第2話

「私はあなたのお母さんではありません」


「ごもっともだ」


現実離れしていた美貌の持ち主を前にしたためか俺も少し気が動転してしまったようだ。


「ところでここは何処なんだ?」


辺りを見渡しでも何も無いし、下には雲が見えるだけで......


「宙に浮いてるじゃねぇかー!!!はっ!?もはや俺にもついに魔法が?」


「いえ、私が浮かせているだけですけど?」


「あっそ。じゃいいよ、解けよ魔法?アァン?」


分かった途端この対応、これが俺Style。

長年夢見てきた魔法が使えるようになったと一瞬でも思った自分がバカみたいではないか。

すると彼女は、


「それでは解きますよ?」


「ん?ギャァァァァァァ!!!」


宙に浮く魔法が解かれた今、俺を支えるものが何もなくなったのですごいスピードで落下していくのがわかる。


「ウバガァァボガ!!!」


喋ろうとしたら口に空気が入ってきて滅茶苦茶焦った。


「喋れないんでしたら、喋れるように魔法をかけます、えい!」


彼女の方は恐らく魔法をかけたままなのでさしたる抵抗もなく、俺と一緒のスピードで華麗に宙を舞っている。


「ソラヲマウマホウカケテ?」


「はい」


落下していた俺はふわふわりふわふわると宙に浮く。


「クルシュさんは面白いお方ですね」


あなたが名前を呼ぶそれだけで宙へ浮かぶ。


「この高さでは人に見つかるかもしれないのでもう少し上に行きましょう」


ふわふわるふわふわり。


「あぁ、これが空を飛ぶってことなのか......」


「ふふっ、楽しいですか?」


あなたが笑っているそれだけで笑顔になる。


「神様ありがとう!」


「おや?よく私のことが分かりましたね?」


「え?もしかして本物の神様?」


「まぁそうなりますね」


「ま、まじですか......」


魔法使いを倒すことを目標にしている俺は、魔法使いについて知るため、ファズに教えて貰ったことがある。

それは、宙に浮く魔法は他の人には使えないということだ。

しかし今こうして実際に俺は浮いているから、人ではないことは確かなのだろう。

そしてもう一つ、宙に浮いている高さだ。

いくら魔法使いといえども飛べる高さはせいぜい上空100メートルくらいとのことらしいが、雲の上まで飛べるとなると彼女の言う通り、本物の神様なのかもしれない。


「おや?意外と思考能力はあるようですね」


「......思考も読めるとか、これは確定っぽいな」


「お分かりいただけたようで何より」


しかしひとつ疑問がある。

何故こいつは俺を呼んだのか。

最初に頭に浮かんだのは悪魔の子と呼ばれた俺を殺すこと。

しかし、こいつがそんなことをするとは到底思えないのでさらに謎が深まってしまった。


「まぁ、流石に理由までは分からないでしょうから私が説明します!」


ドヤ顔で胸を叩く神様。

揺れる胸にばかり目がいき思考があまりまとまらなさそうだ。


「あぁ、頼むわ」


「死んでください......あなたをここに呼んだのは私の代わりをしてほしいからです」


「......なるほど。小さかったが、最初に言った一言のせいであとの言葉の意味がよくわからなかった」


意外と毒舌なんだね!

まぁそんな神様も可愛いけど!


「はぁ......少し詳しく説明するとですね、神様こと私、マーシャは飽きてしまったのです」


「マーシャさんか、いい名だ。俺んトコ来ないか?」


「死んでも嫌です......飽きたというのはこの世界にです」


何を言ってるんだこの神様は?

カステルは魔法が主体な世界だから、魔法を研究する者もいる。

その研究者達の手によって、今なお新しい魔法が次々と生まれてるって話だったが、神様から見たら魔法そのものが飽きた原因なのか?

あと意外と毒舌って響くね。


「鋭いですね、私が言いたいことはズバリそれなのです。何でもかんでも魔法魔法って、流石に魔法にしか頼ってないと見てるこっちは退屈なんですよ!人としての本質を忘れてませんか!?魔法ってなんですか!?」


おっと、現在進行形で魔法を使っているお方が何か言い出したぞ?


「魔法解きますよ?」


「許してください」


なるほど、どうやら神様はSのようだな。

発言や思考には気をつけなければ。


「まぁ、飽きたってのは分かったが、俺は何をすればいいんだ?」


「先程も言いましたが、私の代わりをしてくれればいいのですーークルシュ・アギトさん。あなたには神様になってもらいます!」


そんな重大宣言を俺は受け止めて噛み砕く。

俺が神様になる。

アイアムゴッド。

なるほどなるほど。

そんなくだらないことを考えていた俺は重たい口を開き、


「おっけー」


「意外と軽い!!??」


ーー今日から俺、神様になるっぽい。

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