第13話 君に言うべきこと、言いたいこと。
休み時間の三年三組の教室にて
「咲良ちゃ〜ん」
今日も来た。あいつここ最近毎日三組に来ている気がする。梅宮に会いに。
俺は今自分の席からあの男と梅宮が話しているところを見てることがわからないように見ている。
胡桃沢が言ってた梅宮を狙ってる奴ってあいつなのか?なんか名前呼びしてるし。
「長浜君」
「これ、前に咲良ちゃんたちが部費で買った茶道具とお茶菓子の一覧表。確認できたからお返しするね。」
「ああ!わざわざありがとう。部活の時でも良かったのに。」
「これは口実みたいなもんだよ。咲良ちゃんと話したくて来ちゃった。」
長浜は梅宮に笑いかけ冗談なのか本気なのかわからない調子でそう言った。
「あはは笑長浜くんやめてよ〜笑照れちゃうじゃん笑」
梅宮は冗談だと思っているのかいつもの調子で楽しそうに喋っている。
何が話したくて来ちゃっただよ。あと五分しかないぞ休み時間。キザ男め。
俺があの二人を見ていると近くの女子グループの声が聞こえてきた。
「咲良最近長浜くんによく絡まれてるよね。てか来すぎじゃない?三組」
「長浜くんって女好きで有名だよね。彼女が10人くらいいるとか・・」
「え、まじで?やば。そういえば前告られてるとこ見たわ。」
「まあイケメンだからねぇ」
「イケメンだからって10又はないわ〜。」
じゅ、10又だと?!女好きってのは噂で聞いたことあるけどまさかそこまでだったとは・・・そんなやつに梅宮が狙われてる・・・・かもしれないのか・・
「じゃ、またお茶飲みに行っていい?」
また?・・・あいつ放課後も梅宮と会ってるのか・・・
「いいよ〜。部員のたてたお茶全部飲んでね。」
「わーお、そりゃ大変だ。笑」
話し終わったのか長浜は自分のクラスに戻っていく。
・・・・どうする。あいつ梅宮のこと好きなのかな。あんなイケメン・・美男美女・・お似合いか・・いやいや!女好きで10又だぞ!だめだろ!そんな奴を梅宮が好きになったら、絶対・・悲しむことになる。
・・・・とも思ったがそれよりも・・・梅宮が俺から離れていくのがすごく・・嫌だ。付き合ってるわけでもないのに、何言ってんだって感じだ。
わかってるけどどうしようもなく・・・嫌だ。でも・・・どうする・・。
「・・結・・」
「うわあ!・・・梅宮」
びっくりした。考え混んでて梅宮が近づいてきてるのに気づかなかった。
「あのさ・・結・・」
「・・・もう授業はじまるぞ。」
俺は目をそらしてそういった。正確には目を合わせられずに。
「そう、だね。じゃ、またあとで。」
「・・・」
梅宮は言葉通りまた俺のところに来たが、俺は・・・逃げてしまった。
何もしない何もできない自分が本当に情けない。
放課後
「胡桃沢くん、いよいよ明日だね。」
「ああ、いよいよだ。」
「大丈夫かな・・不安すぎる。」
「何を不安に思うことがある。あのリハーサルは十分やったじゃないか。」
「いや不安なとこそこじゃないから。・・・お兄ちゃん・・どうするかな・・」
「大丈夫だ。お兄さんは絶対言うよ。」
「・・・どこからくるのその自信。」
「どこから?俺自身からだ。俺はお兄さんが言うと信じている。だから不安なんて何もない。」
「そっか・・そうだよね。胡桃沢くんがいうとなんか大丈夫な気がしてきた。」
俺たちの準備期間は1週間。これでしっかり土台は出来ただろう。あとは明日を待つだけだ。
翌日
三年三組にて
「よーし、今日の授業はここまでにするか。ちゃんと課題やってくるんだぞー。」
5限が終わり、俺は早々に帰る支度をする。
「あ」
机から出てきたのは学級日誌だった。今日当番なことすっかり忘れてた。くそ、二限から書いてないじゃん。しかも教室の掃除もしなきゃなんねーのか。めんどくせえ。
「咲良ちゃ〜ん!」
くそ、今日は放課後に来たのかよ。ああイライラする。
「長浜くん?」
「ちょっと、いいかな?」
「なに?」
「一緒に来て?」
長浜は真剣な顔で梅宮を誘っている。
「う、うん。わかった。」
梅宮は流されるまま長浜に手を引かれて連れて行かれる。なんだよあれ。どこに行く気だよ・・。
気になってしょうがないがどうすることもできない俺は日誌を書き始めた。
・・・梅宮はあいつのことどう思って
「ねえ、見て見て!」「え!あれって」
いろいろ考えていると窓側の女子たちが窓の外を見て騒いでいる。
騒がしいな。外でなんかあったのか?
