第14話 14

「ああ~困ったな。今夜のおかずは何にしようかな?」

冥王ハーデースは夕飯のおかずに困った。

「このままでは妻に怒られてしまう!?」

ハーデースが恐れているのは妻のペルセポネーであった。

「困った!? 一層のこと消してしまうか? いや、妻を消せるはずがない。」

消して何事も無かったことにしてしまうのがハーデースの性格らしい。

「なにを無かったことにしようというのですか? ハーデース様。」

「ヘカテー!?」

そこに現れたのは死の女神ヘカテーだった。

「それに・・・なんだか生臭いな。人間か・・・人間!? 冥界に人間だと!?」

ヘカテーと一緒にシューが現れた。

「しっかりしてください。ハーデース様。暇つぶしに冥界から人間界を覗いている時に見つけて楽しんでいた、エクレア好きの天使といた人間の少年です。」

「おお! 修道院で献血キャンペーンの呼子をしていた少年か!」

ハーデースは、シューが修道院の修道士として寄付金を集めるのではなく、献血と称して血を集めて、エクレアの血を吸った剣に血を輸血しているのが面白かった。

「どういう趣味してるんですか!?」

「クスッ。ハーデース様は笑いのツボが少し人とズレています。」

「そういう問題ですか!?」

シューには、ハーデースといい、ヘカテーといい、冥界人の性格が少し変わっていることに気づいた。

「こら、人間。私は冥王であるぞ。口の聞き方に気を付けろ。さっきの冥界魚野郎みたいに消すぞ。」

ハーデースはシューに対して怖い顔で睨む。

「冥界魚野郎?」

シューには何のことだか分からなかった。

「アダイブ・シエルのことです。」

「アダイブ・シエル!? 奴が現れたんですか!?」

シューはアダイブ・シエルに一度、負けている。忘れたくても忘れられない名前である。

「生人間、知り合いか? 怪しいな?」

ハーデースはシューに誤解を抱く。

「ハーデース様、シューは関係ありません。それよりもカローンが白い天使のアダイブに倒されました。」

「なんだと!?」

ハーデースは冥界の住人が倒されたと聞き驚く。

「そのアダイブを倒したのは、このシューです。」

「そうだったのか。よくやった献血少年。」

ハーデースは手のひらを返し、シューに感謝を述べる。

「僕はいったい何者なんですか・・・。」

ハーデースの対応に疲れるシュー。

「今もアダイブ・シエルという上級白い天使が、ハーデース様のお命を狙っているそうです。」

ヘカテーはハーデースの身を心配する。

「安心しろ。そいつなら、もう倒した。ワッハッハー!」

ハーデースはアダイブ・シエルを既に倒している。

「・・・あいつは、あいつは、そんな簡単に死ぬような奴じゃない。」

対戦したことがあるシューだから言える実感のこもった言葉だった。

「私が嘘をついているとでも言うのか?」

ハーデースはシューにムカついた視線を送る。

「まあまあ、ハーデース様。白い天使は吸血天使で、カローンの血を吸ったアダイブ・オボロスには冥界の力は効きませんでした。冥界の体質を手に入れたと言っていました。お気をつけください。」

ヘカテーもアダイブという、新しい天使の能力を計りかねていた。

「おまえたちは心配性だな。この冥界で私に敵う者などいるはずもない。私は冥界の王なのだから。ワッハッハー!」

ハーデースはアダイブのことを何も知らないでいた。

「帰るぞ。魚が釣れなかったから、帰ったら妻に怒られるな。」

ハーデースは自宅に向けて帰り始める。

「ハーデース様!? 待ってください!? 行きますよ!? シュー!?」

慌ててヘカテーは、ハーデースを追いかける。

「え? 待ってくださいよ!?」

シューもハーデースとヘカテーの後をついて行く。


「け、け、ケロベロス!?」

自宅に帰って来たハーデースは愛犬のケロベロスが無残にも死んでいた。

「酷い!? いったい誰が、こんなことを!?」

ケロベロスは全身の血が吸われて萎んで殺されていた。

「奴だ! アダイブの仕業に違いない!」

シューはアダイブの仕業だと確信している。

「大正解。」

その時、パチパチと拍手する白い天使が現れる。

「俺はアダイブ・サーベラス。ハーデース、おまえの愛犬の血は頂いた。今、家の中ではアダイブ・シエル様が、おまえの妻を食事中だ。邪魔はさせないぞ。」

新たなアダイブ。アダイブ・サーベラスは、アダイブ・シエルが冥王ハーデースの妻の血を吸っていると言っている。

「な、ん、だ、と!?」

ハーデースは激怒し表情を一変させる。ハーデースの全身から冥界のオーラが溢れ出し嵐のように渦を巻いて暴れる。

「消えろ。ザ・ネザー・ワールド。」

「どんなに怒ろうが、俺はケロベロスの血を吸っている。冥界の性質を手に入れた俺には冥界の者の攻撃は効かないのだ! 俺のトリプル・ヘッド・アタックをくらわせ・・・て!?」

