第19話 そこは暗くて広い
ミヤさんとサアルが僕を迎えにきたとき「決して切れない縁」と言ったことがあった。
僕はその言葉が本当にうれしかった。
僕は「仲間」なんだ。
違和感もなく、僕はここに居てもいいんだ、と思えた。
いつか、生まれた町に行きたいな。
いつの間にか眠っていた。
あれ?
暗い。
僕は寝ぼけたのかと思って、目をこすった。
柔らかいソファの感覚がなかった。
座っていない? 立っている?
そう思ったら、足が床に着いたような気がした。
なにもかもがぼんやりしている。
まるで頭の中のようだ。
広い……
それだけは感じた。
なんとなく手を見た。握って、開いた。
普通だ。
「君は本当にクウ?」
ふいに声がきこえた。
驚いて振り向く。
いや、振り向いてはいなかった。
いやいや、確かに振り向いた、と思った。
僕は混乱している。
「やれやれ……」
声の主は、ため息をついたようだ。
『だっ……誰?』
声を出したと思ったけれど、出ていないように感じた。
もう、なんだよ!?
僕の目の前に立っていたのは、小学生くらいの男の子だった。大きな、薄い色の瞳。吸い込まれそうだ。
「まったく、見てらんないね」
彼は呆れたように言う。
「どうせ皆気になってるんだろうから、構わないよね?」
彼がそう言った瞬間、声が出るようになった。
「どうなってる……の……?」
「それはこっちがききたいよ。君は一体どうなってるのかな。本当にクウ?」
「僕は、クウだ」
それだけは自信を持って言える。
それよりも。
「君は誰?」
彼はまたため息をついた。僕の問いにはこたえない。
「潜れる?」
「は?」
彼は下を指差した。
意味がわからない。
「潜れば、なにもかもわかるんだけど」
「……どうやって」
「それは君も知ってるはずなんだけど」
「いや、知らない」
夢かな。
夢、だろうな。
僕はやっと気がついた。僕は夢を見ているんだ。
夢の中で夢だとわかるって、ちょっとすごいぞ。
「夢じゃないんだけどなあ」
否定された……
「君は、ずっと深くへ潜れるはずなんだよ。これはどういうことだろう」
こっちがききたい。
「手を貸してあげたいけど、そこまでやるのはさすがに駄目だろうね。干渉は禁止なんだ。今の状態も、本来は許されない」
「ミヤがいるから、少しだけなら目を瞑ってもらえてる。ねえ、クウ。頑張ってごらんよ」
だから、何を!?
ざわざわ、と、気配を感じた。
目の前の彼だけじゃない。もっと何人も、周りにいる。見えないけど。見られている。
全身に鳥肌が立つ。
「僕らは互いに監視し合っているけど、ずっと消えていた君が現れて、皆が気になってる。本当に、これはどういうことだろう」
彼の気配が、急に薄れはじめた。
「あ、待って。教えてくれないの?」
彼は、僕の問いにはこたえない。
「高太郎は、君に何をしたんだ?」
気配が消えた。
ざわざわしていた気配もなくなった。僕はひとりだった。
足元を確かめた。
固い。
潜れるはずがない。
『高太郎は、君に何をしたんだ?』
僕は、何をされたんだ?
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