第2話 変わりゆく記憶
通勤時間、眼に映るものに立ち留まり、
感慨深い何かを探すことは許されない。
通勤経路があり、いつも同じ道を通る。
私は車通勤をしている。
片道は15分もかからない。
毎回同じ車を見かける。
同じ時間に通りかかる車を記憶する。
トヨタの“カローラフィールダー”
似たようなステーションワゴン型の車種は同じ時間に多く見かける。
「似ているが違う。」
同じフィールダーでも年式が違えば、外装も違う。
似ているものは、気づくと
違和感の発端が何かを探し始めてしまう。
「気づくのが遅かったな」と思った。
昔から、子供の頃から当たり前のようにあった「レンタルビデオ店」。
朝刊購読者に配布されるフリーペーパーに、閉店セールの広告を見た。
新聞の1ページ隅に“25年間ありがとうございました”
目立たない15cmほどの小さな“しまいごと”だった。
今月の末まで在庫一掃セールをし、そのまま閉店するとのこと。
最近は行ってなかった。
レンタルビデオ店を利用する機会を失っていた。
映画すら観なくなって、YouTubeに時間を預けていた。
このご時世に長く続いた方なのだろうか。
一応は、本や文房具なども取り扱っていたから長く保ったのか。
通勤経路にあるから、週に5回くらいは見ていたはずだ。
“見ていたはずだ”
自分の景色が変わることに不安を感じる。
「ちょっと待って」という、焦りなのだろうか。
「心の準備が出来てないんだ」という、焦りなのだろうか。
都会では、もっと簡単に割り切れるのかもしれない。
景色が変わることが日常に付き物だという感覚なのか。
私の居場所は田舎ではないが、使い捨てられる素材でもない。
すぐに切り替えができないだけのノスタルジアがある。
そう思いたい。
休日になったら、写真を撮ろうと思った。
今月の末までレンタルビデオ店は残っている。
何となく「ありがとう」の気持ちがある。
昔は時々、観たい映画を探しに行っていたから。
いつもの“カローラフィールダー”が前を左折してゆく。
私は通勤経路、赤信号で停車した車内で時を過ごす。
赤信号で停車したときは眼に映るものに立ち留まることができる。
その時間が好きだ。
自分の景色が変わる
「似ているが違う。」
カローラフィールダーによく似たステーションワゴンが通り過ぎる
私は、いつの間にか探し始めている。
私は、留まりたいのかもしれない。
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