第11話 浜本裕司-2017年7月10日

ああ、くそつまんねー!


浜本祐司(はまもと ゆうじ)は、スマホの無料ゲームをずっとしている。


通学の電車でも、休み時間、連れとしゃべっていても、家に帰って母親の作った飯を食べてる時も、風呂に入るために服を脱ぐ寸前までも。

どれだけ、モンスターをブッタ斬っても、パズルゲームで高得点を出しても、

ギャルゲーで何人の女の子を脱がしても、全然、面白くない。

面白くないが、勉強するのも、連れと話すのも、現実にいる女の子となんとか

仲良くなろうとするのも、とにかく、すべてがめんどい。

正直言えば、シコるのも、ダルくてめんどい。


欲求とか欲望とか、よくわからない。

進路相談で、担任のアユから「進路、どうしたいの?」

とか、聞かれてもわからない。


「何もしたくない。とりあえず、普通で、平均で、そこそこで」

としか思えない。


そういえば、こないだ、電車が揺れて、

他校の女の子の肩に、腕がちょっと当たってしまった。


「は? 何?」


あの時の、女の子の眉をひそめた顔。

思い出すと、浜本は心臓がぎりぎりする。


その子の顔は

今、やってるエロゲーのヒロイン、アヤナにちょっと似てた。

ゲームの中で、スマホの液晶を高速でこすってこすって、

アヤナをむちゃくちゃにしてやった。

それでなんか、スッとした。


「ユージ、あんた、彼女いないの?」

たまに母親が言う。

うるせえ、自動洗濯機、自動飯やり機、自動脂肪蓄積機が、

俺に向かって、物を言うんじゃねーよ。


彼女はいないけど、オモチャならいる。

担任のアユだ。

毎日、アユにいたずらするのは、楽しい。

アユをいじめるのは、なんか気持ちいい気がする。



浜本は、自分では、ちょっとキツめの天パ以外はフツメンだと思う。

クラスメイトの七原みたいに、通学の電車で、他校の女の子にカッコイイと騒がれるのは

ちょっと羨ましい気もするが、七原は自分以上にヘタレらしい。


彼女も作らず、プールが始まってからはずっと体育をさぼって保健室に行ってる。


あいつは、なんか普通じゃない。


そして、目の前の友達2人を見る。


ずっとスマホゲームから目を離さない三谷透(みたにとおる)。

いじめられっ子って以外は、全然、普通だ。

三谷を殴ってみた。


「あっ」


三谷は、びっくりした目で浜本を見た。

びくびくした、情けない顔だ。


その顔が自分より結構、いいのがむかつく。

背も自分より2センチ高い、173㎝なのも、むかつく。


全然、面白くねー。

さっき、校舎の裏で、火の出るオモチャで遊んでいた浅野や砂田たちに、

燃やされた三谷のちりちりの前髪と眉毛が間抜けだ。


「おっ、ミミズ見っけ!」


イヤホンでずっと音楽を聞いていた、おしゃれパーマで、バンドをやっている吉井直樹(よしいなおき)がイヤホンを外さずに言った。


いつものことだ。


イヤホンから流れ込む音楽にリズム取るみたいに体を揺らしながら、吉井が言った。


「なあ、トオルぅ。このミミズで、イケるか、シコってみせてくんない?」


「え?」


三谷が吉井の指差す、地面でぶよぶよと動く、太いミミズを見た。


吉井が切れ長の一重で言った。


「俺、トオルのカッコいいとこ見たいなあーー」


おもしれえじゃん

と思った。


「あ、俺も!

もういっそ、トオルが

ミミズのホワイトソースがけ、食うところも見てみたいーーー!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る