第1話 ヒューマンの少年

僕が帰ると使用人である女性が父の部屋へ呼んだ。父の部屋に入ると父は物凄い形相で僕に近づき、肩を両手で掴みながら揺さぶってきた。

「ガク!お前、剣術の成績を2位に落としたらしいな!私が、私がお前にどれだけ力を込めていると思っているんだ!!」

また始まったと、僕は内心うんざりしながら説教を聞き始めた。

僕の親は簡単にいうと、人より常に上位にありたいという典型的なプライドの塊のような人だ。母が亡くなってからというもの父はとてつもなく厳しい人になってしまった。

「いいか、ヒューマンは他の種族と違って秀でた能力を持たない!だから、努力で勝るしかない、わかるか?剣術と知力を発達させ、いつか来るかもしれない他種族との戦争に対応できるようにしなければならない!」

いつになくヒートアップした父はそんなふざけたことを言い出した。

父はこの種族の長であるため、外交などの仕事にも取り組んでいる。だからこそ、そのような考えに至るのがおかしいのである。

ここ300年はどの種族も対立を起こさず、平和に生活してきた。それをなぜ、戦争への対応などとふざけたことを言い始めたのか見当もつかなかった。


その後、半刻程の説教を受けたあと父は部屋に戻り仕事を続けた。僕は解放されたので、使用人に出された夕飯を食べたあとは勉学に励み、床に就いた。



翌朝、父は朝早くから出張とか言って家を出た。僕も学校の始業より随分前にに起き、木造建築の平屋の家を出て、庭で木刀を振るっていた。剣術の稽古の後は朝食をとり、学校へ向かった。


荷物を肩にかけながら通学路をあるいていると、後ろから声をかけられた。

「ガッくん、おっはよ〜う!!」

振り向きざまに抱き着かれ顔を真っ赤にした僕は幼馴染であるリノから離れた。

「もー、冷たいよぉ」

「か、可愛く言っても駄目だからね!」

僕は動揺を悟られないように振る舞ったがリノにはバレバレらしい。ニヤニヤが止まらない様子だ。

リノは僕の父の友人である人の一人娘だ。リノの父もこの国のお偉いさんな訳で父が家に居ないことが多々ある。だから、彼女の父に会ったことは殆ど無い。

彼女の父のことを薄い記憶の中で思い出していると、彼女は僕の前に長い黒髪をたなびかせながら

「さぁ、早く学校に行こ!」

と元気よく僕の手を引っ張りながら走り出した。

彼女のおかげで毎日元気が沸いてくるなんて気恥しいことは胸の内に秘めながらリノとともに学校へ向かって走り出した。

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