第12話 お兄さんの気持ち

俺たちは今おっぱいお兄さんの部屋にいる。

そしてとてつもなく気まずい雰囲気に包まれている。


「・・わるい。今俺忙しいから・・・」


お兄さんは忙しいと言っているけれどパソコンにはぽよちゃんの姿がある。


「お兄ちゃん、パソコンに向かってる暇あったらちゃんと咲良先輩と向き合ったら?」


吉丘、今日は強気だな。お兄さんの評価が下がりに下がってクソ野郎にまで行ってしまったもんな。


「・・・もう少ししたらな。」


「もう少ししたらってなに?お兄ちゃんのそういう態度ほんとクソだよね。ずっとそんな態度とってると咲良先輩に愛想つかされるよ?」


「・・・」


お兄さんは何も言い返せなくなっている。


「まあまあ、吉丘。お兄さん、昨日はわかったようなことを言ってしまってすみませんでした。」


「・・別にいいよ。そんなの。俺もカッとなって怒鳴っちゃったし・・悪かった。」


「今日は確かめたいことがあって来ました。」


「・・・なんだよ?」


「避けてる理由をはっきりさせたくていろいろ調べました。お兄さんが避けてる理由は、」


「・・・」


「お兄さんに好意を寄せている梅宮先輩とどう向き合っていいのか分からず避けている、つまりただヘタレているということで合っていますか?」


「・・・・・・・・・・」


お兄さんは表情が曇ったまま黙っている。


「お兄さん。」


「・・・・・・・・合ってるよ。」


少し黙っていたが諦めたのかお兄さんは答えてくれた。


「その事実を知った時、正直、そんなことでと思いました。」


「だよな。お前にはわからなかったろ?この気持ち。」


「そうですね。分かろうとすれば分かりますが、俺はなんでも中途半端にはしておきたくないので、もし俺がお兄さんの立場だとしても避けてはいませんね。」


「はは。胡桃沢はそんなことで避けるようなやつじゃないもんな。・・何で俺はこんなにヘタレてんだろうな。中学から全然変わってない・・・」



【回想】


俺は委員会でたまたま隣の席に座ってきた梅宮に声をかけられた。

いきなりフレンドリーに話しかけられたから驚いて、その時はなんだこいつとも思った。しかもそいつは委員会があるたび俺の隣に座ってきて何度も何度も話しかけてきた。俺は基本話しかけられたら話すスタンスで梅宮と接していった。今日クラスで何があっただの、授業中何がおもしろかっただの、ベラベラ話してきた。なんで俺に話しかけてくるのか本当に謎だったが、梅宮が楽しそうにいつも喋るからつい話を聞いてしまった。


俺はだんだん梅宮と話すのに慣れていって自然と敬語も無くなっていた。

それに気づいた梅宮は嬉しそうにはしゃいで喜んでいた。なんでそこまで喜んでいるのかわからなかったが見ていてちょっと可愛かった。


二年の三学期の委員会が終わる時期に梅宮と次の委員会について話した。

梅宮は三年でもまたこの委員会をやると言っていたので、口には出さなかったが俺もそうすることにした。梅宮とは同じクラスじゃないので話す機会なんて滅多にないから委員会の時だけでも・・・・要するに梅宮ともっと話したかったんだ。


梅宮と俺は徐々にそして確実に仲良くなっていった。委員会じゃない時も喋ったり、一緒に友達を含めて遊ぶようにもなった。接する機会が増えると梅宮のいろんなところが見えてきた。勝手に神経が図太いやつなのかなと思っていたら案外繊細で、打たれ弱いところもあることを知った。意外な一面を知れてなんだか得をした気分になったりもしていた。誰も知らない梅宮のことを知れたらな・・・なんて考えたりもしていた。梅宮のことをもっと知りたい。

