第14話 空っぽ

 帰る場所がない。

 僕は、あっけなく家を失ってしまった。

 家族もいない。

 家族だと思っていた人は、全然関係のない人だった。

 

 僕は空っぽだった。

 空気すら抜けて、なにもない。

 頭の中も空っぽになったようで、なにも考えられなかった。


 僕は、少しの荷物だけを持って、言われるままに、車に乗った。

 白い手袋をした運転手がいる。

 助手席には、サアルがいる。

 僕の隣には、ミヤさんがいる。


 車はとても滑らかに走った。

 シートは柔らかく、座り心地が良い。

 いつの間にか高速道路を走っている。

 空が、広い。

 冬の陽はもう少し傾いていて、夕方のようだった。

 のどかな景色が流れていく。

 車は都心に向かっていた。そういえば、目的地がどこなのか、きいていなかった。

 でも、まあいいや。

 今の僕にできることはないから。

 ただ、言われるままについて行くだけだ。

 なるように、なるだろう。


 都心が近づくにつれて、高速を走る車が増えていく。

 ミヤさんは、携帯端末をずっとながめている。

 不思議だけど、不安も心配もしていなかった。

 僕は、確かにこの人たちが安心できる人だと、わかっているような気がしていた。

 会ったばかりで妙な人たちだけど、そうなのだから仕方ない。


 病院に行ったのは、つい昨日のことだ。

 じいちゃん、いやお父さん……いや、やっぱりじいちゃんだ。

 あの顔を最後に見たのが、もうずっと前のような気がしている。

 遠い日の、半分夢のようになった思い出だ。

 十何年も一緒に暮らしてきたことは、お父さんだろうとじいちゃんだろうと変わりはしない。

 間違いなく血のつながった家族だった。

 もういなくなってしまったけれど。


 ああ、そうか。

 これが喪失感、ってやつかな。

 だから空っぽのような気がしているのかもしれない。

 そうか……

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