第21話 鈴木一朗-2017年9月10日

「今日から、この方が学校の用務員になります」


その日の朝礼で、紹介された中年を見て、生徒が一斉にどよめいた。


グラウンドにしつらえた台上で、その痩せた男は、ぺこりと頭を下げた。

「鈴木一朗と申します。息子もこの高校の卒業生です。

精一杯、がんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします」


男は、頭を下げたあと、よろしくとでも言うかのように両手を胸の前で広げて、振ってみせた。


にこにこしている。


彼の両手は、真っ赤だ。骨にうっすら透明な皮を張ったような奇妙な見た目をしていた。

血管や筋肉が透けて見える。


事件の時、骨が見えるほど濃硫酸で溶けた皮膚が再生して、そんな風になったのだろう。

頬にも濃硫酸がかかったのか、直径7㎝ほど、えぐれて赤い皮膚がのぞいていた。



痛い



と見た者はみな、わけのわからない不快な痛みを感じた。




隣にいた憤上が、アユに囁く。


「中田先生でしょ? 鈴木の父親を学校に雇わせたのって」


アユは聞こえないふりをした。


「いったい、どんな手を使ったんです?」


まさか、校長や理事長とあんた、寝たんじゃないだろうなと

憤上の目が言っている。


「さあ?」

憤上が、恐ろしいものでも見るような目でアユに言った。


「あんた、いったい、何考えてんだ?」

その言葉にアユはおかしくなって笑った。


「やだな。

私が考えてることなんて生徒の将来のこと以外、あるわけないじゃないですか」

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