第20話 浜本裕司-2017年9月1日

夏休みが終わって、学校に来るとホッとする。


アユにいたずらできない夏休みは、クソつまんねー。


浜本はそう思う。


夏休み中は、

あ・え・て受験勉強をしないというプレイをしてみた。


ひりひりするかと思ったけど、あんまりだった。


D判定とE判定がずらり並んだ全国模試の結果を見ても


DE(で?)って感じだ。

むしろ、クソだりぃ模試を受けただけで、俺、エラいじゃんと思った。



それよりも今は、アユだー。

アユのことを考えていると、ムラムラじゃなくて、

モヤモヤじゃなくて、キュンキュンじゃなくて、

オラオラじゃなくて、

んーと、

なんか心臓がピクピクする。


でもって、このピクピクはなんかヤバい気がする。


トモダチの中で一番、頭がいい三谷に聞いてみた。


「トオルぅ、

それがないと、精神的、肉体的に落ち着かないっていうか、

そわそわするっていうか、まともじゃいられない状態って、なんて言うんだっけ?」


透の頭を殴りながら聞いたから、すぐに返ってきた。


ボグッ!!!


「あっあっ!ごめん、許して! 

それは『依存』っていうんだよ」


依存、俺がアユに依存かあ。


依存はなんかヤベー気がする。



母親にさえ、親にさえ、依存していない。

そんな俺が!



「ユージ、あんた高校卒業したら、どうすんの?

高卒ニートとか勘弁しなさいよ。

似合いすぎて、どーしようもないんだから」


と母親が言う。


うるせー、自動ゴキブリ殺戮機、自動ダイエット商品購入機、自動ATM!


