魔法が当たり前な世界で神様になりました

りゅーと

第1話

地球とは別の場所に位置するいわゆる異世界。

通称カステル。

この世界では魔法こそが至高であり、全ての人が魔法を使える世の中。

火を操れるのはもちろん、水、自然、雷など、魔法の種類は様々だ。

そんな世の中で、不幸に立ち向かう少年がいた。


「パンチ!パンチ!」


サンドバッグを殴り続ける少年は汗を拭うと、切り株に腰掛けて溜息をついた。


「やっぱり魔法って便利だよなぁ......」


目の前を横切った、というより空を飛んで移動する人達を眺めながら少年、クルシュ・アギトは呟いた。

生まれついた瞬間から魔法が使えるのが常識なこの世界で、生まれた瞬間から魔法が使えないと診断されたクルシュは悪魔の子とされ、親からも見放され、山に捨てられた。

その時偶然通りかかった旅人の青年がクルシュを助けて、今に至る。

15歳になったクルシュは以前までは旅人と共に行動していたが、自らの故郷を再び訪れた時にとどまることを決意したという訳だ。

その時に自分が生きているとバレたらまずいので、故郷の街から少し離れた場所に小さな小屋を建て、そこで暮らし始めた。


「力が欲しい......!!」


と、厨二病的なことを呟いてももちろん何も起こらない。


「悪魔よ......!」


何も起こらない。


「神よ......!」


何も起こらない。


「ふっ、今日はこのくらいにしといてやろう」


「何してるの?」


「ヒャイッ!」


突然声をかけられて変な声が喉から出る。

皆もあるだろ?

こういう経験。

声をかけてきたのは、俺よりちょっと背が低いくらいの透き通ったボブカットの青髪が特徴的な女の子。

目は少しだけつり上がっていて、胸の発育も結果いい感じのいわゆる美少女というやつだ。


「今日も筋トレしてたの?」


「まぁね」


今日も、という言葉の通り、道に迷った挙句ここに辿り着いた彼女は何故か俺のことをいたく気に入ったらしく、ほぼ皆勤賞でこの家に入り浸っている。

街から遠いというのにご苦労なこった。


「それで、今日もやるの?」


「もちろんだ。今日こそ絶対にファズを倒してやる」


ファズ、というのは彼女の名で、フルネームはファズ・マクテリア。

名家のお嬢様らしいのだが、俺は知ったこっちゃない。

そんな彼女は魔法をそこそこ使えるので、1日1回模擬戦をしてもらっている、もとい俺の筋トレに付き合ってもらっている。


「それじゃ行くよー、よーいド......」


「先手必勝!必殺砂かけ!」


相手の居をついた俺の必殺砂かけ。

文字通り砂を相手にぶちまけて、目潰しさせたり、煙を上げてそのうちに攻撃するというなんとも活かした必殺技だ。

そんな俺の必殺技をファズは、


「......サイコキネシス」


「ギャァァァァァァ!!!目がぁぁぁ!!!」


戻ってきた砂が全部俺の目に的中!

会心の一撃!

クルシュに100の精神的ダメージ!

クルシュに1の体力的ダメージ!

クルシュを倒した!


「くっそー!こうなったら必殺落とし穴装置起動!ポチッとな」


昨日のうちから掘っておいた落とし穴。機械仕掛けにしたため、ボタンを押すことによって起動するようにしてある。


「......サイドチェンジ」


「それってポ〇モンの位置入れ替えるやつじゃ......イヤァァァァァ!!!蛇ィィィィ!!!」


落とし穴の中に蛇がわんさかいるわ、変な虫がいるわまさに地獄絵図。

ちくしょう!

昨日ドヤ顔で落とし穴掘って、夜になったからテンションおかしくなって蛇捕まえて入れたの忘れてた!

あの時の俺をぶっ飛ばしたい!


「だが、ふんっ!」


「おおっ」


俺の身長よりも少し高いくらいの穴をジャンプして脱出する。

地上でしゃがんで待っていたファズが感嘆の声を漏らす。

それもそのはず、魔法でなんでもできる世の中なので筋トレしたり運動する必要も無いため、身体能力が高い人は滅多にいない。

魔法が使えない俺はとにかく鍛えまくったため、こういった能力値は高いという訳だ。

そして俺にはファズを動揺させる必殺技がある!


「これで終わりだ、ファズ......愛してる!!結婚してくれー!!」


どうだ!

この俺からの告白でファズは動揺するに決まっている!

そこを攻撃すれば勝てるはず!

あぁ、俺はなんて賢い人間なんだ......。


「......ハイ」


まじで?

そこは照れて隙を見せるところじゃないの?

なんで走り出したの?


「......キック!!」


「それ魔法じゃな......ギャァァァァァァ!!!」


ハイキックを食らった俺は断末魔をあげて地面に倒れ込む。


「悪は去った」


「ま、まだ終わってない!」


声を上げた途端、眩い光が辺り一帯を包み、俺の意識はそこで途絶えた。



「......き......さい」


うっすらだが意識が戻り、耳に聞きなれない声が入ってくる。


「起きてください!」


「はいっ!」


「良かった、死んじゃったかと思いましたよ」


「ま、」


そこに居たのは金髪ブロンドを背中まで伸ばしている物凄い巨乳のお姉さんだった。

後光のようなものが差し、女神を彷彿とさせた。


「ま?」


「ママァァァァァァ!!!!!!」


なぜかそう叫ばずにはいられなかった。

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