第36話 レーザー兵器、的な?

 俺がその結果を伝えると、ラトリアの眉が八の字になった。落ち込んでいるのが丸分かりである……いかん、このままだと俺が悪い人みたいだ。ちゃっちゃとフォローしよう。


「べ、別にラトリアを責めてる訳じゃないぞ? ぶっちゃけ、こうなる事は予測出来てたんだよ……この濃緑の外殻の持ち主は、さっきの二体とは

「そうな、の?」

「ああ」


 俺は支柱が付いたままの外殻を見詰めながら、アイツの姿を思い出す。強者の道を歩み、他者を見下ろし圧倒的な力で喰らう日常を生きる存在。

 見ず知らずのこの世界に降り立った俺に“生きる”事の過酷さを教え、死に物狂いで強くなると言う選択肢を取らせた張本人。


「こいつは……ヴェルドラってドラゴンの外殻だ。【碧鋭殻竜へきえいかくりゅう】何て呼ばれ方もしてるな」

「ヴェルドラ……」

「そうだ。ラトリアには、俺とリーリエの出会いについては話したっけか?」

「ん……ラトリアが助けてもらった時、≪ミーティン≫に帰る馬車の中で……リーリエが、山でドラゴンに食べられそうになっていた所を、そこに住んでいたムサシが助けたって……あっ!」

「おう、そのドラゴンが碧鋭殻竜ヴェルドラだ。これは、その時に手に入れたヤツの外殻……俺が十年過ごした“魔の山”っつー激烈に生存競争が激しい環境で、生態系の頂点に君臨していた絶対王者だ」


 十年経った今でも思い出せる。いきなり訳の分からん所に放り出されて呆然としていた時にアイツが現れ、俺の全身が一瞬で恐怖で凍り付いた時の事を。


碧鋭殻竜ヴェルドラは大型種に分類される肉食性のドラゴンだ。“大型種”って点はこの間討伐した赤晶鉱殻竜カルブクルスと同じだが、アイツとは正反対に滅茶苦茶凶暴な野郎でな。目に入った食えそうな連中は片っ端から襲う怖ぇ奴だった」

「よ、よく倒せたね……怖く、なかったの?」

「リーリエを助けた時は特に怖くは無かったな。つっても、まだ満足に戦う術もなく体も小さくて貧弱だった頃は怖くて仕方なかったが」


 当時は眠る事さえ怖いと思ったのを覚えている。誰も居ない洞窟内で体を丸めて、家族の事を思い出して鼻水垂らしながら泣いた夜もあったな。


「……ムサシに、弱い時なんて、あったの?」

「そりゃあるよ! あの時のまま今のやらかしてたら、とっくの昔に死んでるぜ……リーリエには魔導杖ワンドで頭をカチ割られ」

「ちょっ!?」

「アリアには氷漬けにされた後どっかに吹き飛ばされ」

「はい?」

「コトハにはズタズタに引き裂きさかれた後に喰われてたな」

「うちを猛獣みたく言わんといてくれる!?」


 おおっと、言い過ぎちまった。あ、でもアレか……そもそも今の俺じゃなきゃ、山降りる前に死んでるな。そうなると、リーリエ達と出会う事すらなかった訳だなぁ……鍛えて良かった。


「どうします……?」

「後で、ムサシさんにはワタシ達への認識を変えて貰いましょう……」

「せやねぇ、みぃぃぃぃ~~~~っちりと、せんとなぁ」


 お、怨刃無死おはなし? やべ、このままだと後が怖い……話を戻そう!!


「と、兎に角! そんな貧弱一般人だった俺だが、こうやって鍛えて強くなり、かつての恐怖の象徴だった碧鋭殻竜ヴェルドラを倒せる位になった……つっても、リーリエと出会った時の個体を討伐した時は不意打ちみたいなモンだったけどな。そっから暫くしてまた別の個体と戦う機会があって、その時はきっちり正面からブッ倒したけど」


 今思い返せば、リーリエの時は相当無茶をしたんだろうなと思う。

 あの時、俺は自分の強さを疑わないレベルまで到達していたから余裕シャキシャキって感じでリーリエに大口を叩いていたが、よくよく考えりゃ今まで一度も戦おうと考えた事の無い奴を相手にするってのに、よくもまぁあそこまでデカい態度をとれたもんだ。


