第23話 ミヤさんとヒロ

 ミヤさんの涙は、さっきとはまったく別物だった。

「ヒロぉ!」

 少年を抱きしめて、まさに号泣だ。


 僕は呆気にとられていた。

 そして怖くもあった。


 彼が僕を見る。

 夢の中でそうしていたように。


 ヒロという少年は、ミヤさんの背中に手をまわして、子供にするようにトントンとたたいた。

 明らかに彼の方が子供なんだけど。


 感情が少しおさまってきたミヤさんが、ようやく喋れるようになった。

「どうしたのよ。なんで? ヒロがここにいるなんて」

「決まってるじゃない。ミヤに会いに来たのさ。駄目?」

「駄目じゃないけど、嬉しいけど、すごく。でも……そんなこと……やっぱり駄目でしょ……」


 ヒロは苦笑いする。

「まあ、そうなんだけどね」

「でも嬉しい!」

 ミヤさんは、またぎゅっとヒロを抱きしめた。

 ヒロもまんざらでもなさそうに、ミヤさんにされるがままになっている。


 えっと。

 僕はお邪魔かな。


 そっとその場を離れようとしたら、呼び止められた。

「そうそう、ついでなんだけど、君にも用事があったんだよ、クウ」

 その声で、その場の空気が凍った。


 ミヤさんが、ヒロの体をそっと離す。

 戸惑った顔をしている。


 ヒロが言う。

「このままじゃ遠からずシンジァンの二の舞だ。時間がない」

「シンジァン……」

 ミヤさんの顔色が変わった。今にも倒れそうなくらい蒼白だ。

「だから僕がきたのは、特例中の特例だ。みんなも承知している」


 僕は怖い。

 だけど、気がついた。この恐怖は目の前にいる少年からくるものではない。

 もっと、外から。

 ……この嫌な感じ。

 暗くて、黒くて。

 前にも、どこかで。


「クウには、思い出してもらわなきゃいけない」

「……何を」

 僕が一体何を知っているっていうんだ。ただの田舎の高校生なのに。

「何もかもさ。潜ればわかる」

 ヒロは事もなげに言う。

 そういえば、前の夢の中でも同じようなことを言ってたな……


 ヒロがミヤさんに言う。

「クウのキーウェイは、サアルが持ってる?」

 ミヤさんは言葉もないまま頷いた。

「すぐに帰ってきてもらう。残念だけど、僕もあまりのんびりしていられないからね」

 ヒロはそう言いながら、蒼白なままのミヤさんの顔をのぞきこみ、頬をそっとなでる。

「だいじょうぶ。だいじょうぶだから」

 子供に言いきかせるように、ゆっくりと話す。

 ミヤさんは、また泣きそうだ。


 この二人は、どういう関係なんだろう。

 姉弟にしては、歳が離れすぎているような気がするけど、ありえなくはないかな。

 しっかり者の弟と、感情の起伏が激しい姉。

 それにしても普段は会えないっていうのがおかしい。


 ヒロがこっちを見て、言う。

「ミヤは、僕のママだけど?」


 は?


 ていうか、口に出していないのに?

 考えたことを読まれている?


 そうだ。

 これは、夢の中と同じだ。

 

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