そこでもう俺は梅宮を異性として意識し始めていた。


高校に入り、俺は梅宮と同じクラスになった。

梅宮はだんだん、俺にそういう好意があるんじゃないかというような態度になっていった。

俺ははっきり言って、すごく、期待した。梅宮のことを好きになっていた俺からしたらとんでもなく嬉しいことだった。

でも本当に梅宮が恋愛的な意味で俺を見ているというのも確信が得られなかった。ただ単に俺のことを友達として好きなだけで、なんとも思ってないかもしれない。でも明らかに前までとの態度が違うような気がする。との繰り返しで全く答えが出なかった。


でもやっぱり梅宮の様子は今までとは違った。俺と目が合うとほおを赤らめ嬉しそうに笑う。俺と一緒に帰ったとき少し手が触れただけで慌てふためき恥ずかしそうにして俺を見ている。もしかすると両思いかもしれない、でも俺の勘違いかもしれない。


久我に相談したら、お前から告ればはっきりすると言われたが、俺から告る度胸はなかった。梅宮とはいつもどおり接して、自分が好意を抱かれているかもしれないという淡い優越感に浸っていた。それがいけなかった。


あの喧嘩で久我から『梅宮は吉丘を好き』という言葉が放たれたときの梅宮の顔を見て、本当に梅宮が俺のことを好きなのだと確信を得てしまった。今までの梅宮の態度とは全く別物で確実なものだった。


俺もあいつが好きであいつも俺を好き。

両思いだということを告げて付き合いたいといえば全てまるく収まりハッピーエンド。だけど

俺は意気地が無かった。


はっきりと確信を得たあとすごくうれしかったのに、梅宮が俺に話しかけてきた時、恥ずかしいと同時にどう接していいかわからなくなって混乱して逃げてしまった。その結果がこれだ。

本当に情けなくて最低なことをしている自覚はあるけれど、どうしても梅宮と面と向かって話そうとすると、感情をうまくコントロールできず、いつもの自分を保てなくなってしまうんだ。


【回想終わり】


「もうどうしようもないクソヘタレ野郎だね。」


吉丘がぶった切る。


「うっ・・・だってあの梅宮が俺のことを好きになってくれてたんだぞ。嬉しくてもうしにそうだった。」


「・・・お兄ちゃんそれ咲良先輩に伝えなよ・・言わなきゃ一生後悔すると思うよ・・」


「そんなことわかってる・・・でも、、」


これ以上いっても今のお兄さんは答えを出せそうにないな。

少し忠告しておこう。


「お兄さん、」


「・・・胡桃沢、俺がこんなヘタレな兄でごめんな、、でもかなことは末長く


「これは噂なのですが、最近梅宮先輩を狙ってる生徒がいるようですよ。」


「え・・?」


「梅宮先輩可愛くて人当たりもいいからよくモテるそうですね。今のままではお兄さんに飽きて自分を好きでいてくれる人を選ぶんじゃないでしょうか。」


「・・梅宮・・・・」


「お兄さんが気持ちを伝えない限り梅宮先輩がお兄さんをずっと好きでいてくれる保証なんてないんですよ。もしお兄さんより好きになれる人が現れて告白でもされたら了承するかもしれませんね。いいんですか?このままで。」


「・・・・・・・」


お兄さんは苦しそうな表情で黙っている。


「・・まあ、俺にはどうすることもできませんからお兄さんの好きにしてください。今日は帰りますね。お邪魔しました。」


俺は吉丘と部屋を出た。


「胡桃沢くん、あんな嘘だけじゃお兄ちゃんは何も行動しないんじゃないかなぁ」


「そのくらいわかってるぞ吉丘。だから行動せざるおえない状況を作ればいいんだよ。」


多分今お兄さんは、梅宮先輩に好意を寄せている人の存在を知り相当悩んでいるはずだ。自分を好きな梅宮とどう接したらいいのかという悩みから、自分が行動しないと梅宮先輩が誰かに取られてしまうんじゃないかという悩みにすり替える。これができればあとはもうそういう状況を作ればいいだけだ。



「作るってどうやって作るの?」


「それは、」


吉丘は俺の作戦を聞き、不安そうな顔をする。


「うわぁ〜・・お兄ちゃんそんなことできるかなぁ。」


「このくらいしてもらわないとな。」


そして俺たちはその状況を作るために、それぞれ準備をすることになった。


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