第17話 これからのこと
「さて。お互い言う事は言った訳だし、こっから先の方針を決めようか」
「方針……」
俺は曲がっていた背筋を伸ばして両の掌を合わせる。行動を起こすのなら早い方がいいからな、ちゃっちゃと決めよう。
「コトハはこれからあのドラゴンを討伐せにゃならん訳だが、ぶっちゃけ
「うっ……」
俺のド直球な指摘に、コトハが言葉に詰まる。しゅんと垂れる耳を見ていると何だか申し訳ない気持ちになるが、変にオブラートに包んだら話が進まないからな。
「それに、得物もぶっ壊されちまった……
「そうやね……正直、あそこまで見事にやられるとは思わへんかったわ」
シーツを掴むコトハの手に力が籠る。余程悔しかったんだろうな……当然か。正面からぶつけ合って自分の得物を壊されるってのは、牙を砕かれたのと同義だからな。
「なぁ、あの武器ってやっぱコトハの雷属性に合わせた造りになってる……よな?」
「うん。
「家仕え……って事は、相当良い腕の鍛冶師だったんだろうな」
「そうやね。少なくとも、うちが住んでいた地方では一番の鍛冶師やった」
となると、下手な場所での修理は無理だな……だったら、修理の為にこの街で頼るべき鍛冶師は一人だけだ。
「コトハ。お前、この街で
「あらへんなぁ。うちがこの街に来たの、本当に最近やし……」
「なら、このまま俺に預けて貰えないか? いい腕の鍛冶師を知ってる」
「えっ。で、でも
……はぁ、ここまで来て義理とか言い出すのかこの娘は。そんな事気にする様なら最初からここまで深入りなんてしてないっつーの。
俺は右手の人差し指を親指で弾いて、コトハの額に軽くデコピンをかましてやった。
「ていっ」
「いたっ!?」
「そういう遠慮は無し! ……正直に言っちまうけどさ。俺もリーリエも、≪カルボーネ高地≫から撤退する段階でお前に手を貸すって決めてたんだよ。その目的が何であれ、な」
俺の言葉に、額を抑えたままのコトハが驚いた様な表情を作る。
「コトハの心情的には余計なお世話になるかとも考えたけど、こっちはもうそんなん関係無しにやるって話で纏まってたんだよ。アリアの方も、多分リーリエが話しつけてる。さっきは『どうするかなんてこれから決める』なんて言ったけどな……おっと、悪いが拒否権は無いからな?」
「……どうして」
コトハの瞳が、困惑に揺れている。そりゃそうか、出会って間もない連中がいきなり自分の言い分も聞かず手を差し伸べてきたら誰だって混乱する。
「どうして、そこまで赤の他人にいれ込めるん? うちを手伝っても、ムサシはん達には何の得もあらへんよ?」
「ここまでお互いに言葉交わして赤の他人もへったくれも無ぇだろうに……それに、損得勘定ばっかで動く人生なんざクソ食らえだ。例え
「……お願い、出来る?」
「任せろ。と言っても、直接修理するのは俺じゃないが……」
ちょっと大仕事になるかも知れないが、ゴードンさんには頑張って貰うしかあるまい。必要な材料が足りないならこっちで用意する感じでいこう。
「ま、俺の防具を作ってくれた人だ。ゴードンさんっていうドワーフの鍛冶師だが、腕の方は保証する」
「そうなんや。ほなら、あのごっつい剣を作ったのもそのゴードンさんなん?」
「あー……それはちょっと違うな。
「古代人……えっ! あの剣って
「そゆこと。ゴードンさんの作る武具は間違い無く全部一級品だし、それを作る技術も素晴らしいんだが……その、俺が馬鹿力過ぎてだな。とりま切れ味云々は置いといて、俺の膂力に耐えられる剣ってなったら、倉庫の中で埃被ってた“
でも、恐らくだが……いずれ、ゴードンさんは俺が扱う事の出来る剣を作り上げる気がする。あの人の武具に対する情熱は凄まじいからな。
「ただ、俺が言った通り腕と技術は間違い無く一流の人だから、修理した
「……なら、うちはムサシはんが信頼するゴードンさんを信じるわ」
「そうしてくれ」
俺はニッと笑って、壊れた
「コトハは、
「分かっとるよ。まずは、このベッドから卒業せなあかんね」
「だな。問題は……時間だな」
そう。これからコトハがあのドラゴンを討伐する為には、出来るだけスピーディーに事を進める必要がある。
