第18話 この家の人たち
新しい家にきてから一週間ほどたつ。
みんなの様子も少しずつわかってきた。
この家は、どうやら職場と住居を兼ねているようだ。ミヤさん、サアル、大和の三人は、なにか仕事をしているようだ。
一日に数回、電話がかかってくる。ミヤさんが別人のような愛想のよい声で喋っているときがある。たいていは暇そうにしているけど。
大和とサアルはよく出かけている。
アトもいつも朝出かけていく。働くような年齢ではないから、学校なんだろうと思う。
どうして職場にアトも住んでいるのかわからないけど、それは僕も同じだった。
つまり、彼も僕と同じような事情があるのかもしれない。
「仕事って、どんなことしてるんですか?」
ミヤさんがあまりにも暇そうだったから、きいてみた。
僕はいつものように空に向かって座っている。ミヤさんは窓を背に座っていて、やる気がなさそうに雑誌をめくっていた。
「ん? ここの仕事?」
ミヤさんは気怠けに言った。
僕はうなずいた。
「んー……一言で説明するの難しいんだけど、ま、便利屋って感じかしら」
「便利屋? 掃除とか、重い家具を動かしたりとか?」
それくらいしか想像できなかった。
「うーん。ちょっと違うかな」
ミヤさんは、姿勢を正して座りなおした。
僕もなんとなく背筋が伸びる。
「あたしたちの町にはすごく古い歴史がある文化財みたいなのがあってね、それを維持する支援をしてくれてる人がいるのね。ここの仕事は、そういう人たちにお返しするって意味もあって、いろいろ雑用をお手伝いしてるわけなの」
「支援してくれる人……」
「そう。要するに、それなりの資産家の人たちってことね。ここのビルの持ち主もそうよ。格安で借りてるの」
わかるような、わからないような。
「ぶっちゃけ、家族にも誰にも内緒にしたいようなコトってあるでしょ。そういうお手伝いよ。けっこう重宝されるんだから。お役に立ってるのよ~」
うーん。わかりたくないけど、わかるような。
「それって、あんまり堂々と言えない仕事ってことですよね……」
ミヤさんは大きく見える瞳をくるくる動かすだけで、こたえない。やっぱりそういうことか。
「あのね、大丈夫よ。青少年に害を及ぼすようなことは、何一つありません。それは絶対。あたしが許さないから」
なんだか肝っ玉母さんのようにみえて、僕はつい笑ってしまった。ミヤさんがそう言うなら、きっと大丈夫なんだろう。ということにする。
もうひとつ、気になっていることをきいてみる。
「アトは? どうしてここにいるんです?」
「それは、仲間だから」
またしても頭の中に?が飛ぶ。
「クウちゃんも、そうよ。だからここにいるの」
仲間……
僕にはそんな意識はなかった。なにしろ、何も知らないから。
だけど、悪い気はしない。
生まれて間もない頃に、僕は父親である斉藤高太郎に連れ去られた。
それが元凶だったのは間違いない。そうでなければ、僕は生まれた町で育ったはずだ。
今の僕は、何も知らない。何もできない。
なんてことしてくれたんだろう。あの人は。
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