第12話 12
「死霊に食い殺されるがいい!」
サマエルが扱う死霊がシュー目掛けて襲いかかる。
「くうっ!?」
シューは剣で死霊に対抗しようとする。
「実体のない死霊を剣で斬れると思うなよ!」
サマエルの扱う死霊は魂のようなもので物理攻撃はすり抜けてしまう。
「エクレアさん、僕に力を貸してください。」
シューは剣の中で生きているであろうエクレアに助けを求める。
「なんだ!? 剣から血だと!?」
シューの持つ剣、ブラッディソード・エクレアから周囲に血が飛び散り、その血はシューの周囲を飛び回る死霊にも付着する。
「これなら・・・斬れる!」
シューは迫って来た血の付いた死霊を真っ二つに切り裂く。
「なに!? なぜ死霊が斬れるんだ!?」
サマエルには実体のない死霊が斬られたのが理解できなかった。
「エクレアさんは神の血を司る天使。エクレアさんの血が付いた死霊は実態化し、僕でも斬れるようになったんだ。」
シューはエクレアに助けられている。
「んん!? なんだ人間の周りを守るように天使の羽で覆っている者が見える!?」
シューの側にはいつもエクレアさんがいる。
「クウッ!? 神か、ミハイルやサリエルと同じで、厄介な。それでも私には死霊の君主としてのプライドがある。おまえを守る守護天使ごと死霊に食わせてやるわ!」
「なに!?」
そういうとシューの体中から複数の死霊が生えてきた。
「死霊に寄生され体内から食い殺されるがいい!」
死霊寄生は、サマエルの最大の必殺技である。
「うわあ!?」
さすがのシューも死霊の体内攻撃には抵抗のしようがなかった。
「そこまで。」
その時、女の声が戦いを止める。
「ヘカテー!?」
サマエルが死霊の行動を止める。
「んん?」
シューは女ことを知らないが、サマエルの様子から、女は只者ではないと感じ取る。
「サマエル、冥界では、あなたの勝手にはできませんよ。」
「そうですね。死の女神の登場だ。私は大人しくするしかないでしょう。」
「ありがとう。」
ヘカテーは、シューに近づく。
「ようこそ、冥界へ。冥王ハーデース様がお待ちです。」
「ハーデース様?」
シューは名前を聞いてもピンとこない。
「私はハーデース様の侍女をしています。ヘカテーと申します。」
「シューです。」
「シュークリームから名前を付けられたシューさんですよね。」
「なぜそれを!?」
シューはエクレアさんの付けた名前を当てられて驚く。
「ハーデース様に知らないことはないのです。あなたの冒険を楽しみに見ていますよ。クスッ。」
ヘカテーは思わず笑ってしまう。
「わ、笑わないで下さいよ!?」
シューは気恥ずかしかった。
「ごめんなさい。あなたのような普通の人間がアダイブを倒したのかと思うと面白いというか、不思議というか、つい笑ってしまったの。」
「もう!?」
シューは目の前のヘカテーが掴み所がない性格なので対応に困った。
「お詫びに、いいお話をしてあげましょう。」
ヘカテーは愉快そうにシューに何かを話そうとする。
「ハーデース様なら、あなたの大好きな、エクレアさんに会わしてくれるかもしれませんよ。」
「え?」
シューは予想外のことに鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をする。
「ええ!? 本当ですか!? エクレアさんに会えるんですか!?」
シューの表情は、エクレアに会えるという期待から笑顔になった。
「死者の魂は、冥王ハーデース様のもの。ハーデース様がお呼びになれば、死者の魂は拒否することはできません。どうです? ハーデース様に会いたくなったでしょう。」
「はい。会いたいです。」
冥界で冥王ハーデースは絶対の存在であった。
「エクレアさんに、エクレアさんに会えるんだ。うわ~。」
シューはエクレアに会いたくて仕方がない。
「クスッ。人間とは素直で面白いのですね。」
ヘカテーはシューの反応が新鮮で面白かった。
「それでは私はルシファー様に、シューは冥界に寄ってから来るので少し遅れると報告に行こう。」
「すみませんね、サマエル。よろしくお願いします。」
「はい。」
サマエルは冥界から去る準備をする。
「シュー、勝負は、また今度にしよう。」
「嫌だ。相手したくない。」
