第12話 そして俺達は語る
今のやりとりで、俺の中にあったグランドマスター……ダグザさんへの印象はくるんとひっくり返った。
威厳があるのは間違いないのだが、その威厳は話す相手によって出したり引っ込めたりするらしい。人間だから当然といえば当然なのだが。
「ふふっ、どうじゃ? 幾分か緊張は解れたかの?」
「まぁ、そうですね。お陰様で……」
カッカッカと笑うダグザさんに曖昧な返事を返しながら、俺はチラリとリーリエ達を見る。いずれも、部屋に入ってきた時よりも大分表情筋は緩んでいるように見えた。
「……さて!」
俺達の様子を見て、ダグザさんはパチンと手を叩く。どうやら本題に入るようだ。
「先ほども言ったが、今回君達を呼んだのは叙勲式の前に一度話をしてみたかったからじゃ」
「はい」
「と言っても、内容は極めて私的な物。別に畏まった話をする訳では無いから安心してくれぃ」
合わせた手を揉みながら告げるダグザさん。その顔は心なしか楽しそう……というより、明らかにわくわくしている様子だった。
「では、一体どんな話を?」
リーリエに問われた瞬間、ダグザさんはクワッと目を見開いて立ち上がったかと思うとずいと机から身を乗り出した。
一瞬身構えた俺達。しかしその口から飛び出したのは――
「決まっておろう! かの
歳を感じさせない、活力が漲っている声。少年のような輝きを放つその姿に、俺達はポカンと口を開けた。
「……はっ、すまんすまん。つい年甲斐もなくでかい声を出してしもうたわい」
俺達の反応を見て我に返ると、ダグザさんは慌てて椅子に座り直す。コホンと一つ咳払いをすると、改めて視線をこちらに向けた。
「大体分かったと思うが、儂が君達に聞きたいのは
先ほどとは打って変わり落ち着いた調子で語るダグザさん。ふっと顔を上げて宙へ投げかけた視線は、何処か遠い場所を見ているような気がした。
要件については分かった。しかし
「今、『そんなん報告書読めばいーじゃん!』とか思ったじゃろ?」
「うぇっ!? いやいや全然そんな事思って無いっすよホント!」
不意に図星を突かれた事で、俺の声は思い切り裏返った。バカ、と小さくリーリエの声が聞こえた。
「よいよい、普通はそう思うじゃろ。じゃが、儂はその現場に居た者……当事者である君達の生の声で一連の始まりから結末までを聞いてみたかったんじゃ」
くつくつと笑いながらダグザさんは椅子の背もたれに体を預ける。ギシリと乾いた音が部屋の中に響いた。
「無機質な文字だけでは、数値的な情報しか伝わらん。じゃが人の口を通せば、そこには感情が乗る。当時の情景、君達の心情……そういった物も含めて、儂は知りたい。何分、昔から好奇心は強い
それを聞いて、ストンと疑問は消えた。
ダグザさんは、俺達よりもずっと長い間スレイヤーとして前線に立ち続けた人だ。それどころか、全スレイヤーの頂点であるグランドマスターにまで上り詰めた所謂偉人の部類。
そんなダグザさんだからこそ他の誰よりも気になるのだろう。過去に幾度も人類を脅かしてきた
「勿論、無理にとは言わん。君達があまり喋りたくないと思うのなら、儂も追求はせん」
「いえ、そういう事でしたら話させて貰います。みんなも……」
いいよな? と聞く前に、リーリエとコトハとラトリアは首を縦に振った。同意は取れたようだ。
「ただ、ちょっと時間はかかります。何分その、最初から最後までってなるとどうしても端折れない部分とかもあるので」
「構わんよ。今日は君達と話すために一日空けてあるからの。途中で食事や飲み物も持ってこさせよう」
どうやら、初めから長丁場になる事は見越していたようだ。タダ飯も食えるのなら、俺としては言う事無しである。
「じゃあ、話させて貰います。取り敢えず、最初はここに居るラトリアと出会った時からなんですけど――」
そして俺は語り出す。リーリエ達と代わる代わる、出来るだけ鮮明に当時の事が伝わるように言葉を選びながら一つの物語を紡いだ。
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