第13話 13

「アダイブ・シエル!?」

シューはアダイブ・シエルが冥界にいると聞いて驚いた。

「そうだ。アダイブ・シエル様の前ではハーデースなど敵ではないのだ。」

アダイブ・オボロスはアダイブ・シエルに絶対の信頼を置いている。

「今度、会う時までに強くなっておけよ。ハッハッハ!」

シューの脳裏にアダイブ・シエルの自分を見下した言葉が甦る。

「クソッ。アダイブめ。今度、会ったら僕の手で殺してやる。」

シューはアダイブ・シエルに復讐を誓う。

「おいおい、アダイブ・シエル様と戦うことを考えるより、目の前の俺を倒すことを考えろよ。それとも、もう勝ったつもりか? 俺も甘く見られたものだな。」

アダイブ・オボロスはシューを牽制する。

「何を!? アダイブなんか・・・!?。」

「ここは私が。」

挑発にのってしまいそうなシューをヘカテーが制する。

「ハーデース様に刺客が向かっていると聞いた以上、こんなところでゆっくりしている訳にはいきません。」

ヘカテーがシューの前に出る。

「直ぐに、魂を抜いてあげましょう。」

怒れるヘカテーの後ろに死の女神の姿が見える。

「ああ~、怖い怖い。魂でも生気でも・・・抜けるものなら抜いてもらおうか。」

アダイブ・オボロスはヘカテーを前にしても余裕の表情を見せる。

「私に歯向かったことを後悔するがいい! エクストラクト・ザー・ソール!」

ヘカテーがアダイブ・オボロスの魂を抜きにかかる。

「うわあああああああ!?」

アダイブ・オボロスの体から魂が抜かれようとする。

「なんてね。」

アダイブ・オボロスは余裕の表情を浮かべ、魂も体の中に戻っていく。

「なに!? どうして魂が抜けない!?」

ヘカテーは自分の思い通りにならない展開に戸惑う。

「なぜ魂が抜けないのか教えてやろうか? 私はカローンの血を吸い冥界の住人の体質を手に入れたのだ。だから死の女神だろうが、冥王だろうが冥界の者の攻撃は俺には効かないのだ! 分かったか? ワッハッハー!」