「おまえな!? そこは、望むところだ! とか言うところだろう!? まあいい。さらばだ。」
そう言うとサマエルは次元の入り口を出して中に入り消えていった。
「・・・性格が悪い。会いたくないな。ミハイルより、ウザい感じだ。はあ・・・。」
シューはため息を吐いた。
「クスッ。やっぱり面白い人ですね、あなたは。」
ヘカテーはシューの感情表現に笑顔になる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「ごめんなさい。生きている人間が冥界に来るなんて初めてだから。」
あり得ないことが起こり楽しそうなヘカテーであった。
「それでは行きましょう。ハーデース様の元に。」
「はい。」
シューはヘカテーに連れられて、冥王ハーデースに会うために歩き始める。
「冥界といっても、普通の町並みで、普通に人間が暮らしているんですね。」
シューは冥界の街の人々の生活を眺めながら、冥界も普通の生活があるのだと感じていた。
「死人ですけどね。クスッ。冥界はハーデース様が結婚されるまでは魑魅魍魎の漂う恐ろしい世界でした。」
ハーデースは結婚しているらしいく、少しヘカテーは寂しそうな表情を見せる。
「これもペルセポネー様の愛情のおかげかしら。」
ヘカテーは何事もなかったように普段のヘカテーに戻っている。
「冥王が結婚すると冥界も変わるんですね。」
シューは冥界にも人間らしさがあって親しみを感じた。
「見えてきましたよ。あれが三途の川です。」
「うわあ!? 大きな川だ。」
「さあ、船の渡し場に行きましょう。」
シューとヘカテーの前に大きな川が見えてきて、船の渡し場に向かう。
「これはヘカテー様。」
「カローン。船を出してちょうだい。」
ヘカテーは渡し守のカローンに船を出すように言う。
「・・・。」
しかし、カローンは返事をしない。
「どうしたの? カローン。まさか私から1オボロス銅貨を取ろうというの?」
死者が三途の川を渡るには、カローンに1オボロス銅貨を川の渡し賃として、支払う必要があった。そうしなければ三途の川を渡ることができず冥界の住人として暮らすしかなかった。
「それはいいことを聞いた。私には、まだ名前がなかったのでな。」
カローンが声質を変え喋り始める。
「おまえ、カローンではないな。」
ヘカテーはカローンの異変に気付く。
「その通りだ。私の正体は・・・。」
カローンは姿を変えていく。
「ああ!? おまえは!?」
シューは変わっていくカローンの姿に見覚えがあった。
「私はアダイブ・オボロス。」
「アダイブ!?」
カローンは完全に白い天使アダイブの姿になった。
「名前を付けてもらって感謝する。アダイブ・カローンでは面白くないのでな。」
アダイブはカローンという名前より、オボロスという名前を気に入った。
「アダイブ? 噂の新しい天使ですね。」
「その通りだ。」
ヘカテーはアダイブの存在を知っていた。
「二つ尋ねます。本物のカローンはどうしましたか?」
「血を吸いつくして殺しました。冥界の住人でも血は通っているんですね。ちょっと新鮮な血液とは言えなかったので不味かったですけど。」
三途の川の渡し守カローンは、アダイブに殺されていた。
「酷い!? なんてことを!? アダイブめ!?」
シューはエクレアの敵のアダイブを許さない。
「二つ目の質問です。どうやって冥界にやって来たのですか?」
「こちらは答えるとも言っていないのに矢継ぎ早な質問ですね。まあ、いいでしょう。答えてあげましょ。神の使徒である私たちが冥界にやって来るなど雑作もないことです。それに冥界には私たちを手引きしてくれる者もいますからね。」
アダイブ・オボロスは得意げに答える。
「私たち?」
ヘカテーはアダイブ・オボロスの言葉に引っ掛かりを感じる。
「今頃、上級天使のアダイブ・シエル様が冥王ハーデースの首を切り落としているころです。」
冥王ハーデースの元にもアダイブの危機が迫っていた。
「なんですって!?」
ヘカテーはハーデースの心配をする。
「アダイブ・シエル!? ・・・あいつが、あいつが冥界に来てるんだ。」
シューは以前に出会ったアダイブ・シエルを思い出して、悔しくて拳を握りしめていた。
つづく。
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