としか思わない。

それは俺が親に依存してないからだ。


何を言われても

心臓に毛が生えている「勇者ハマモト」は動じない。

家にどんだけ貯金があるかも知っているし、

俺の一人や二人くらい、どうとでもなるって確信がある。


俺の未来、浜本家にがっつり寄生するゴキブリ、それでいいじゃんって思う。



でも、アユはだめだ。何か気になる。




夏休み前、クラスの何人かでつるんで、アユにいたずらをしようと言い出したのは、誰だったか。


そうだ、甲木だ。野球部で坊主で、デッ歯の甲木だ。


30人、クラス全員がアユのことを好きだった。


でも、甲木、浅野、砂田、高橋、七原、吉井、三谷、それに俺、

この8人は、アユにイカレてることにかけては、選りすぐりの選ばれた戦士だった。

エロくてかわいいだけじゃなくて、真面目で一生懸命で、優しくて、ひたむきでなアユは、マスカットおっぱいのピーチ尻姫だ。


ゲームとか、映画とか、通学電車とかには、ぜってーいねえようなヒロイン、それがアユ。


「卒業したら、つきあってください」ってクラス全員が妄想してたと思う。


あの、学校一モテる七原でさえ、アユに骨抜きにされてた。

毎日、毎日、保健室のベッドで、シコりながらアユを待ってたに決まっている。

もし、七原がアユと保健室のベッドで何かしちゃってたとしたら、

七原を刺すかもしんねぇと、勇者ハマモトは思う。


それは、何かちょっと興奮する。


いたずらに使うハンコを「田中」の文字にしたのは、

クラスに一人も田中がいなかったからだ。



「反転させても『田中』なのが、便利だな。」

と七原が言った。


「完璧ヒロインぶった、

『中田』の裏の顔、見てみたい。」

と俺は鼻の穴を膨らませて言った。


で、七原は、保健室のベッドのパイプに、

熱で反応する特殊インキの「田中」を仕込んだ。



俺と三谷と甲木は、

アユが毎日、通う、鈴木って卒業生の家、

そこの茶色いチャイムに


「田中」


のハンを仕込んでおく。


もちろんこれも、熱で反応する特殊インキだ。



最初は甲木がやった。


俺は何回かやったけど、めんどいから、やめた。


たいてい、透がやりにいく。


でも、アユの人差し指が


「田中」


で汚れる。


それってすごく気持ちいい。



「『田中』のハンコが、


肩やマブタ、手のひらに、知らない間につけられるのも怖いかもしんねーけどさ、

自宅で入浴中に、脱いだばっかの下着がなくなったら、

アユ、もっと怖がるんじゃね?」


イタズラが始まる直前、浅野がこう言ったとき、


こいつ、AVの見すぎで、頭がおかしくなった変態だなと浜本は思った。


イヤホンをつけっぱなしの吉井が、歌うように言う。

「どうやって、アユんちに入るんだよ?」


ひょろひょろの砂田がメガネを持ち上げて

「さすがにそれって、ヤバくね?」と言う。

手が長いからって、俺にやらせんなよと、砂田は続ける。


「おっもしれー。やろーぜ、やろーぜ」

そう言ったのは高橋だ。


すると、無口な甲木が、変なことを言い出した。

「そういや、俺、今日、職員室の前ですれ違った時、

アユが引き出しに入ってたヒモパン持って、

トイレに行くのを見た。

あんとき、アユ絶対、ノーパンだったと思う」


「ほんとかよ!?」

浅野がデカい声をあげた。


「ああ、絶対、ノーパン。

小学生の時、松井にサインをもらったグラブを賭けてもいい」

高校球児らしい甲木らしい言いざまだ。


「どっちの松井だよ、つーか、そんなの誰もいらねーし。」

と一応、浅野がツッコんだが、


「デカパンよりはヒモパンの方が盗みがいあるよな。」

と俺がのると流れが変わった。


「だな」

頷いた吉井が、三谷の尻を蹴りつける。

「つーことで、トオルぅ、何か知恵出せよ」


「え?え?」

蹴られた三谷は、あ、あと困ったような声をマヌケな声をあげて


「盗むのは難しそうだから、

パンツに濃硫酸をしみ込ませておいて、時間をかけて溶かすとかどう?」

と言った。


浅野が三谷の頭を叩く。

「ばっか、アユの美尻も溶けるだろ」


「ちが、脱衣所にある、脱いだ後の下着に濃硫酸を垂らすんだよ・・・」


吉井が三谷の尻を、ゲシゲシとエイトビートで蹴りながら言う。

「硫酸なんて、くせーだろ。それに脱衣籠の他の服も溶けるから意味ねーんだよ」



「バーカ」高橋が悪乗りして、ライトセーバーもどき、ミニ火炎噴射器で、

三谷の前髪を薙ぎ払った。


「わあああ、やめてよ」


三谷の前髪と眉毛が燃える匂いがした。


おもしれえ、

俺ももライトセーバーで、三谷の学ランでもでもブッタ斬るか、

と思ったところで、七原が言った。


「燃やせばいいんだよ」


「え?」みんなが一斉に七原を見た。


七原が言った。

「だから、脱衣籠の中の下着だけを燃やすんだよ」


七原がそう言ったとき、


ほんとにそんなことできんのかよと、浜本は思った。

実際、そう口にした。



しかし七原は、「できるさ」とこともなげにいった。


    


スマホのゲームで、謎解きRPGもやる、パズルもやる。

でも、そういう彩色されたグラフィカルな世界と違う、

妙なリアルが、七原の話にはあった。


七原は愛らしい童顔のままで言った。

「浴室とか脱衣所って、だいたい、湿気逃がしに外窓があるよね?

そこが施錠されてなきゃ、できる。

そのミニ・火炎放射をつっこめるだけの隙間さえあればね。」


吉井が言う。

「だから、んなことすりゃ、他の服も燃えるだろ?」


七原は動じない。

「ガッコの備品にある、防火スプレーを噴射しとけばいい」


「アユの体にか?」浅野が興奮して言う。


「違う、体育準備室にかけてあるジャケットの裏地にだよ。

防火スプレーは乾くまで時間がかかる。

裏地にたっぷり噴射しておけば、

帰りにアユがジャケットを着れば自然にブラウスにもしみ込む。

無味無臭だから、気づかれることもない。


浅野、高橋、砂田。下着ドロの好きな君らの話によれば、

アユはパンティを上に着ていた上着でくるむくせがあるんだろ?

そのライトセーバーもどきならさ、上着の隙間の下着だけに引火できるでしょ?

一瞬で燃え尽きるよ。

あとは、引火させないで、ガスで、ススを吹き飛ばせばいい」

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