第18話 アユ-2017年9月1日

夏休みが終わった。


出勤したアユはデスクの引き出しを開ける。


その下の段には、

横書きのハンコがぎっしり並んでいる。


3年B組クラスの生徒30人分。

もちろん、すべて男だ。


「浅野崇」(あさの たかし)

「甲木健一」(こうき けんいち)

「砂田彰」(すなだ あきら)

「高橋幸生」(たかはし ゆきお)

「七原令馬」(ななはら れいま)

「浜本祐司」(はまもと ゆうじ)

「三谷透」(みたに とおる)

「吉井直樹」(よしい なおき)

・・・・。


アユは知っている。


8人全員が

かつて自分の彼氏だった「田中シカオ」だということを。




うふっと笑ったアユに、そばを通りかかった憤上が言った。


「ニュースで見ましたよ。

鈴木んとこの親父さん、無罪判決出ましたね。

今日、釈放ですよね」


「ええ。よかったです」

アユがそう言うと、憤上は怪訝そうな顔をした。



「人ひとり殺して、遺体を薬品で溶かして処分して、それで無罪って、


正直、俺には納得できないすね」


「でも、殺そうという殺意のあった故意ではなくて、夢の中のことですから。

鈴木君のお父さんには何の罪もありませんよ?」


「そうなんですけど」


憤上は、これ以上話しても意味がないなというように、

話を打ち切った。


「そろそろ昼休み終わりますよ。中田先生」


「ええ、憤上先生も次は第二実験室でしたよね?」






帰宅して、風呂場の脱衣所でアユは服を脱ぐ。

肩こり用のしっぷをはがして、肩を鏡に映す。



そこには


「田中」


がいる。


保健室のパイプベッド、

しっぷ、ハーブのアイマスクに


七原が、「田中」を仕込んでいるのは知っていた。



わからないかなあ。


ふぅーっと、アユはため息をついた。


これから、起こることを考えて、恐怖で目まいがした。




私の中の「シカオ」を生かすのか、殺すのか。


さあ、どうしよう。

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