第27話 一難去ったと思ったらコレだよ!!
≪オーラクルム山≫は、その標高故に山頂を含めた三分の一程が雪で覆われている。その境目ははっきりとしており、緑が生い茂るエリアから一歩先に出れば、そこは白銀の世界。樹木は見当たらず、視界に広がるのは雪を被った岩肌ばかりだ。
「リーリエ、寒くないか?」
「大丈夫です。耐寒薬もちゃんと効いているみたいですし、コートも羽織っていますから」
「なら良し」
タンタンタンッ! とリズム良く地面を蹴って斜面を跳躍し続ける俺の背中から聞こえてきた返事を聞く限りじゃ、問題は無さそうだな。
ちなみに、このペースをリーリエに要求するのはあまりにも鬼畜過ぎるので例の如く俺がガッツリおんぶしている。
普通こんな急激に高度を上げていったら高山病に掛かるもんだが、魔法による加工を施した事前に気圧変化に対する耐性を上げる薬を飲む事で対処出来るのだとか。
……創薬技術に関しちゃ、俺の居た世界の遥か先を行ってる気がしてならない。勿論、魔法を使う事前提ではあるが。
「この分なら日が真上に昇る頃には山頂まで行けそうだな」
「普通ならそんなに早く辿り着けませんけどね……でも、心配なのは天候ですね」
「あー……確かに」
俺は進行方向の遥か先。天を突く頂の方を見ながらげんなりする。
そこは、遠目から見ても分かる位に重たい雲に包まれていた。アレ絶対に荒れてるやん……どんな荒れ具合になっているかは分からないが、もし雷雨と強風と吹雪の欲張りセット状態だったら最悪だな。
「それと、この山の上層付近をねぐらにしているドラゴンにも気を付けないと」
「ああ。【
「はい」
【
その巨体に恥じぬ超重量を持ち、その全身は茶色い体毛に覆われている。外殻が付いているのは背骨に沿った部分と、武器として使用する尾の先端と頭部だけだ。
何が一番驚きかって、コイツこんだけデカい体格してる癖に食う物が降雪地帯にのみ自生している苔みたいな植物だけって所だ。それプラス雪解け水だけで生活が出来ると本には書いてあったな。
もう燃費が良いとかそう言うレベルじゃねぇんだが……ドラゴンに人間の常識なんざ通用しないから、気にしてもしょうがない。
「食性は草食ですけど、縄張り意識が強いドラゴンですからね。下手にテリトリーに入り込んで襲われない様に注意しましょう」
「だな。俺等の目的は別な訳だから、無駄な戦闘をする必要も無いだろ」
そうこう話している内に、徐々に傾斜が厳しくなってくる。しかし、俺は気にせずガンガン進んでいた訳だが……目の前に現れた物に、思わず足を止める事となった。
「うわぁ」
「なにこれ、
「けー、つー……?」
「あ、気にしないで下さい」
そこにあったのは、空を貫くように聳え立つ巨大な岩壁だった。天辺が遥か遠くにあり、その先は雲に隠れて確認出来ない。
ほぼ直角のそれは、表面が余す所無く雪と氷で覆われおり、登攀は不可能……な訳無いんだよなぁ!
「最短距離で登って来たのが裏目に出ましたね……やはり、正規のルートでアプローチを掛けるべきでしたでしょうか」
「ヘーキヘーキ、ちょい待ってな」
そう言って、俺はその壁を思いっ切り蹴り付ける。
ガインッ! と言う音と共につま先に付いている三本の鉤爪が岩壁にめり込んだ。ぐっ、ぐっと感触を確かめてみると、ガッチリと壁をホールドしているのが分かる。よぉし。
「流石はゴードンさんが作った防具、素晴らしい強度だな。これならイケる」
「む、ムサシさん……もしかして」
「よしッ、登るぞリーリエ!」
「やっぱりぃ!?」
リーリエが俺の首に回した腕に力が入ると同時に、俺は勢いを付けて二足目を踏み出した。そのまま、梯子を上る要領でガンガン壁に足を突き立てていく。
そうして徐々にスピードを上げていき、途中からはほぼ猛ダッシュの形となって俺達は上へ上へと突き進んでいった。
◇◆
バカバカと壁を登り切った先。そこは、案の定と言うか何と言うか……酷い有様だった。
「雨・雷・風・雪……全部揃ってるな!」
「猛吹雪の上に雷雨……うう、顔がちべたい」
予想は出来ていた事だったが、ここまで荒れ狂ってるともう笑うしかない。しかし、立ち止まっている時間は無いのでちゃっちゃと先に進む事にした。
「ゴードンさんの話じゃ、
「ちょっと視界が悪すぎますね……」
「だな……ん?」
「どうしました?」
悪天候の中歩を進めていると、風の流れが微妙に変わっていくのが分かった。何か、巨大なモノに遮られて二手に分かれている様な……。
――コオォ――
「……リーリエ」
「聞こえました……恐らく、アルティトーラの鳴き声です」
ですよねー。さぁてどうするか……このまま進めば、間違い無く鉢合わせる。この悪天候で逃げ回るのは正直勘弁願いたいな。
「んー……おっ?」
どうやってエンカウントを回避しようか考えていた時、また別の風の流れを感じた。これは……何処かに風が吸い込まれてる?
