第3話不形の訪問者③

明くる日、目を覚まして台所にいくと朝食が既に丸テーブルの上に用意されていた。用意した本人に「おはよう」と声を掛けるが返事がない。椅子に腰を掛け表紙の部分に「BL」と書かれている雑誌を読みふけっていた。

近くまで寄ってもう一度「おはよう」と言うとようやく俺の存在に気づき「お、おはよう」と驚きの表情と共に返事が帰ってきた。

余程のお気に入りなのだろう...俺が朝食を摂っている時でさえ、構わず読み続けているのだから。

その後、ひと通りの身支度をすませベホヌズソさんとの待ち合わせ場所に向かった。


「ここであっているよな?」


「ええ、うちの相談所から一番近い噴水のある広場と昨日記入もらった用紙に書いてあるのでここだと思いますよ。あと要望の欄に名前を呼ぶ時はベホと略してもらって構わないとも書いてますね」


「そうか、なら後の不安は仕事が見つかるかどうかだな」


「異世界系の主人公なのになんの能力も持っていない奴よりは仕事あると思いますよ」


「言っておくけど俺は悪くないぞ作者が悪い。後な能力を持ってない主人公が魅力が無いと思うなよ。人と違うっていうのはステータスだからな」


ノートは呆れたと言わんばかりの表情をしていた。

そんなたわいもない話をしながら時間を潰しているとベホさん達がこちらに向かってくるのが見えた。見たところ五人ほど仲間を連れて来てくれたようだ。


昨日、帰り際に同族で市民権が欲しいと思っている奴らをできる限り連れて来てほしいと彼女に頼んでおいたからきっと誘って来てくれたのだろう。


「昨日は家内がお世話になりました」


低く太い声が聞こえた方を見ると固まりかけの溶岩の様な赤黒くどろっとしたスライムが礼儀正しくお辞儀をしていた。

話を聞いてみると昨日来たベホさんの旦那さんとのことだった。


お互いの自己紹介を終えると仕事を探しに集会所へ向かいそこで受付の人に彼らにも出来そうな事を紹介してもらった。

取り敢えずは働けることさえ示せればどうにかなる、一日で見つからなくても数日あれば見つかるだろうと楽観視していたのだがこれが大誤算だった。

結論から言おうベホさん達の仕事は見つからなかった。というより体がスライムというのが主な理由で拒否された。

配達業に就くと物を湿気らせてクレームがきたのでNGを喰らい、土木業はそもそも機材などを扱えないので問題外、売り子はスライム族は背というより体自体が人間の膝の辺りぐらいしか無いので人が混雑している場所では気付かれにくいという理由で落とされた。

まぁ理由を言ってくれるのはましな方で彼らの姿を見た瞬間に拒絶する人達も中にはいた。


「仕事を探すこと自体がハードモード過ぎて笑えてくるんだがどうすれば良いんだ。自分の仕事を見つけるより難しいんだが....」


俺は近くにあったベンチに腰掛け天を仰ぎながらノートに愚痴をこぼす。


「そうですね。集会所の方に紹介してもらっている時点で見つけるのは難しいかもしれませんね」


「それは、あれか?本人達で見つけようとしない限り道は切り開けないとかそういう少年漫画的な根性論の話をしているのか?」


「いえ、そうではなく彼等が紹介してくれているのは今この国にいる種族に出来る仕事なので新しく入ってくる種族には合っていないものが含まれています。故に見つけるのは難しいということです」


彼女はスライム達を見ると一瞬ハッと何かに気づいたような顔をして「稀に見つかりはしますが」と焦って最後に付け足した。

しかし、あまりにも遅すぎるフォローだった。その証拠に今まで声も出せないほど疲れていたスライム達から「もう終わりだ」などと言う大学で留年が確定してしまった人が言うような台詞が聞こえてくる。


残念だがスライム達よ本当に終わったと思った時は「もう終わりだ」なんて台詞は出てこないんだよ。

本当に絶望した時は、周りの声は聞こえなくなって返事を返すことすら出来ないかあまりの戦闘力の違いに驚き何もしていないのに全身汗まみれになるかのどちらかと相場は決まっているのだ。

ただ、不味い状況には変わりはない。


「まぁベホさん達に合ってる仕事が見つかるまで付き合うので安心して下さい」


「でも、このまま見つからないかもしれないですよ」


「諦めない限り最後まで共に探しますよ」


絶望しかけた者にとっては側で共にいてくれるという人の声は力にはならなくとも心を縛りつける様な不安を少しは緩めてくれるということを俺はこの世界に来てからよく知っているから出た言葉だった。


それにこの人達は職探しはまだ始めたばかりなのだ絶望するには早すぎる。これは自論だが見た目が不快な虫達にも自然の中で役割があるように神は意味のない生は与えないと考えている。とすれば彼等にも自身の強みさえ見つければ他者から必要にされるはずである。


問題は彼らの強みとは何かということか。

そんな話をしている内に日が沈みかけ夜が訪れようとしていた。

ふぅとため息を吐くと「今日は終わりにしてまた明日探しましょう」と言い解散することにした。

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魔王と勇者の相談役 しんおのれ @true_me

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