第6話 浅野崇-2017年5月9日

二カ月前、GW。


浅野は数学の補習を受けに来て、プールの清掃に立ちあうために出勤したアユと職員出入り口、靴箱の前で出くわした。



下駄箱に入っているとはいえ、教師の靴が並んだそこは、むっと生な匂いがした。


アユの大きな胸。

汗でうっすらと中の水着が透けて見える。


職員室の下駄箱に、アユのカラダを押しつけて、

グラウンドで練習している野球部のヤツらの出す声や音をBGMに、

もちゃもちゃ動くヤツらの白いユニフォームをはるか彼方の背景に、

アユのTシャツと水着をまくりあげて、アユとヤる。


一瞬、脳裏に浮かんだ映像はAVみたいだ。

主演、中田アユ。

もちろん監督は俺、浅野崇だ。



「浅野君、暑いけど補習、がんばってね」


アユの言葉にハッと我に戻る。

現実に戻ったのに、変な声が頭の中に聞こえた。


「男子校にいる自分にとって、ヤリたいっていうのは、たぶん、そいつを好きってことだ」



だから、自分の返事を待って、その場を動かないアユに言った。


「俺、せんせーが好きなんだけど」


「え?」


アユの目が見開かれる。


その顔に、その唇に、その瞳に、自分からあふれるもんを思っいきりかけたい。

汗なのかツバなのか、精液なのか、よくわかんないけど、どーしようもない、何かを。


いつも自分の部屋で、想像の中でアユにそうしているみたいに。



「卒業したら…」


ヤらせてとは、さすがに言えず、


「つきあって」と言うか、「いっぺん、デートして」と言うか、

どっちがいいか、心ん中で天秤にかけた。



その間に、アユが「浅野君、ありがとう」と言った。


その瞬間、また頭の中に声が聞こえる。


「こういうときの女の『ありがとう』っていうのは、フる前の接頭語だ。」


ヤベ、昨日の現代文の補習の知識がこぼれちまった。


それとも「しゃこーじれー」ってヤツか。


しゃこーじれーは、ちょっとすぐには漢字がわからない。



「気持ちは嬉しいけど、」

アユが言った。


「先生は、みんなの先生だよ」



頼む、その台詞、AVシチュで言ってほしい。


独り占めできないんなら、いっそクラス全員で輪姦でもいい。


そんな妄想を取り残して、アユが言う。


「じゃ、補習、がんばってね」


そして、アユはプールの方に行ってしまう。



揺れる短パンのプリ尻。

あの下も水着なんだろな。



「カキーン」


グラウンドの方から、快音がした。


ホームランでも打ったのか、わっと歓声がした。


たかが、練習だろ、バカじゃね

と浅野は思う。



それよりもなによりもアユにフラれた。


あーあ、俺の方は


こ き く くる くれ こよ

カ行変態活用


っつーか、この恋にめちゃコきまくってんだけどな。

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