第二楽章 ー始まりの音ー

episode4:Project白雪

 

 白雪にもらった白い封筒に入った手紙を、中身が傷つかないように鋏で切る。

 窓の外は傾いた日差しが差し込み始めていた。


 もうすぐ夜になる。

 その様子は、僕の未来を予感させるように感じた。



###



「――早見優人様」


 貴方は、日本政府が管理するニート候補生更生プログラム「Project白雪」の第一被験者に選ばれました。尚、秘密保持の為以下の契約を守ってもらいます。


 一 Project白雪は政府が試験的に実施するものであり、原則情報を故意に漏洩してはならない。情報を漏らしてしまった場合、賠償金として一億円を払ってもらいます。但し、担当が良しとすればそれは漏洩と認められない。


 二 契約期間は一年、その間の生活費等は自身で賄うこと。


 三 契約期間が過ぎた段階で被験者には一億円の報酬金をお渡しします。同時に、こちらで叶えられる願いであればどんな願いも一つだけ叶えることを約束致します。


 四 「白雪」についての苗字は被験者と同じ「早見」を名乗らせてください。書面上での手続きなどはこちらで全て行います。


 以上、後ほど責任者から説明があります。

 詳しい話は担当者へご質問ください。


 補足ですが、白雪は貴方の予想していた通り、捨て子ネグレクトです。近年日本では育児放棄が増えており、どこの施設も現状手に余る状況で、今もなお増え続けています。


 このProject白雪の成功が、今後日本の子供達の未来がかかっています。

 真剣に向きあって結果を出していただけると幸いです。

 


「なんだよ、これ……っ」



 思わず手紙をクシャッと握り潰す。

 封筒の中身を見なければよかったとさえ感じていた。

 

 (……今後の僕の行動一つで、今後の日本の子供たちの未来が決まる、だと?)


 書いてある内容が内容だけに言葉にならないほどの重みをこの紙切れに感じてしまう。頬に伝って汗が何滴か流れてくるのが自分自身で分かった。すると、白雪が心配そうな表情で僕の手を強く握って引っ張り声をかけてくれた。


「パパ、大丈夫ですか? よかったら、これどうぞ」


 そう言って、水の入ったコップを渡してくる。


「ありがとう……、助かるよ」


 僕は白雪からコップを受け取り、すぐさま飲み干す。


 (……バカか、こんな小さい子に気を使わせてどうする)


 まずは状況の整理からだなと思い、もう一度手紙を広げて内容を確認しようとすると、見計らっていたかのように部屋中に「ピンポーン」とチャイムが鳴り響く。


 そして、ドア越しからハスキーな女性の声が聞こえてきた。


「やぁ、手紙は見てくれたかな?」


「あっ、この声しーちゃんの声ですっ!」


「……この手紙に書いてあった担当責任者がしーちゃんだったのか」


 (しかし、この声どこかで聞いたことがあるような気がするな……)


 思い出せそうで思い出せない。

 喉に骨が引っ掛かった感じがして、思わず眉間に皺が寄る。


 首を傾げながら玄関のドアを開ける。

 すると、そこには知った顔の人物が立っていた。


「あんたは……」


「久しぶりだね、早見少年」


「道理で聞き覚えのある声だと思いました」


 いつ見ても変わらない特徴的な赤色の長い髪。

 

 黄色い二本のカラーヘアピン。

 背丈が高く豊満な胸が目立つ、シンプルな真っ白いシャツと黒のロングスカート。


 その恵まれた容姿とスタイルの良さからも知られる今CRSクラスの世界で彼女の名前を知らない人はいない。


「今はCRSランク、女王クイーンプリメーラでしたよね」



 ――――狂姫きょうき東雲しののめしずか



 


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