、これはお前自身が重々承知していることだとは思うが、連中と我々アカバネ一族を繋ぐ唯一の線は、他でもないお前だ」


 父の言葉に、ジンは真剣な面持ちで応え、じっと聞き入っている。

 その横顔から伺える兄の様子は今まで見たこともないような鋭いもので、サクラも思わず緊張してしまう雰囲気を漂わせている。


「くれぐれもお前自身の動きと我々の目論見を気取られるなよ。今回の一件はたった一つのミスが、我々一族にとって大変なことに繋がりかねん」


「……はい。分かっています」


 ジンの回答に父は満足げに小さく頷くと、その視線が次いで再びサクラの方へと注がれた。


「サクラ」


「は、はい!?」


 突然話の矛先が自分に向いたことでビクッと体が跳ね上がるサクラ。我ながらとても見っとも無いと猛烈に恥かしくなってしまう。


「ジンとしばらく大事な話がある。悪いが、外してもらえるか」


「え? ……あ、分かりました」


 てっきり今のやり取りだけで父と兄の話は終わりかとばかり思っていたが、きっとこれからまだジンの仕事に関することで重要な話でもあるのだろう。

 除け者にされたようで少し気分は悪いが、いつも二人の仕事に関しては隠し通されて半ば諦めている。それに、仮に話に混ざったところで今さっきみたいにまったく着いていけずどの道除け者であるため、別に食ってかかる気もない。

 素直に父の言葉に従って、部屋の襖を閉じようと手を掛けた。


「サクラ」


 と、した時。

 ジンがこちらへ振り向き、薄く笑顔を浮かべながら屋敷のある方角へと親指で指を指した。


「道場で待っててくれ。用事が済んだらすぐに向かう」


「……! うん!」


 先程交わした約束を改めて口に出され、一瞬でご機嫌が戻ったサクラは元気よく兄の言葉に頷いた。

 その後そっと襖を閉じて、会話が聞こえてしまうのもあれなのでそそくさとその場から立ち去る。歩きながら、当然機嫌よく歩調がリズミカルになってるのは言うまでもないが。


(久々の兄さんとの稽古、頑張らなくちゃ。あっと驚かせてやるんだから!)


 気合を入れるように両手を胸の前でぐっと握り締め、サクラは駆け足に屋敷の道場へと足を向けた。




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