「ちょっとまって!咲良と長浜くん?」
「もしかして告白?」「まじかよ!」
待て待て待て待て 梅宮と長浜? 告白?
「長浜くんなんか言ってる!」「雰囲気的に絶対告ってるでしょあれは!」「あんな真剣な表情の長浜くん見たことない。やっぱイケメンだわ」
俺は確かめずにはいられなくなって窓の外を見ると、ちょうどここからは裏庭的なところが見える。そこに長原と梅宮がいた。あいつ告られてんのか?
どうする・・・前までは梅宮は俺を好きだったから断る可能性もある。でも今はどうだ?俺は梅宮を避けつづけ、傷つけた。そんなやつのことをまだ好きだろうか。そういえば前に、もうなんとも思ってないとか言ってなかったか?
考えれば考えるほど今の梅宮の気持ちがわからなくなっていく。今は長浜の告白を受ける可能性が十分にあるといえる。もし受けてしまったら・・?俺はもう梅宮とは・・・
「咲良、おっけーするのかな?」「えー、でも女好きだよ〜?ないでしょ。」「まだわかんないじゃん!」
梅宮の答えを聞くのが怖くて、教室から出る。告白現場を見ている野次馬の声が聞こえなくなるところに行きたい。
「お兄さん」
教室を出てトイレの方に行こうとすると後ろから声が聞こえた。
「胡桃沢?!・・・・なんだよ」
「お兄さんが行かないといけないところはそっちじゃないですよ。」
「そんなの・・俺の勝手だろ。」
「梅宮先輩を取られるのが怖いんですよね。」
「・・・・・」
「梅宮先輩の方がよっぽど怖かったはずです。」
「え?」
「大好きな人に理由もわからず拒絶され目も合わせてくれない。そんなことをされても梅宮先輩はあなたに歩み寄り続けたんですよ。今度はあなたの番ではないですか?」
「・・・そんな簡単じゃないんだ・・!!お前はそうやって綺麗事ばっか言うけど」
「綺麗事を言うのは当たり前じゃないですか!」
「!・・・」
「お兄さんはできないことだと思ってるから綺麗事というのかもしれませんが、俺はお兄さんの、梅宮先輩を好きな気持ちを知って、できると確信したからこそお兄さんに綺麗事を言うんです。」
「・・・」
「理屈は正しいのになかなかできないことをするのは難しいと思います。でも俺はお兄さんならできると信じたんです。」
「俺は胡桃沢が思うような大それた人間じゃないよ・・だから信じられても」
「今のお兄さんは梅宮先輩に向き合うことを諦めてただ逃げようとしてるだけです。」
「っ・・・」
「梅宮先輩を好きな気持ちはどうするんですか!梅宮先輩と向き合うことを避けて、お兄さん自身の気持ちも見ないふりをして、お兄さんは一体どうしたいんですか!」
「俺は、・・・・」
「今したいこと、しなきゃいけないことはお兄さんの中ではっきりしているはずです。前に吉丘も言ってましたが、それをしなかったらこの先ずっと後悔しますよ。お兄さんは自分で思ってるより、梅宮先輩のことを好きでいる。そして梅宮先輩もまた自分で思ってるよりお兄さんを好きでいる。だからお兄さんが伝えたいことを何も言わずに一生後悔するということは、梅宮先輩も同じように一生お兄さんへの気持ちがあやふやなままになるということですよ。」
「・・・・」
「色々考えすぎて梅宮先輩に伝えるのが恥ずかしいなら恥ずかしくなる前に全部ぶちまければいいんです!」
お兄さんは少し考えてから
「・・・・・わかったよ、胡桃沢。俺・・・言ってくるわ」
お兄さんは決心した顔つきで俺を見た。
「そう言うと思ってましたよお兄さん!ではこれを使って、って・・・お兄さん、待って!」
お兄さんは走って自分の教室へと戻っていく。
そして三組のベランダの野次馬たちをかき分け叫んだ。
「う、う、梅宮————————!!!!!!」
「!結???!!!」
まさかそこからとは、やるじゃないですかお兄さん。