強烈な冥界のオーラがアダイブ・サーベラスを一瞬で消滅させる。

「冥王が番犬に負ける訳ないだろうが。バ~カ。」

ハーデースは冥界最強であった。

「すごい!? これが冥界の王の力なのか!?」

シューは、初めて見た冥王ハーデースの実力に驚く。

「・・・。」

まるで、こうなることが分かっていたかのように平静である。

「待ってろ! 我が妻よ!」

ハーデースは駆け寄り、自宅の扉を開けて中に入り衝撃のシーンを見てしまう。

「な!?」

冥王ハーデースの妻のペルセポネーの首筋に牙を突き刺し冥王の女王の血を美味しそうに吸っている、白い吸血上級天使のアダイブ・シエルがいる。

「あ・・・な・・・た・・・。」

ペルセポネーは血を吸いつくされ死ぬ間際である。

「ペルセポネー!」

ハーデースはペルセポネーの姿を見て衝撃的過ぎて名前を叫ぶ。

「おやおや、また会いましたね。冥王。少し遅かったな。あなたの妻は死ぬ寸前だ。」

牙を首から抜いたアダイブ・シエルは冥界で冥王と同等に話す。

「貴様!?」

ハーデースは殺意に満ちた目でアダイブ・シエルを睨む。

「それに死の女神と・・・ん? おまえは人間界であった少年か? そうか、おまえは弱かったから、死んで冥界に来たのだな。」

アダイブ・シエルはシューを人間ごときと見下している。

「違う! 僕は生きている! 生きて冥界にやって来たんだ!」

シューはアダイブ・シエルの態度に腹が立ち、ムキになって言い返す。

「フッ。そんなことはどうでもいい。冥王がお怒りだ。」

アダイブ・シエルにはシューのことは目に映らなかった。

「消えろ。消えろ! 消えろ!!!」

ハーデースは妻であるペルセポネーに危害を加えられ、冥界のオーラを抑えることができずに爆発した。

「ザ・ネザー・ワールド!」

強大な冥界のオーラがアダイブ・シエルを襲う。

「・・・。」

アダイブ・シエルは避けようとも防ごうともせず、普通に立ったまま。

「ドカーン!」

冥界のオーラがアダイブ・シエルに命中する。

「やったか!?」

シューは、さすがのアダイブ・シエルも冥王の一撃には敵わないだろうと思った。

「・・・チイッ」。」

ハーデースは舌打ちをする。

「冥王ハーデースの力も、この程度のものか?」

アダイブ・シエルは冥王の攻撃を受けても、ほぼ無傷だった。

「嘘だろ!? どうして、あんな強大な攻撃を受けて、無事でいられるんだ!?」

シューはアダイブ・シエルが平然としているのが不思議で仕方なかった。

「当然だろう? 冥界の女王ペルセポネーの血を吸ったんだ。そう簡単に攻撃が効く訳がない。なんせ、冥王が愛する女の血なんだからな。」

アダイブ・シエルはペルセポネーの血を吸い、冥界の体質を手に入れたので、冥王であっても冥界の性質の攻撃は効かない。

「ああ~冥界で冥王が、ただの人になるとはな。」

ハーデースは自分の現状に呆れている。

「安心しろ。ハーデース。おまえの血もいただいて、俺様は天界と冥界で無敵になるのだ!」

アダイブ・シエルは野心的に言う。

「それは残念だな。貴様の願いは叶わない。仮におまえに冥界の力が効かないとしてもだ。」

「なんだと? 強がりを言っているのか?」

ハーデースはアダイブ・シエルの挑発には乗らなかったどころか、何か切り札があるみたいで余裕そうだった。

「おい、エクレア少年。」

「え、エクレア少年!?」

シューのことをエクレア少年と呼んだのは、ハーデースが初めてであった。

「私の血を剣に吸わせろ。」

ハーデースの秘策は、シューの剣、ブラッディソード・エクレアに自分の血を吸わして、冥界の力を手に入れさせ、アダイブ・シエルと互角に戦わせようというものだった。


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る