第5話 もう居ないものの撮りようのなさ


  私が出会った笑顔で、もっとも印象的だったもの


       それはようやっと出てきたものだった。





 あの女と遊園地へ行ったことがある。


 


 何回目かのデートだったけど

 お互いの緊張が残ったままだった

 打ち解けたようで、溶けていない

 手探りで

 お互いのことに触れようとしていた


 触れ合うこと

 ためらいがあったのでなく

 どこまで自分の性格や本音を出してみようかと

 まだぎこちない口調で

 笑顔も硬く

 でもお互いが機会をうかがってた



 遊園地は楽しかった

 私はそれこそ小学生以来で

 デートへの期待と、ただただ童心に帰って楽しみたい

 わくわくした

 夏にふさわしい透明な

 暖かい想いがあった

 

 

 お化け屋敷で怖がっていたね

 「苦手なの」と手を繋いで

 なんだかクスッと笑ってしまいそうだったけど

 愛らしかった


 混んでいたから飽きていないかと

 心配していたら

 動かないパフォーマンスに見とれていたね

 なんかホッとしたのを覚えている


 でも緊張感があったね

 何回目かのデートだったから

 そろそろかなって

 告白

 ドキドキがあったのかな

 

 緊張が解れたのはゴーカートだった

 運転を任せたら

 期待に応えてフルスロットルで

 これが限界なのって

 カーブもスピード緩めずに

 ゴーカートに乗って、見せてくれた楽しそうな笑顔

 自然な笑顔だった




私が彼女から引き出せた笑顔は、


         そのたった1度だけだったのかもしれない





自然光の中で、もう一度

もう一度、彼女を撮り直せたなら




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