第4話 デートのフルコースやー
何もなかった。
前田は、きっちり三十分遅れて、いつもの調子で現れた。
「ごめーん!! ちょっと、コーデに手間取っちゃって!!」
「お、おう」
という割には、割と最近よく見る格好だ。
ファーのついた茶色いコートに、ストライプの毛糸のセーター。キルト地にチェックの柄が入ったロングスカートという格好だ。
ブーツは、いつもと変わらない。
茶色が鮮やかな手提げカバンを手にして、ネカフェデートの時にも着ていた帽子を揺らすと、ぜぇぜぇと前田は息を吐いた。
そんな彼女に、まぁ、落ち着けよと僕はその肩を叩く。
「ごめんね。開始時間三十分遅れちゃって」
「あー、うん、いいよ、別に、そんな気にしなくってさ」
「ごめん!! ほんと、ごめん!!」
「まぁ、待ち時間的に丁度良かったし。ほら、次の次、僕たちの呼ばれる番じゃん」
「……けど、開始時刻の前から待っててくれたり、したんじゃないの?」
「ふっ!! 前田!! この僕が、そんなデートマスターみたないこと、すると思っているのか!! 五分前、滑り込みセーフであったわ!!」
「……なんだと!?」
僕は大ウソをついた。
しかも、割と芝居がかった、恥ずかしい感じの大ウソであった。
だって、仕方なかったのだ。
なんだかすごく申し訳なさそうに謝ってくる前田。
そんな彼女に対して、どういう言葉をかけてあげればいいのか。
女性に対する、経験値の低い僕には、それが分からなかった。
だからいつもみたいに、おどけてみせることしかできなかった。
ただ、僕のよく知っている、ノリのいい前田恵理は、その言葉で、デートに遅刻した落ち込みを、すっかりと回復させたようだった。
「からふね屋。久しぶりに来たわ、楽しみぃ!!」
「僕、初めてなんだけど」
「ほほぉん。京都に住んでいるのに、からふね屋のパフェを食べないなんて、人生の半分以上を損しておりますぞ、鈴木氏」
「まじか前田氏」
「より具体的に言うと、志津屋のクリームパンとカルネを食べたことがないくらいの、そんなショックですな」
それは確かにショックだ。
あれ美味しいんだよね。
桂には、桂坂まで登らないとお店がないから、滅多に食べれないんだけれど。
けど、市街に出たら、必ず買って帰ってきてるわ。
今日も、帰りに寄ってから帰ろうかなと、思ってるくらいだったからな。
「ふっふっふ、女子力の鍛え方が足りないのではないですかね?」
「いや、女子じゃないし。そもそも男子がパフェ食うのってキモくない?」
「キモい!!」
「だよねぇ」
すっかりと、調子を取り戻してくれたようで、なによりである。
そうこうとしているうちに、鈴木さま、と、店内から名前が呼ばれた。
はぁいと返事をして中に入る。
うぅ、さむさむと手を擦り合わせていた前田。
その手を、僕は恋人つなぎで握りしめた。
ほら、はやく行こうぜ、と、声をかける。
ほうと前田の顔が赤らむのが分かった。
うぅん。
我ながら、男前が過ぎたかな。
◇ ◇ ◇ ◇
からふね屋では二人で三千円するジョッキパフェを突いて食べた。
パフェなんてデザートだからな、と、ちょっと油断していた。
中ジョッキいっぱいにごっそりと入れられたそれ。
言うまでもなく、食べ応えについて申し分がなかった。
結局、入る前には頼もうと思っていたサンドイッチを食べることなく、パフェだけでお腹を満たした僕たちは、そのまま河原町通りを下って次の目的地へ向かった。
まずは当初の予定通りボウリング――のはずだったのだが。
「ごめん。さっきパフェ食べ過ぎて、ちょっと、お腹が」
「まじか」
前田が腹痛を訴え始めたので、仕方なく、デート内容を変更することとなった。
コインゲーコーナー、格ゲーコーナー、リズムゲーコーナーなどをうろうろ。
それから結局、一階のクレーンゲームコーナーで、フィギュアを狙って、連コインするという、まぁ、普通の遊びを繰り広げた。
ちなみに戦果はゼロ。
デートでアニメのフィギュアを持ち歩いて、ぶらぶらするなんてのも格好悪いから、まぁ、それはそれで構わないのだけれど。
ちょっと悔しさの残る幕切れではあった。
そんなことをしている間に、調子が戻って来たのだろう。
「カラオケ!! カラオケ行こうよ、鈴木くん!!」
「よし来た!!」
前田に請われて、僕たちは最上階に移動する。
そして、運よく空いていた少し手狭なカラオケルームに入ったのだった。
ちなみに、予定ではクリスマスソングを熱唱するつもりだったのだが。
なぜか気が付くと、「ALI PROJECT」と「JAM PROJECT」の、絶唱対戦となっていた。
もちろん、僕がJAM。
前田がALIだ。
「よっしゃ、96点!!」
「なんでぇっ!? 鈴木くんてば、なんでそんな高い点数が出せるの!? 馬鹿なのにどうして!?」
「馬鹿関係なくない!?」
これでも音楽の成績は良い方なのである。
中学の時の校内合唱コンクールでも、一年と三年の時に優勝したことがある。
そんな俺に、対抗しようとしたのがそもそもの間違いなのだ。
ふはは。
「くそぉ、私なんて80点行けばいい方なのに。悔しい」
「ふっ、こんなことなら、罰ゲームでも決めておくんだったな」
「……店員さん、ここにいたいけな少女に猥褻なことしようとする変態が」
「ちょっとちょっと!! 勝てないからってそういうのナシ!!」
そして、なんで罰ゲームがエロいこと前提になっているのか分からん。
とまぁ、そんな感じで。
最初こそいろいろとあったけれど。
恋人たちのクリスマス。
そんな表現に対して申し分のない充実した時間を、僕達は過ごしたのだった。
「よし、次はangelaVS西川貴教対決よ!!」
「望むところだ!!」
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