「リーリエからギルマスの方にはもう連絡が行っている筈だ。あんだけ戦闘能力の高いドラゴンをそのまま放置って訳にはいかんからな……」
「ほぼ間違い無く、討伐隊が編成されるやろうね」
「ああ。もしその討伐隊に先を越されたら全部おじゃんだ……そうなる前に、コトハの手でアイツを討つ。俺とリーリエ、アリアもその為に動く」
「……ありがとう」
「後でリーリエとアリアにも言ってやってくれ……話を戻すぞ」
さて、問題はガレオがどの位動き始めているかだが……多分、まだ殆ど動けていない筈だ。
あのドラゴンはこの辺りには生息していないドラゴン。ましてや、海を越えてきた存在だ……もしかすると、ディスペランサよりも情報が少ないかもしれない。そんな状態で人を動かす程、ガレオはアホじゃない。腹立たしいが、ギルドマスターという役職に相応しい頭の持ち主なのは間違い無いからな。
「あのドラゴンはとてもじゃないが青等級で相手が出来る様なヤツじゃない。万全を期して討伐をするのなら、紫等級で揃えた討伐隊を組むだろうが……
「その人員が集まるまでの時間が、タイムリミットやね」
「その通り。だが、ギリギリまで待ち時間を使う事は出来ない。その間に、あのドラゴンが別の場所に移動しちまうとも限らないからな……そう言えば、アイツは何て名前のドラゴン何だ? ずっと追いかけていた相手なんだ、コトハは名前を知ってるんだろ?」
「もちろん。アイツは【
ハガネダチ、鋼断ち……成程ね。確かにあの
「ただ、うちの知ってるハガネダチとアイツはどうにも違うんよね」
「違う、ってのは?」
「≪
「つまり、あの角を用いた戦闘能力も尋常では無いと」
「そうやね。本来であれば、ハガネダチは赤等級、若しくは青等級で十分倒せる相手の筈なんやけど」
うーむ、そりゃ確かに異常だ。戦ってみた限り、とてもじゃないが普通の赤等級や青等級で相手が出来る強さじゃなかったぞ。
だからと言って、変異種かと言われれば微妙な所だ。コトハの話を聞く限り、アイツは頭角の発達具合と戦闘能力こそヤバいが、見た目で言えばハガネダチだと言い切る事が出来る訳で、俺とリーリエが倒した変異種クラークスみたいに「元のドラゴンなんやねんコレ!」ってレベルじゃ無いし。
「……ま、兎も角今の段階じゃアイツの事細かい事考えてもしゃーなし、か。よし、取り敢えず今日はこの辺にしとこう。まだ夜中だし、コトハは寝直しちまいな」
「ムサシはんは?」
ベッドに横になりながら、コトハが俺に問い掛けてくる。うーん、今から≪月の兎亭≫に帰って寝るって言うのもなんかなぁ……今のコトハを一人にするのも何となく憚られるし。
「俺は朝までここに居るよ。先生やら何やらが来たら引き継いで、行動を始める」
「そっか……」
「何だ、眠れないなら子守唄でも歌ってやろうか?」
冗談めかして俺が言うと、コトハがじっとこちらの瞳を見る。あるぇ? 何だか嫌な予感がするぞぉ!?
「……なら、歌って?」
「……ま、マジすかコトハさん」
「うん。ムサシはんが知ってるのでええから」
そう言って、コトハは瞳を閉じてしまう。やべぇ、ノリで余計な事言うんじゃなかった!
(どうすっかな、“ねんねころりよ”は途中までしか知らんし……あっ)
チョイスに悩んだ末、俺の頭に思い浮かんだのは元の世界では物凄いメジャーだったある曲。軽く頭を掻きながら、俺は静かに口を開いた。
「――Twinkle twinkle little star,How I wonder what you are. Up above the world so high,Like a diamond in the sky. Twinkle twinkle――」
五月蠅くならない様に紡いだその歌……自分で口にしたそれを聞いた時、微かに今はもう戻れないあの世界の情景が頭に浮かんだ。
……何故英語版をチョイスしたッッ!? これ絶対ぇ途中で歌詞分かんなくなる奴だろ、意味ねぇじゃんッッ!!
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