アダイブ・オボロスは得意げに笑う。

「冥界の者の攻撃が効かないというのか!? そんなことがあるはずがない!?」

ヘカテーはアダイブ・オボロスの言うことが信じられなかった。

「俺はアダイブ・システムで生み出された白い天使。おまえの血も吸って、俺が強くなる糧にしてくれる。」

「クッ!?」

迫り始めたアダイブ・オボロスにヘカテーは、どう対処すればいいのか思慮している。

「どれ、冥界の女神の血を味見してやろう。」

アダイブ・オボロスはヘカテーに襲い掛かる。

「エエイ!? こんな奴に手も足も出ないというのか。」

ヘカテーは現在の境遇を恨めしく思う。

「死ね!」

吸血天使アダイブ・オボロスがヘカテーに噛みつこうとする。

「なに!?」

アダイブ・オボロスとヘカテーの間にシューが割って入り、アダイブ・オボロスの牙をブラッディソード・エクレアで受け止める。

「シュー!?」

ヘカテーはシュー危機一髪のところをシューに助けられる。

「ヘカテーさんは僕が守る。」

シューは剣でアダイブ・オボロスを振り払い、お互いの距離に間合いができる。

「貴様!? いったい何者だ!?」

「僕は冥界の住人じゃない。生身の人間だ。」

「生きた人間だと!? 嘘を吐くな!? 死んだ人間以外が冥界に来られる訳がないだろう!?」

アダイブ・オボロスはシューの言葉が信じられなかった。

「なら試してください。僕の剣があなたを倒せるか。」

シューはアダイブ・オボロスを挑発する。

「調子にのるなよ! 人間ごときが!」

アダイブ・オボロスは完全にシューの挑発にのってしまい、シューに突進して襲い掛かる。

「エクレアさん、僕に力を貸してください。」

シューは少し寂しそうな表情で剣に願い事をする。

「死の女神でも倒せない俺が、人間の小僧ごときにやられる訳ないだろうが!?」

アダイブ・オボロスはシューに突進する。

「ダアアアッ!!!」

シューは深紅の剣を突き出す。

「グワアッ!?」

シューの剣がアダイブ・オボロスの体を突き刺す。

「おまえに1オボロス銅貨の価値もない。」

シューは不味そうな獲物を仕留めた。

「クッハッハッハ! 悪いが俺は三途の川の守り人、カローンの血を吸ったのだ。俺に冥界の者の攻撃は効かないのだ! ワッハッハー!」

アダイブ・オボロスはダメージを受けているのに、自分は大丈夫だと過信していた。

「エクレアさん、吸って。」

シューの言葉に剣が血を吸い始め、赤い剣が、さらに赤く染まっていく。

「ギャア!? なんだこれは!? 血が吸われていく!? ギャアアア!?」

血を吸われ、どんどん干からびて萎れていくアダイブ・オボロス。

「俺は・・・アダイブ・・・だぞ。」

ブラッディソードは完全にアダイブ・オボロスの血を吸いつくした。

「大丈夫? エクレアさん? 不味そうな血だったから、気分が悪くなったりしてない? ごめんなさい。」

シューはブラッディソード・エクレアに心配して謝っている。

「クスッ。」

さっきまで緊迫していたヘカテーの顔に笑顔が戻った。

「あ!? また笑った!?」

シューは、なぜかヘカテーに笑われることに反応する。

「すまない。バカにしているのではないよ。あのアダイブを倒したシューが、剣に頭を下げている姿が滑稽でね。クスクスッ。」

またヘカテーは笑い出す。

「ああ!? やっぱりバカにしてるんじゃないですか!?」

「クスッ。そんなことはない。私がハーデース様の元まで道案内をするから、道中のボディーガードは任せる。頼りにしているぞ。」

「はい。」

ヘカテーはシューを信頼した。シューもヘカテーを必死に守ろうと思った。

「クスッ。ダメだ。笑いを抑えることができない。クスクスクスッ。」

「へ、ヘカテーさん!? もう!?」

湧き上がってくる笑いを抑えることができないヘカテーに困るシュー。

「さあ、行きましょう。三途の川を渡ります。」

「は、はい。」

シューとヘカテーは冥王ハーデースの元を目指す。

「エクレアさんに会えるんだ。」

シューはエクレアに会うことだけを考え期待に胸がドキドキしていた。



「なかなか釣れないな。」

冥界の池で釣りをしている者がいる。

「エサが悪いのかな? 人間界に行って、生きた人間をさらってくるか?」

この惚けた釣り人が冥王ハーデースである。

「ああ~釣れない。」

ハーデースは両手を伸ばし天を仰ぐ。

「ん?」

何者かが空にいて、ゆっくりとハーデースの元に降りてくる。

「探しましたよ。ハーデース様。」

空から舞い降りた白い光を放ちまくる者は、釣り人がハーデースと知っている。

「誰だ? おまえ。私は忙しい。消えろ。」

ハーデースは釣りに忙しいのだった。

「そういう訳にはいきません。わざわざ冥界まで来たんです。少しは俺の相手をしてもら・・・な!?」

その時、池から巨大な冥界魚が現れて、白い天使を丸飲みする。

「そうか、エサは亡者より、生きた人間の方がいいのか。」

陸に上がってピチピチと跳ねている冥界魚を見てハーデースは、エサの重要さに気づいた。

「ああ~不味そうな肉だ。魚も人間界まで行って釣った方がいいのかな。」

口では悪く言うものの、魚が取れたことにご満悦だった。

「今日は冥界魚のオニオン・ホイル蒸しにしよう。不味そうな見てくれだが、味は絶品に違いない。」 

このハーデースは釣りもすれば、料理もする愉快者らしい。

「ん?」

その時、冥界魚がアンコウのように白い光を放ち内部から爆発する。

「おえ、汚い魚だ。おかげで体中がネチョネチョしてやがる!?」

中から冥界魚の胃液がベトベト粘っている白い天使が現れた。

「俺の名前はアダイブ・シエル。アダイブ本体に近い男・・・!?」

アダイブ・シエルが自己紹介をしていると、アダイブ・シエルの体が吹き飛んで消滅した。

「消えろと言ったはずだ。」

冥界では冥王ハーデースの思い通りにならないことはなかった。


つづく。

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