この状況で風が流れ込む先となれば……自ずと限られてくるが。
「リーリエ、ちょい移動する。上手くすればアルティトーラをやり過ごせっかも」
「え? わ、分かりました」
そうして、俺はその風の流れを追うようにして歩を進める。
暫く歩いた先。そこにあったのは、ここに来るまでよく目にしていた岩壁だが、今までと違う点が一つだけあった。
「これは……洞窟?」
「みたいだな」
吸い込まれる風の正体はこれだ。奥が真っ暗な所を見るに、相当深いと見える。どこまで続いているかは分からないが、やり過ごすにはここしかない。
「進もう、リーリエ。このまま外にいたんじゃいずれカチ合う」
「はい。――【
洞窟に入り込んでリーリエを地面に下ろすと同時に詠唱が行われ、二つの光球が現れて暗い洞窟の内部を照らした。
「……深いですね」
「ああ。一体どこまで続いているのやら」
ふぅ、と一息吐く俺の横でリーリエが何やら考え事を始める。そして、俺の方を見て口を開いた。
「ムサシさん、先に進んでみませんか? 洞窟であれば、奥に鉱石群があるかも知れません。ここはもうほぼ山頂付近ですから、もしかしたら
「成程、百里ある。したらば奥に進んでみるか」
リーリエの提案に乗り、俺達は洞窟の奥へと進む事にした。
洞窟内部は、思ったよりも天井が高く幅もあったので歩きやすかった。上からは滴った水が凍って出来た巨大な
「雨風が当たらないだけで、大分違いますね」
「おう。あのまま外に居たら水浸しになった後で氷漬けになってたかもな」
「怖い事言わないで下さいよ……あれ?」
不意に、リーリエが立ち止まる。同時に俺も立ち止まり、【
「……明るいな」
「はい。もしかしたら、天板が崩落して外と繋がっているのかも」
それを確かめるべく、俺達は光差すその場所へと向かう。
案の定、そこはリーリエが言った通り天板が崩れてぽっかりと空へと通じる穴が空いていた。届いているのが陽光だけな辺り、天辺は雲の上にまで通じているのか。
「ここだけ脆かったんかねぇ……奥にはまだ道があるな」
「ですね。崩落の危険が無いとも限りません、早足で通り過ぎてしまいましょう」
「合点承知の助」
俺達は更に奥へと進む為に、小走りでその場所を通り過ぎようとした……その時。
――ピシッ――
「あっ」
「えっ」
真ん中辺りまで差し掛かった所で、いやーな感じの音が足元から聞こえた。
……あー、上崩れてんだもんなぁ。下にももうちょっと注意するべきだったなー。
が、今更後悔した所でもう遅い。次の瞬間には、轟音と共に足元がゴッソリと崩れ、俺達は下に出来た大穴に飲み込まれた。
「おおぉっ!?」
「きゃああああああっ!!」
咄嗟にリーリエを抱き寄せて、腕の中に包み込む。瓦礫に巻き込まれながらどんどん下へと落ちて行き―――ダンッ! と言う衝撃と共に体が地面に打ち付けられた。
「おうふっ」
「きゃっ……む、ムサシさん! 大丈夫ですか!?」
俺の腕の中に居たリーリエがガバリと顔を上げて俺の顔を見て来る。焦った様な声音だが、心配ご無用。お前のムサシさんはこの程度じゃビクともしないぞぉ。
「俺は大丈夫だ。リーリエこそ、怪我は無いか?」
「は、はい……」
「よしよし。瓦礫に埋もれなかったのは幸いだったな」
俺はリーリエを腕の中に収めたまま、ムクリと体を起こす。
辺りを見渡せば、そこは一面瓦礫の山……では無かった。落ちた先は、上層よりも遥かに広い空間が広がっており、俺達の座り込んでいる場所はその中のほんの一部でしかなかったから。
「うぅ……まさか地面が崩れるなんて……」
「もうちょい気を付けるべきだったなぁ。俺達、ちょい焦り過ぎてたかも」
「そうです……ね?」
「ん、どしたリーリエ」
腕の中のリーリエの視線が、ある一点を見詰めたまま固まる。そこは、崩れた上から差し込む光と【
「あ、あれ!
「ですよねぇ!」
そう。光が照らし出したその場所には鉱石群があり、その中に鮮やかな黄色と金色が混ざった様な鉱石があった。
事前に調べた特徴と一致している事から、アレは間違い無く
「災い転じて福と成す……よっしゃ、さっそく採掘しちまおうぜ!」
「はい!」
俺達はバッと立ち上がり、すたこらさっさと鉱石群へと近付いていく。そして、採掘道具を取り出し――。
――カロロロロロロ……――
「……む、ムサシさん」
「……どうやら、先客が居た様だな」
はぁ、と溜息を吐き、俺は
光が届かない暗闇の中……そこに揺らめく、六つの青白い光。
ゆらり、ゆらりと徐々に俺達に近付いてきて、その姿を天から差し込む光が映し出した。
「マ、マルヴァジータ……!!」
地に這い蹲り、俺達を舐める様に見つめる
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