第26話 Musashi STRATOS -グループBの狂気-

 むっ、今アリアに呼ばれた様な……まぁ嫌な感覚がしなかった辺り、緊急では無いっぽいから大丈夫だろ。

≪オーラクルム山≫までは、街道を使った安パイルートで行くと最低でも片道三日は掛かる。

 到着して直ぐにクエストを開始したとしても、登って下りるだけで一日を使ってしまう。つまり、正攻法だと一週間という時間を持っていかれる。それはちょっと今回は勘弁願いたい。

 なので、今の俺達は街道に沿って進むのではなく、≪オーラクルム山≫まで出来る限り直線的に進む最短ルートを突っ走っていた。


「Foooooo! 風が気持ちいいィー!!」

「ふぎゃあああああああああ!!」


 全身で風を感じながら爆走する俺とは裏腹に、車内のリーリエはひたすらに悲鳴を上げていた。オイオイ、まだ一時間も走ってないぞ?

 一応、俺は後ろへと頭を向けて車内の様子を確認する。案の定、そこには必死でフレームにしがみ付いて涙目になっているリーリエの姿があった。


「リーリエ、大丈夫かァ!?」

「これが大丈夫に見えますかぁ!? あとちゃんと前を見て運転して下さい!!!!」

「ウィッス!!」


 おっと、危ない危ない。脇見運転は事故の元だからな、ちゃんと進行方向を見ないと。

 しかし、この人力車の車体性能スペックは予想以上に素晴らしい。俺がこれだけ派手に牽引しても壊れないし、整備されている街道に比べるとクソみたいに荒れてる場所を走っても車体の揺れは最小限に収まっている。あのサスペンション、衝撃吸収能力が尋常じゃねえ。車輪に巻かれているドラゴンの皮タイヤも最高のグリップ力だ。


「大体、何で馬車が手配出来ないからって『人力車で行こう!』って発想になるんですか!? 馬車じゃなくても早馬二頭借りればいいだけじゃないですか!!」

「……あっ」

「気付かなかったんですね、そうなんですね!? こんな事なら手配も私がすれば良かったぁぁああああ!!」


 やっべ、確かにリーリエの言う通りだわ。馬車は出払ってたけど、早馬は何頭か残ってたしな……その中には、以前ディスペランサを討伐した帰りに使った強靭な早馬くんも居たから、別にこんな方法で来る必要は無かったかも。

 つっても、ここまで来て引き返す訳にはいかんからこのまま進むけどな!


「すまんリーリエ、確かに気付かんかった! でも、この速度なら早馬よりも早く麓の馬宿まで着いて見せるからそれでチャラにしてくれ!」

「どんなスピードで走ってるんですかぁぁああああ!」

「んー、正確な速度は分からん!」

「ふぐぅ……も、もういいです。早く着けるに越した事は有りませんから、ムサシさんは牽引に集中して下さい……」


 おお、凄い。以前のリーリエならこんな無茶苦茶な状況に晒されたら悲鳴を上げ続けるだけだったのに……どうやら、成長したようだな。ならば、俺もそれに応えよう!


「オッケー! あ、この先更に道悪くなるけどこのスピード維持して行くから、ヨロシクゥ!」

「うぇ――ふぎゃっ!!」


 そう言って足を取られないように気を付けながら、俺はより段差が激しくなっている未舗装ダートへと突っ込んで行った。


 ◇◆


 どの位走り続けただろうか、気が付けば太陽は真上をとうの昔に回り、辺りには夕暮れの光が差し始めていた。


「リーリエ、地図だとこの先どうなってる?」

「ええっとですね……最短ルートだと一度峠道を下って、その先でまた別の峠道を上るみたいですね」


 俺の問いに、車中からガサガサと地図を開く音と落ち着いたリーリエの声が返って来る。もうこの状況には慣れたらしく、当初の様な叫び声は上げなくなった……適応力が高くなってんねぇ、良い事だ。


「ダウンヒルとヒルクライムの連チャンか……今までの道よりちょい危険そうだな」

「はい。この先の道は今通っている山間の中で交通の便を良くする為に作られたものらしいんですけど、かなり無理をして作った様で距離の短縮は出来ますけど、かなり危険な道になってしまったみたいです。別の場所にもっと安全な道が作られてからは、遠回りでもそちらを使う人が殆どになって、結果こちらの道はあまり使われなくなった様ですね」

