第13話 迫る式典

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「――とまぁこんな感じです」


 みっちりと時間を掛けて地岳巨竜アドヴェルーサについて語り終える頃には既に日が傾き、窓から見えるグランアシュの町並みはすっかり黄昏色に染まっていた。


「うむ、ご苦労。長々と話させてすまなかったの」

「いえいえ」


 俺達とダグザさんは互いにふぅと息を吐き、テーブルの上に出されていた茶に口を付ける。喋り通しでカラカラになっていた喉が潤い、生き返っていく感じがした。


「しかし……まるでお伽噺のようじゃな。いや、君達の話を疑っているわけでは無いぞ? ただ内容があまりにも物語染みていてな」

「いやーまぁ、ぶっちゃけ否定は出来無いっすね」

「改めて振り返ると、私達中々にドラマチックな事やってますよね……」

「カッカッカ! しかし全て事実なんじゃろ?」


 ダグザさんの問いかけに俺達は首を縦に振る。


「うむ。しかし地岳巨竜アドヴェルーサの最期を生きている内に拝む事になるとはの……中々どうして、長生きはしてみる物だわい」


 ふふっと笑うダグザさん。湯飲みに入った茶を一息に飲み干してから、改めて俺達全員の顔を見渡した。


地岳巨竜アドヴェルーサの討伐という前代未聞の偉業、誰か一人でも欠けていたらなしえなかったじゃろう。全くもって君達は良い仲間に巡り会えたな」


 そう言われると、何だか照れくさい。

 だが誇らしくもある。俺達は最高のパーティーだという自負があり、それが地岳巨竜アドヴェルーサの討伐という結果を経て偉い人に認められたって感じだからな。


「さて、時間を取らせて済まなかったの。そろそろ月が昇るじゃろうて、直ぐに迎えの者を用意しよう」

「あざっす」

「ああそれと。これはお礼というかお土産じゃ」


 そう言ってダグザさんは何やら引き出しをゴソゴソと漁る。そしてちょいちょいと手招きをして取り出した物を俺達に握らせた。


「これは……鱗?」


 ダグザさんが渡したのは、赤く煌めくドラゴンの鱗だった。


「儂が初めて討伐したドラゴンから剥ぎ取った物じゃ。お守りにでもしてくれい」


 マジかよ。ギルドのトップたるグランドマスターが初めて倒したドラゴンの遺品とかプレミアム感ヤバいな。


「ほ、本当にいいんですか?」

「よいよい。どうせ儂が持っていても引き出しの肥やしになるだけだわい。何なら換金して小遣いにしてくれても良いぞ」

「いやそれは流石にしないっすよ……」


 はははと苦笑いをしながら、俺は受け取った鱗を夕陽に晒してみる。

 相当昔の代物だろうに、些かも色褪せない輝き。状態を見るだけでこれの持ち主が相当に強いドラゴンだという事が分かった。


「……ってか、何だか鱗が熱くなってるような」

「む、それの主は日の光を浴びて覚醒するドラゴンじゃったからの。そのままにしてると燃えるぞい」

「あぶねっ!?」


 ダグザさんの話を聞いて慌てて俺は鱗を懐に仕舞い込み、他の三人も手早く鱗をポーチに入れる。心臓に悪い……


「カッカッカ! さて、次に会うのは叙勲式でじゃな。四人の晴れ姿、楽しみにしとるぞい」


 そう言葉を交わしたのを最後に、俺達はセントラルギルドを後にした。


 ◇◆


 ホテル・≪ルーナ=ドラコ≫に戻ってきた俺達は夕食を済ませた後、シャワーを浴びてから俺の部屋に集まっていた。


「何て言うか、グランドマスターは大分イメージと離れていた人でしたね」

「ん……結構お茶目、だった」


 リラックスした様子で語るリーリエとラトリア。コトハは横でうんうんと相槌を打ちながらグラスに入った酒を優雅に口に運んでいる。

 俺はと言えば、そんな三人を眺めながら――倒立をしていた。右手の小指一本で。


「……ムサシさん、普通に座りませんか? 凄く落ち着かないんですけど」

「気にするな!」

「気にしますよ!」


 しょうがないだろ、こっちに来てから碌に身体を動かす時間も取れないんだから。こうやって空いた時間に少しでも運動的な事しとかないと。


「まぁそれはさて置き」

「さて置くんですか……」

「ダグザさんの話でちょっと気になるところあったんだが」

「気になるところ?」

「うむ」


 倒立の状態で話す俺に、三人は視線を集める。


「ダグザさん、晴れ姿が楽しみとか言ってじゃん? って事は叙勲式は晴れ着で出席する事になるんかね」

「そうなりますなぁ」

「マジか、俺知らんかったぞ」

「ハンブルさんが説明してましたよ……」


 わぁーお全然聞いてなかったわ。まぁ問題ないんだけどな、こうしてリーリエ達がしっかり聞いてくれてるわけだし!


「ちゅーか、うち等は渡された自分の晴れ着確認したけど……その様子やとムサシはんはまだみたいやね」

「てか多分受け取ってないぞ」

「あ、ムサシさんの晴れ着はちょっと待って欲しいって言ってましたね」

「何で?」

「合うサイズが無いからです」

「了解把握」


 なるほど、そりゃそうだと納得せざるを得ない。何せこの体格だ、一般仕様の服なんざ着た日にはピッチピチからの衣服爆発で世紀末スタイルになってしまう。


「……防具付けて出席しちゃダメかな」

「ダメです」

「いやだってホラ、俺の防具って割とそういう厳かな場所で映えるデザインしてるし……」

「ダ・メ・で・す」

「ハイ」


 横着しようとした俺をリーリエがピシャリと一刀両断にする。

 正直、晴れ着とかその手の服結構苦手なんだけど……まぁこればっかりはしょうがない。腹を括ろう。

 それから暫く雑談をした後、リーリエ達はそれぞれの部屋へと戻っていった。さて、俺も適当に切り上げてさっさと寝よう。

 叙勲式は明後日、もう目の前に迫っているからな。

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