第54話 三つのピース
ゆらりと深紅の感情が鎌首を擡げた時、俺の右腕にポンと手が置かれた。
「ムサシさん」
「……悪い」
怒気を感じ取ったリーリエがとった行動のお陰で、俺は湧き上がる熱を何とか捻じ伏せる事に成功した。
危ねぇ危ねぇ、ガレオの忠告を聞いたにも関わらずコレじゃいかん。今俺がいくら憤激しても、ラトリアの過去は変わらない。
やらなきゃいけないのは、ラトリアの話を全て聞いた上で、これからどうやって
「ラトリア、その得物を見せて貰ってもいいかい?」
「ん……はい」
アリーシャさんの求めに、ラトリアは素直に応じる。
「……随分と、手が込んでるねぇ。アタシは専門じゃないが、それでも分かるくらいに武器一つに積むにしちゃ過剰な位の
「普通、この手の物は出来るだけ
それは、確かに宜しくない。近接職にしろ
俺みたいに素手でも
「恐らく、コイツはラトリアの六属性混合魔力を不足無く生かす為に、敢えて
眉間に皺を寄せて、アリーシャさんは溜息を吐いた。
「でも、コイツがラトリアの武器としての役割を十全にこなしてきたのは事実。どんな経緯で作られたにしても、道具に罪は無い」
「ん……ラトリアも、そう思う」
アリーシャさんが返した
度し難い奴等から与えられた物とは言え、俺達に出会うまでの間、自分の命を助けて来た相棒なのだ。今更邪険に扱っても仕方が無いから、これからも存分に矛としての役割を果たして貰うのが最善だろう。
「でも、不思議ですね……」
ふと、リーリエがそう口にする。どうやら今までの話を聞き、何か引っ掛かる事があった様だ。
「
「あー、確かに。武器として使えるって事は分ってたんだろうが、よくもまぁ――」
「ちょっと待ちな」
俺とリーリエの会話に、アリーシャさんが怪訝な表情で待ったを掛ける。あれ、何かおかしな事でも言ったか?
「
「あっ!」
しまった、失念していた。
これに関しては、割かし重要な話だと思うので、俺達はかいつまんでアリーシャさんに
◇◆
俺達の話を聞いたアリーシャさんは、腕を組んで考えを巡らせる。暫しの無言の後、アリーシャさんは口を開いた。
「事情は、分かった。アンタ達の言う通りなら、確かに
「特殊、ですか」
「ああ。ムサシ、アンタの
「そうっすね。中々、ユニークな機能が付いてる変わり種っすけど」
「そう、それだよ」
腕を組んだままのアリーシャさんが、一指し指をずびしと俺に向け、話を続けた。
「
アリーシャさんの言葉に、俺はピンときた。
その仕組みは、超が付く業物の新生
「ここからはアタシの推測になるが……恐らく、その博士とやらはラトリアに渡した
「それは、マジカルロッドが
「勿論、それもある。でもね、
「えっ!? えっと、私の光属性と闇属性に合わせた
「うんむ。コトハ、アンタのは?」
「うちのも、雷属性に特化した
「だろうね。アリア、アンタが現役の頃に使ってた弓は?」
「お二人の様に特注ではありませんが、風と氷の
三人がそれぞれ答えたのを聞き、アリーシャさんは頷く。俺とラトリアは、揃って顔を見合わせた。
「武器ってのは、それが特注にせよそうでないにせよ、自分の属性に合った奴を選ぶのがセオリーだ。と言うより、自分とは違う属性に対応した武器を選んでもメリットが無い」
それは、その通りだと思う。態々自分の持っている属性を最大限に生かす事が出来ない武器を選ぶ理由なんざ無い。
「で、だ。今の話をした上で皆に聞きたいんだけども……ラトリアの持つ六属性混合魔力に対応した武器なんて、
アリーシャさんの問いに、俺達は言葉に詰まった。
連中がラトリアを利用して研究していた六属性混合魔力は、余りにも特殊だ。中途半端な
となれば、望ましいのは過去に存在した
「それは……難しいと、思います」
「ああ。アタシも、そう思う……だから、見つけ出した。今の技術では再現不可能な仕組みを持ち、自分達の要求に応えられるスペックを有した――
アリーシャさんがそう口にした時……カチリと、頭の中でピースが組み合う音がした。
「アタシはさっき言ったね、『
つまり、
「――ラトリアの魔力に、
俺がそう口にすると、アリーシャさんは静かに頷いてみせた。
「学院は、ギルドで管理している
ふぅ、と一つ息を吐いて、アリーシャさんは天井を見上げる。視線を元に戻すと、全員の顔を見渡して口を開いた。
「ラトリア、六属性混合魔力、
アリーシャさんの言葉で、俺の背中に薄ら寒い感覚が奔る。
自分の目指すモノの為には、人間だろうが道具だろうが何でも手に入れると言う一種の執念を、俺は“博士”と言う人物像の中から感じ取った。
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