「成程、そりゃ普通は安全策取るわな……良く知ってるな?」

「地図に全部書いてありますから」


 マジかよ、その地図後から俺にも見してくれ。純粋に興味あるわ。

 そうこうしている内に、気が付けば俺達は今まで走っていた場所に比べると大分道っぽい場所へと入り込んでいた。どうやら、ここが最初の峠道らしい。


「おー、確かにこりゃ危ないな。下の道との高低差やっばい」

「うっ……む、ムサシさん! 安全運転、安全運転ですよ!!」

「任せろ、安全且つ最速で行くから」

「ちょっ、ひいぃっ!?」


 感覚を研ぎ澄ませながら、俺は加速していく。

 下り道なのも相まって、どんどん加速していくが焦ってはいけない。この速度だ、踏ん張り力ブレーキングミス一つで大クラッシュは免れない。

 大胆かつ繊細に、アウト・イン・アウトで速度を出来る限り殺さずに最速で下る! この時、俺の頭の中ではユーロビートがエンドレスで流れ続けていた。


「どぉっせいッッ!!」

「ふんぬぅ!」


 俺のコーナリングに合わせて、リーリエが踏ん張って強烈な横薙ぎのGに耐える。タイミングぴったり、阿吽の呼吸と呼んでも差し支えない。

 未舗装の荒れに荒れた凸凹の道、そこにあるエグいコーナーを理想のライン取りで次々にクリアして行く。

 この走りならば世界ラリー選手権W R Cの伝説、狂気の時代グループBも勝ち抜けるかもな!


「良し決めた!」

「何をですかぁ!?」

「この人力車の名前は“ストラトス号”にしよう、そうしよう!」

「どうしてこの状況で呑気に名付けなんてしてるんですかぁぁああああ!」


 ◇◆


 ミーティンを発った翌日。時刻が十時程に迫った頃、漸く俺達は≪オーラクルム山≫の麓にある馬宿へと到着した。ここからは、ストラトス号を預けて徒歩で登って行く事になる。


「リーリエ、体調は?」

「だ、大丈夫です……なんとか、ですけど」


 うん、あんまり大丈夫そうじゃないね。夜通し走るって真似は流石にリーリエの体力上宜しくないので、途中で車中泊をした。普通の馬車の中よりはずっと寝やすかったと思うし、朝目を覚ました時も顔色は良かった。

 ……それでも、朝一からまた爆走すればやっぱり体によな。


「悪いな、もう少しゆっくり来ればまた違ったんだろうが……取り敢えず、登る前に体力回復液キュアポーションを飲んどけ。それと……ほいっ」

「……これは?」

「さっき馬宿で貰って来た馬車で酔った人用の吐き気止め。即効性抜群らしいから、飲めばマシになるだろ」

「い、頂きます……!」


 俺から受け取ったそれを、リーリエは体力回復液キュアポーションと一緒に飲み干す。おいおい、普通そう言った薬を水以外で飲むのは……まぁいいか。相乗作用で効果高まるかもしれんし。

 その読みが当たったのかは分からないが、リーリエの顔色がみるみる良くなっていく。それを見て、俺は仕上げに掛かった。


「ふぅ……楽になりました」

「そいつは何よりだ。どれ、ちょっと右手出してみ」

「? はい」


 俺の真意が分からないまま、リーリエが右手を俺に差し出した。それ取って、グローブを外して手を露出させると、俺もまた自分のグローブを取り外し、リーリエの白い掌の中心を親指で「の」の字を書く様にしてぐいぐいと押す。


労宮ろうきゅうって言う酔い止めのツボだ。あと足先にある大敦たいとんも押すから、ちょいグリーブ脱いで」

「あ、ありがとう御座います……」


 ぶっちゃけ知識として知っているだけなので、本当に効くのかは分からないが……ま、やらないよりはマシだべ。


「……んっ」


 やめろ!!!! これから危険デンジャラスな山登りだっちゅーのにそんな色っぽい声を出すんじゃあないッ!!!!!!

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