第2話 花なんてどれも同じでしょう
結局。
いろいろと前田と話し合った結果、デートプランが決定した。
場所は新京極。
まず、人で込み合う前に、からふね屋でパフェを食う。
そしてその脚でラウンドワンへとボウリングに向かうのだ。
更に、ブースを移ってカラオケコーナーでクリスマスソングを熱唱。
最後に夕飯としてバーガーキングでハンバーガーを食べてフィニッシュ。
だ、そうである。
「最後がバーガーキングってのがなぁ?」
「ワッパー食べたことないの!! アメリカンサイズ!! すごいよ!!」
「必要かな?」
「必要です!!」
前田が力説するので、必要ということになった。
バーガーキング。
よく分からないけれど、なんかビックサイズのハンバーガーで有名なファストフード店らしい。
まぁ、これで僕も、食べ盛りの男子高校生だ。
たぶん大丈夫だろう。
それこそ、山盛りのバケモノみたいな量さえ出て来なければ、完食できる。
うん、大丈夫。二郎系ラーメンだってさんざ食べて来たじゃないか。
最近出店した本家二郎だって、マシを完食できたのだ。
いけるいける、余裕余裕。
それに言ってもハンバーガーだ。
「しかし、どうしてそんな所に、突然行きたいと?」
「んー、まぁ、食べ納め的な?」
「はい?」
「えっと、あの……ほら!! 冬は何かと誘惑の多い季節でしょ!? 油断してると、おせちとか食べ過ぎちゃって――おデブちゃんになっちゃった、って!!」
なんだかちょっと芝居がかった説明。
しかも、あまり説得力がない。
どこかいつもの前田らしくない挙動に、僕はふと首を傾げてしまった。
まぁ、言わんとせんことは分かる。
ここでばっと食べておいて、来るべき寝正月に備えようと、そういう訳だ。
うぅん。
どうせ食べるのだから、変わらない気もするんだけれどな。
まぁ、彼女がそういうのなら仕方ない。
「という訳で、二十四日は楽しもう!!」
「おう!!」
そんなやり取りをした二十二日の夕方。
すっかり暗くなった教室を僕と前田は後にしたのだった。
翌、二十三日。
僕はちょっとしたことを思い立ち、桂川イオンへと自転車で向かっていた。
そのちょっとしたこと、というのは――ずばり、前田へのプレゼントである。
「流石にね、クリスマスプレゼントを忘れるくらいに、僕も間抜けじゃないよ!?」
クリスマスデートである。
当然、そういうサプライズはあってしかるべきだろう。
え、クリスマスプレゼント、用意してないの。
なんて、ことを前田に言わせてはならない。
せっかくのデートが台無しである。
ただでさえ、学生デートということで、割り勘だったりするのだ。
プレゼントくらいちゃんといいモノを用意して、彼女を喜ばしてあげよう。
とまぁ、そんな訳で。
彼女に贈る品をしっかりと吟味するべく、桂離宮近くの実家から、とろとろと自転車でやって来たという次第である。
「つっても、何がいいのかね、前田。あいつの趣味って――なんだけ?」
アニメ・漫画を人並みに好きなのは知っている。
けど、せっかくのクリスマスプレゼントが、漫画セットとか、それはどうなの。
僕だったらキングダム全巻とかプレゼントして貰ったら、諸手を挙げて喜んじゃうところだけど。そういうことじゃないよね。
「やっぱりこう、クリスマスらしくって、記念に残るようなものがいいよな」
と、小物雑貨の店なんかを中心にして見て回る。
見て回るが、これと言ってピンとくるものがない。
ついでに、唯一知っている前田の趣味――吹奏楽はどうだろうかと思い、楽器屋にも寄ってみた。
新しいフルートなど、プレゼントしたら喜んでくれるのでは?
なんていう安直な発想からである。
しかし、そこで僕を待ち構えていたのは、想像していたのと一つばかり桁が違う、恐ろしい楽器の世界であった。
うん。
バイトもしてない高校生に、こんなもの買えるはずがない。
素直にフルートはあきらめよう。
そそくさと隠れるようにして、僕は楽器屋を僕は後にすることになった。
となると、いよいよ、これといったプレゼントに思い至らなくなってくる。
「半年以上あいつと付き合ってるけど、あいつの喜ぶこととか、分からないんだな」
そう思うとなんだか情けなくなってくる。
デートこそ控えめだったけれど、学校では常に一緒。
お互いに友達も作らず、四六時中べったりとしていたはずなのに。
なのに、なんで、彼女が喜ぶことが思いつかないんだろう。
話してる時は気の置けない感じでとても楽しいのに。
「いっそ、僕の肉声をSDカードに録音してプレゼント」
いらないよな。それ。
絶対に消去されて、スマートフォンなり、デジカメなりに転用されるだけである。
というか、僕の肉声に価値があるという発想からしてまずおかしい。
歩き疲れて、選び疲れて、ほとほとの体で二時間。
ちょっと休憩をしたくなった僕は、大垣書店のカフェに向かった。
その途中のことだ。
ふと、例の欠陥品みたいなエスカレータの近くに、花屋の姿を僕は見かけた。
「――そうか、花か」
それは悪くないかもしれない。
女性ってそういうの好きだからな。
安直な発想の元、僕はその生花がずらりと並んだおしゃれな店の前に立った。
なるほど、ブーケなど、色々な商品が置かれているが――悪くない値段だ。
これでいいんじゃないだろうか。
なんて思っていると、ニコニコとした店員さんが近寄って来た。
「贈り物のお花をお探しですか?」
「……えぇ、まぁ」
「もしかしなくても、クリスマスプレゼントに?」
「話が早くて助かります」
なにか適当に、三千円くらいで、見繕っていただけないでしょうか。
そう頼むと店員さんは、お任せくださいと自信満々にその胸を叩いた。
まぁ、餅は餅屋と昔から言うし、花も花屋だろう。
僕のようにあまりセンスのない人間が選ぶより――よっぽど、彼らが選んだ花の方が前田の心に刺さってくれるはずだ。
「喜んでくれるといいけどな」
えぇ、こんなの渡されても、持ち運びが不便なだけだよ。
勘弁してよね鈴木くん。
そんな声が聞こえた気もしたけれど、まぁ、気にしないでおくことにした。
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