「・・・・待ってくれ!!!俺は・・・俺は・・・・梅宮が・・お前が好きなんだーーーー!!!!」
「!!!!」
梅宮先輩は何が起こってるのか最初のうちは飲み込めてなかったが、言われた言葉を理解したのか顔をみるみるうちに赤くして口をパクパクさせている。
そりゃそうなるよな。
「い、今まで避けてて・・・・ごめん・・!!俺はお前が好きすぎてお前が話しかけてくるだけで恥ずかしくて・・・どうやって接していいかわからなくなって逃げてたんだ・・!自分勝手で!ヘタレでごめん!!!!」
「・・・結・・」
「・・・・今からまた自分勝手なこと言うけど怒らないで聞いてほしい!!」
「・・・」
「そいつとは!付き合わないでくれ!!俺を好きでいてくれ!!!俺を見ててほしい!!!!俺と・・・・・・つき合ってください!!!!!だいすきです!!!!!!!!!」
辺りは一瞬しんと静まりかえる。梅宮先輩は急なことに驚き、一瞬固まったが告白されたことに気付き、顔が真っ赤になる。
「・・・・・・・ば、ばかじゃないの??!!!いきなりそんなこと言って・・・!ずっと避けてたくせに・・!ホント自分勝手!!くそヘタレ野郎!!!!・・・・・・・・・・・」
梅宮先輩はいきなりのことで取り乱したが、最後は柔らかい笑顔で告白の返事をした。
「あたしも・・・!ずっと・・・す・・・きだった・・!・・・・・・今でもだいすき・・・・・こちらこそお願いします・・・・・・・」
静まり返った場がまた盛り上がる。カップル誕生の祝福だ。
よし、ここがベストだな。
俺は遠隔操作で屋上に設置しておいたキャノン砲を打ち出す。
パーーン パーーーン
たくさんの花びらが舞い散るのを見てその告白を見ていた生徒たちが騒ぎ出す。
わあ綺麗 なにこれ!演出? すごーい おめでと〜! 吉丘よく言った!!
咲良ー!よかったねーー!!
「お兄さん!こちらへ!あ!ちょっと!」
お兄さんは全速力で教室を出て行く。
「ちょっ!お兄さん!」
お兄さんの後を追いかけると梅宮先輩のいる裏庭に着いた。
「・・梅宮」
お兄さんは梅宮先輩に近寄っていく。
「結!」
梅宮先輩はお兄さんの元に駆け寄っていき抱きつく。
「お、おい梅宮?!や、やめ」
二人は幸せそうに抱き合っている。
「あらら〜こりゃ俺が入る隙ないね〜 なぁ胡桃沢?」
俺の隣に立っていた男、長浜幸也先輩がそう呟いた。
「長浜先輩。」
「てかお前、キャノン砲で花びら散らすってどんな演出だよ。やべーだろ。笑」
「完璧な演出じゃないですか。感動したでしょう?」
「いや、告白しようといしてた設定の俺の立場からして感動したとは言いにくいけど、あの二人がちゃんとくっついてよかったな。」
長浜先輩は生徒会の先輩で会計をしている。一週間長浜先輩の仕事を俺が代わりにやるという条件で梅宮先輩に近づいてもらった。茶道部に梅宮先輩がいる時は、吉丘から長浜先輩にメールで合図を送り、梅宮先輩が忙しくない時に来てもらい仲を深めてもらった。教室に来るぐらい自然に仲良くなるために。
ちなみに女好きというのは本当だ。だからこそ長浜先輩が適任だった。気に入った女子にいい寄っているのはいつものことなので変に怪しまれず梅宮先輩に近づける。
長浜先輩を一週間お兄さんが見えるところで、梅宮先輩と関わらせて、お兄さんには思う存分悩んでもらった。
お兄さんはこの一週間、長浜先輩が現れたことにより、毎日焦りともどかしさを感じていた。そこであの告白(嘘)現場を見てしまった。前までは誰が何を言っても逃げるの一点張りだったお兄さんが、俺が少し言っただけでああやって行動できたのはお兄さんの中で恥ずかしさよりも梅宮先輩が好きだから誰にも取られたくないという気持ちが勝ったからだろう。お兄さんが自らで判断して、自ら行動に出たのだ。
「はい、本当に良かった。」
「こんなイケメンな俺に毎日話しかけられて甘い言葉をかけられてたのに、全然揺らがないなんて咲良ちゃんすごいよ。」
