Shall we …… ?

南雲遊火

Shall we …… ?

 どうしてこうなった。

 経緯を思い返しただけで頭痛がする。馬子にも衣裳どころか、脱ぐ事を考えるのもめんどくさくなるレベルに着飾られたジュッドは、はぁあぁぁと盛大なため息を吐く。

 此処は、ラディアータ領セーガ公国。遠く離れたトルクメキアを主な拠点として活動する傭兵ジュッドが、国境を越えてまでわざわざ指名で受けた依頼は、なんのことはない。ただの、大公女の暇つぶし。

 半鳥族がよほど珍しいのか、べたべた翼を触られ、彼女の優秀な家臣たちに着ていた服をひん剥かれ、浴室にドボンされ、現在に至る。

 ほとんど歳は自分と変わらないと聞いているが……。表情もそれなら、思考回路も子どもっぽく、やることなすこと意味が解らない。

「この部屋で、待機せよ!」と、大公女にお尻を蹴り飛ばされるように押し込められた部屋で、ジュッドは思わず目を見開いた。

「え? メイファ?」

 真っ赤なドレスに、長い黒髪を彩る、真っ赤なヴァージリールの花の髪飾り。

 目の前には、城下の宿で待っているはずの……自分と同じよう、見事なまでに着飾られた、妻の姿があった。

「……」

 無言でお互い、見つめ合う。自分の顔はわからないが、たぶん、妻と同じよう、真っ赤になっているに違いない。

 隣接する部屋に、楽団が待機していたのだろう。空気を読んだかのように、タイミングよく、音楽が流れ始めた。

 こういう時、どう、言えばいいのだっけ……。育ちがよく、教養のあった養母の言葉を、一生懸命思い出す。

「ご……ご一緒……しても、いいですか?」

 視線が泳ぐジュッドに、苦笑を浮かべながら、差し出した手を、彼女はとった。

「踊っタこト、私も、無いヨ」

 片言の言葉に、ホッとする。どこかのお姫様のように思えたが、いつもの、彼女だった。

 思い起こせば結婚はした。が、式を挙げる余裕などなく、婚前同様、一緒に傭兵業に励む日々……。

 ……遅くなった結婚式だと、思えばいいか。あの大公女がこちらの事情を知っているとはとても思えなかったが、ジュッドは前向きに、考えることにした。

 音楽に合わせ、ぎこちないながらも二人は踊る。恥ずかしさはなかなか消えないが、ある思いが、ジュッドの中に芽生えた。

 きっと、言葉にすることはない。けれど。

 何処に雇われても。トルクメキアから離れることになっても。

 帰る場所は、きっと、此処彼女の側だ。



「上手くいったようですわね。タイシャさん」

「……大公女。御戯れがすぎますよ」

 満足げに微笑む大公女に、側に控える侍女が、深く眉間にしわを寄せた。

「あら。私は、お兄様がどんな方か、知りたかっただけですのよ。もちろん、出来る事ならあなた同様、仲良く一緒に暮らしたいほど」

 それこそ、御戯れです……と、タイシャはぐっと顔をしかめる。

 隠された「異母兄」の存在の噂は、昔からされてきたことなので知っていた。

 けれど、自身の出自を知らないその兄は、自由に生きる「砂漠の鷹」。

 ならば、妹の「ワガママ」で。ほんの少し、「彼の記憶の片隅」に、残るくらいの接点を、持っても良いではないか。

 彼との何気ない会話の中で、妻がいることを知った。彼女の出自と暮らしぶりを家臣たちに調べさせ、今回の事を思いついた。

「「誰か」の幸せな顔を見ることは、為政者の幸せであり、義務であると、思わなくて?」

「……本当に」

 御戯れが、過ぎます……。真面目なタイシャは、奔放な異母姉に、小さくため息を吐いた。

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