episode2:あなたが、私のパパ?
――その日、家の前で白い箱の中で眠っている銀髪の美少女と出会った。
事は一時間前に遡る。
街はクリスマスで賑わっていた。
僕は、バイト先である喫茶店「月の兎」で、アルバイトを終え、店で余ったケーキを自転車カゴに入れて、崩れないように家に向かってペダルを漕いでいた。
バイト先から20分くらい走ると到着する我が家は、三階建ての新築マンションだ。室内は洋室の3LDKで快適としか言いようがない設備の数々。
文句の付け所がない部屋だが、疑わしきは月々の家賃だった。
なんと、敷金礼金なしの毎月3万円という破格の安さ。
さすがに怪しすぎると思い、なぜこんなに安いのか聞いてみると、なんでも政府がとある目的で建てた新築マンションとのことで、何も心配が要らないですと笑顔で対応された。
高校卒業後、なんとかバイトで食い繋いでいるニート候補生(自称)になってしまった僕にとっては、この待遇は運がよかったと言えるだろう。
「さぁ、早見さん! 今日しかないチャンスですよっ!」
契約直前のお決まりトークに、どこの誰が契約するのだろうかと以前の僕なら笑っていただろう。
だが、実際は「そういうことなら契約します」と、迷わず即決したのは言うまでもない。
(……だって、安いに越したことはないからな)
苦笑いしながら、つい最近の出来事のように思い返す。
家の前に到着後、半分ほど埋まっている駐輪場に自転車を止めて鍵をかけ、自転車カゴからケーキの入った袋を取り出して家に向かって歩いた。
ガラス張りになっているドアが自動で開く。
僕はエレベーターに乗って目的地である二階のボタンを押した。
ほとんど無音の状態で階に進んでいくと、ピンポーンと音が鳴り、二階に到着すると同時にドアが開く。
普段の僕ならこれから部屋に入って、余りもののケーキとご飯を食べたあとは、本でも読んでいただろう。
――しかし、そうはいかなかったのだ。
そこには、日常とは明らかに違うものがあったのだ。
「……なんだこれ?」
そこには見慣れない一回り大きな白い箱。
恐る恐る近づいてみると、宛先は僕の名前で「早見優人様」と書いてある。
どうやら宛先間違いではないらしい。
(……嫌な予感がする)
呼吸を整え、白い箱をそっと開けてみる。
すると、そこには銀髪の美少女が気持ちよさそうに寝息を立てて眠っていたのだ。
「――なっ!?」
すぐに開けた白い箱を素早く閉める。
周りをキョロキョロと見渡すが誰もいない。
傍からみたら、今の僕は明らかに不審者に映っているだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
こんな姿を見られたら、絶対に良くない誤解を生むことになる。
……いや、確実に誤解を生む。
『速報っ! 早見ロリ人容疑者逮捕っ!』
なんてネットなんかに載せられたらたまったものじゃない。
それにしても……。
「……気のせい、じゃないよな」
いや、もしかしたら気のせいかもしれない。
淡い期待を込めながら、もう一度白い箱をそっと開く。
すると銀髪の美少女はやはりそこにいて、先ほどと違うのは海のように綺麗な群青色の瞳を輝かせて僕を見ていたことだ。
「えっと……」
驚きを隠せない僕に対し、目の前の少女はとんでもないことを口にしたのだった。
「――あなたが、私のパパ?」
僕は瞼を抑えながら、思わずため息をつく。
「……勘弁してくれ」
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