淡々とナルシスト全開でそんなことを言っている。
「・・・そういうところがにじみ出てるからじゃないですか?」
「イケメンすぎるところかな?」
「....」
「胡桃沢くん!」
遅れて吉丘がやってくる。
「おお、吉丘。」
「〜〜〜〜!うまくいったね!!よかったぁ〜〜〜」
吉丘は嬉しそうにはしゃいでいる。
「三組の野次馬もしっかりお兄さんに聞こえるように言ってくれたみたいだしな、効果抜群だったよ。」
三組の野次馬たちには、告白してるんじゃないかとういうのを仄めかして、騒いで欲しいと、頼んでやってもらった。
「キャノン砲の設置許可とかもよくおっけーでたよね。ほんとすごいよ。」
「ただ、人望と権力と金を使っただけだ。」
「それがすごいって言ってんだけどなぁ。」
「お兄さんが今日日誌当番だというの知れたのはお前の情報のおかげだ。それでお兄さんが帰るのを防げた。」
「あらら?褒めてくれてる?」
吉丘は調子に乗った顔をしている。
「・・・まさかベランダで告白するとはな。」
「今スルーしたよね。そういえば結局バンジー使わなかったね。重要じゃないのにめちゃめちゃリハーサルしたけど・・・使わなくて安心した・・」
本当はベランダから胡桃沢家特注のバンジーセットで三階から一階まで華麗に降りていく予定だった。
「何を言う。バンジーでカッコよく降りて告白する、最高の演出part2じゃないか。」
「・・・前からちょいちょい思ってたけど胡桃沢くんてちょっとズレてるとこあるよね。」
「ズレてるわけではないぞ。異才なだけだろ?」
「・・・うん。そういうことにしとこうかな。」
なんだ、吉丘のやつしっくりきてないような顔して。俺の異才さをまだわかってないな?これは一から俺の異才さを
「・・・まあでも本当によかった。ありがとうね。胡桃沢くん!」
「っ・・・・ああ。」
いろいろ思うところはあったが、今までに見たことのない吉丘のとびきりの笑顔でお礼を言われてそんなことどうでもよくなってしまった。
たまにこういう・・・か、かわいいと思ってしまう吉丘の不意打ちは本当に調子が狂うな。
告白を終え廊下にて
梅宮に気持ちを全部伝えることができて本当にスッキリした。
今俺にどんなピンチが降りかかっても対処できるような気がするくらい清々しい。
「吉丘」
「・・・・久我・・・」
と思っていると目の前に久我が現れた。気まずすぎるピンチだろこれは。
「ちょっと話ししていいか。」
「・・おう。」
「早くああやって告白すればよかったんだよお前は。絶対うまくいくんだから。」
「久我・・」
「いや、俺がそんなこと言う資格ないか・・・。すんげぇ遅くなっちまったけど・・・・・あの時はあんなこと言ってごめんな。俺、彼女のことでいろいろイラついてて、俺は別れたのになんでこいつは好きなやつと楽しく話せてるんだよとか思っちゃって、あ〜〜今考えても俺最低だ・・・いまさら謝ってもって感じだよな。はは。」
「いや・・・・・・俺もごめん。」
「謝んなよ。」
「先に殴ったのは俺だから、それのごめんだよ。」
「あれは梅宮のためにやったことだろ。あの時梅宮すげえ混乱してたしな。」
あの時の梅宮は恥ずかしさで顔を真っ赤にして泣きそうになっていた。そんな梅宮に追い討ちをかけるよに久我がいろいろ言ってきたのが許せなかった。
「・・・・・うん。でもごめん・・」
「・・・・なあまた俺ん家でおっぱいやろうぜ。」
「・・・・え、いいのか?」
「誘ってんの俺だぞ?笑いいに決まってるだろ。お前がいいならな。」
「・・おう!やろうぜ!おっぱい!」
久我とまたこうやって話せるなんて思いもしなかった。
本当に今日は良い日だ。
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