第3話 アユ―2007年

10年前、アユは高校生だった。



ハッハッハッハッ!


アユのハダカのカラダの上に、ハダカのシカオがいる。


アユの乳房に、シカオの長い舌が絡みつく。

シカオの下半身が、アユの中に何度も何度も忍び込む。


細いアゴ、切れ長の目、へらへらしただらしない口元、痩せた体。

全部がシカオだ。


腕も舌も足もアレもシカオは体のパーツがどこもかしこも細くて長い。

顔は決して悪くないのに、名前がシカオなのに、

ヘビみたい、それがシカオだ。


場所は、シカオの部屋。


母一人、子一人で暮らすシカオの家に、母親がいることはほとんどない。


ヤりたい放題


というのはきっと、こういうことをいうんだと、

大人になった今、アユは思う。



シカオは避妊とかどうでもよくて、アユの胸とかお腹に出すのが好きで。

バイクとか定時制高校とか、オプションがわかりやすいバカヤンキーで。


でもって、意外にお母さん思いで。



「なあ、俺さ、きっとアユと結婚すると思う!」


その日、アユの胸に、3回目の精液を放ったシカオは言った。


はいはい、わかったわかった。


アユは心の中で言う。


3回できると、いつもこういうことを言い出すのがシカオだ。


ちなみに4回目ができると


「俺、もう、女とすんの、とーぶん、いいや。

労働基準法違反だって、ストを起こして、アレがもげそう」

とか言い出す。


けれど、この日は違った。


「なあ、アユ。

俺、ほんと、マジ、お前のこと好きだからさ、

お互いのカラダに、名前入れねえ?」


「え?」


最初は冗談かと思った。


けれど、シカオは本気だった。

スッパダカで、立って部屋の隅にあるタンスをあさると、

何か出してきて、


「ほら、安全ピン!これで、やろ」


と言った。


シカオの手には

ひまわりの形をした名札がある。

名札には確かに安全ピンがついていた。


「母ちゃんがさー、保育園のときの名札、まだとっておいてくれてんの。

ほら、アユ、見てみ。

俺、ひまわり組だったの」


「田中シカオ」


ビニールプレートのひまわりの花びらの中に、シカオの名前があった。



この時、思わず笑ってしまったのがいけなかった。


アユがウケたのに、気をよくしたシカオは、

アユの太ももに安全ピンで、自分の名を刻んだ。


それは信じられないほど痛かった。



やだ、シカオ、痛い、痛いって!!!



上半身にシカオから借りたTシャツを着、ベッドの上で両足をひろげて、

痛みにのたうち回るアユに、シカオはへらへらと楽しそうに安全ピンを動かし、容赦なく墨を流して揉みこんだ。


「菊〇宗」

あの時に着ていた、シカオに借りたダサいTシャツのロゴまで、

今もくっきりアユは思い出せる。


シカオの母親が、スナックかキャバクラかピンサロかおっぱいパブか、

よくわからないが、

お酒を出す店に勤めていたせいで、

海外のヌードグラビアをプリントしたTシャツとか、

そういうイタさの真髄を極めたというか、暴力的というか、

ファッションテロのようなTシャツやエプロンが、シカオの家には腐るほどあったのだ。


そういう服をアユに着せてヤるのも、シカオはとても好きだった。

母親の部屋着だからか、


「なんか、母ちゃんとやっているみてーだ!」


と恐ろしいことを口にして、シカオはバックでアユを責めた。



それにしても、刺青なんて、幼稚なことをしたものだ。


今、教師という職についているアユは、

そういう低能なことをする青少年を腐るほど知ってる。

でも、女子高生だった自分は、そんな彼らよりさらに脳が腐っていたとしか思えない。

恋愛という錯覚のせいだ。



刺青は、シカオの内ももにも同じ位置に、横向きに「アユ」と刻まれている。



あの時、シカオに言われて、彼の左の内モモにアユは安全ピンを突き立てた。


「うはっ、何か気持ちいい、、、かもしんねぇっ!」

そう言うシカオに

冗談でしょ、

とアユは思ったが、実際、安全ピンの先を皮膚の上で動かす間、


シカオのそこがムクムク反応するのを見て、

変態じゃんと思った。


「ね、ね、アユ、咥(くわ)えて、咥(くわ)えて。

咥(くわ)えながら、ぐりぐり彫って

ね、ぐりぐりって・・・」


シカオはバカなだけじゃなくて、変態だった。




とにかく、こうやって

「アユ」と「シカオ」が二人の内ももに刻まれた。



これで二人が結婚して末永く幸せに幸せに暮らしました、

なら問題はなかった。


でもアユはシカオと1年持たずに別れ、内股には「シカオ」の文字だけが残った。



アユは、シカオと別れてから、

何人か彼氏ができたが、

内ももの「シカオ」がいつも邪魔をした。

水着を着ても「シカオ」がいる。



そして、就職が迫った大学4年生。

アユは教員採用試験に合格した。

教員になれば、修学旅行やキャンプなど、他人とお風呂に入る機会が何度もある。


「シカオ」が

見つかったら、終わりだ。


その恐怖に駆られて、

お金を貯めて、病院を訪れた。


「シカオ」を消してと頼むために。



けれど、事前検査で医者から重度の麻酔アレルギーと告げられ、

さらに痛覚過敏症まで判明した。



どうりで、安全ピンで「シカオ」を名前を彫った時に、

激しく痛かったはずだ。


手術で「シカオ」を取り去るのは難しいー

それが医者の診断だった。



というわけで、「シカオ」はまだ、アユのカラダにいる。

あゆの内ももを、寝床にしてゆうゆうと。

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