「兎に角、碧鋭殻竜ヴェルドラってのはそう言うヤツで、さっきの鉤竜ガプテル岩殻竜ヴラフォスとは比べ物にならない野郎なんだよ。この外殻はそんなクソ強ドラゴンの身を守る鎧な訳だから、強度もピカイチだ」

「……赤晶鉱殻竜カルブクルスと、どっちが頑丈?」

「どうだかなぁ……単純な強度なら赤晶鉱殻竜カルブクルスに軍配が上がるかもしれんが、碧鋭殻竜ヴェルドラの場合、他の生物との殺し合いで鍛え上げられた外殻を持ってる訳だから、百パーセント赤晶鉱殻竜カルブクルスの方が頑丈っては言えんな」

「そう、なんだ……」

「そうなんです。だから、先の二つの的と同じ様に魔力弾を当てても弾かれるんじゃねえかとは思ってた……で、その予想は外れなかった訳だ」


 そう言いながら拳で軽く碧鋭殻竜ヴェルドラの外殻を叩いてやると、カンカンと小気味の良い音が返ってくる。

 うむ。手に入れてから時間が経過しているにもかかわらず、鉤竜ガプテル岩殻竜ヴラフォスの外殻を打ち砕くラトリアの魔力弾を食らっても、強度が落ちている気配は全く無い。


「……どうすれば、いい?」


 俺にそう問うて来たラトリアの声は、落ち着いた物だった。そこに失敗した事への恐怖等は無く、次にどうすればいいか、どうすればを越えられるかと言う一種の執念が感じられる……いいねぇ、良い感じに意識が変わってきているな。


「リーリエ、俺が話した使い分けの話は覚えてるか?」

「あ、はい。単発式と持続式、ですよね?」

「そうだな。ラトリア、今まで使って来たのは全部単発式だが、次は持続式を試してみないか?」

「持続……ずっと撃ち続ける、ってこと?」

「YES! つっても、さっきの魔力弾を連射する訳じゃないぞ? 始めにラトリアがやった魔力操作と圧縮、それをもっと多い魔力を使ってを作るんだ。太さは今の単発式の時と同じ位でいいから、それをながーーーーく引き延ばすイメージかな。この位置から、的の位置までな。で、魔力を切らさずに伸ばした線を標的に浴びせ続ける」


 単発式だけでも、眼を狙う等すれば有効なダメージが期待出来るだろう。だが、今回のメインは攻撃手段を増やす事にある。

 戦いはババ抜きとは違う。手札は多ければ多いほど良い。


「……それは、魔力消費的に危険では?」

「ご尤もだ、アリア。そりゃずっと撃ち続ければ危ない。だから、そこまで長く撃ち続けなくていい。俺が止めって言ったら、撃つのを止めて貰う……出来るか、ラトリア?」

「やる」


 即答か、その意気や良し。なら、俺は俺に出来る役割を果たそう。

 瞳の奥に熱を宿したラトリアの頭を一撫でし、俺は訓練エリアの奥へと向かう。そして、他の二つの的の隣に立つと、碧鋭殻竜ヴェルドラの外殻が付いたままの標的、その短くなった支柱を右腕でがっちりと握ったまま、真横へと持ち上げた。


「ラトリア、俺が的を持っててやるから今言った持続式で撃ってみろ」

「「「……えっ!?」」」

「あ、あぶないよ……」


 突然のゴリラの奇行に、四人の女子おなごはたいそう動揺しておったそうな……そりゃそうだな。でも、支柱が半分以上折れちまってる以上、こうするしかあるめぇ。


「大丈夫だ、竜の吐息ドラゴンブレス浴びてもピンピンしている俺を信じろ! あと自分の狙撃能力も信じろ、さっきの三発は一つも外さなかっただろ?」


 そう言って俺がガハハと笑うと、ラトリアは暫し躊躇し……マジカルロッドを、構えた。


「それでいい。リーリエ達も心配すんな、俺の頑丈さは知ってるだろ?」

「……分かりました。ムサシさんとラトリアちゃんを、信じます」

「ラトリアさん、今まで通り落ち着いてやれば大丈夫です。肩の力を抜いて……そうです」

「ムサシはん、ぜぇったいに動かんといてな?」

「わぁってるよ! ……ラトリア、イメージはさっき言った通りだ。魔力を増やして、増やした分を線の様に伸ばせ」


 俺が声を張り上げてそう言うと、ラトリアはこくりと頷く。そして、瞳を閉じて魔力操作に入った。

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