*** 囚

 牢獄のような場所だった。

 床は大きく傾いている。部屋の隅に設置されている大きな装置がある。それだけは水平を保つように石を積んだ上に乗っている。床や壁の材質は滑らかなのに、その石だけは適当に拾ってきたもののようだ。

 一部分だけが透明になっており、中が見える。

 男が一人、眼を閉じて横たわっている。生気のない顔だが、胸のあたりがほんの僅かに上下している。

 遠くからコツコツと音が近づいてくる。じれったくなるほどゆっくりと、音は大きくなっていく。

 カタン、と微かな音がして、扉の小窓が開いた。

 横たわった男の目が開く。瞳だけが扉のほうへ向く。

 視線が合う前に、小窓は閉じた。音はまた、じれったくなるほどゆっくりと遠ざかっていく。

 男は眼を閉じる前に、視線を上へ向けた。

 視野の隅に、細長く切り取ったような窓があった。

 空が見える。それは、いつの時間も、夕暮れのような薄い紫だった。

 ここは、知っている、どんな場所とも違う。

 男は動かない。生命を維持することが最優先だった。この状態がいつまで続くのかわからないのだから。あるいは、永遠にこのままかもしれない……

 ここへ入れたのが誰なのか、男にはわからない。この先どうなるのか、生かすのか殺すつもりなのか。ただ時折コツコツと足音をさせて、誰かが様子を見にくるだけだ。

 「場」へ繋がろうと試みたが、力が弱すぎるのか遠すぎるのか、かすかな感触があるばかりだ。繋がることさえできれば、皆に伝えることができるのに。

 わずかに感じられる「場」から、途切れそうなほど細いが、エネルギーを得ることができる。この装置の中にいる限り、体を維持していくことはできる。最低限度ではあるが。

 必ず帰る。必ず助けはくる。

 男は確信している。だから絶望することはなかった。

 目を閉じる。また長い眠りに入る。

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