第11話 11

「ギャア!?」

アダイブ・リーパーはミハイルの神の裁きの光の前に消え去った。

「た、助かった!?」

「死ぬかと思った・・・。」

「ミカミカ! 遅い!」

サリエル、ジブリール、ラビエルを抑えていたゾンビやガイコツは地面に消えていった。

「安らかに眠れ。」

ミハイルは死者に祈りを捧げる。

「エリザさん!」

シューはエリザの元に駆け寄る

「シュー!」

シューとエリザは互いの無事を抱きしめ合って確認する。

「シュー、私、怖かった。シクシク。」

「大丈夫ですよ。もう、終わりましたから。」

シューとエリザの愛は深まった。

「私たちは帰ろうか。」

「そうね。二人の邪魔だね。」

「あれ? ミハイルは?」

ジブリール、ラビエル、サリエルは去ろうとするがミハイルの姿が見えない。

「キャッハッハ! キャッハッハ! 私がアダイブ・リーパーを倒したぞ! 私は強いのだ! 皆が助かったのは私のおかげなのだ! キャッハッハ!」

ミハイルは剣を振り回して喜んで駆けずり回っていた。

「いつものミハイルに戻っている・・・なぜ?」

「まるで別人・・・この件は要るの?」

「・・・ウザい。」

呆れる3人であった。そして、そのまま4人の黒い天使は修道院を去って行った。

「エリザさん。」

「シュー。」

シューとエリザも修道院に入り扉を閉めて、夜を迎えた。



「行こうか。」

朝になり4人の黒い天使とシューは魔界に向けて旅立とうとする。

「行ってきます。エリザさん。」

「いってらっしゃい。シュー。」

シューはエリザに見送られ手を振りながら街を出て行く。

「必ず帰って来てね!」

エリザの最後の言葉は、彼女の本心であった。遠ざかって小さくなっていくシューの背中に呼びかけた。

「シュー、無事でいてね。」

エリザの祈りはシューに届いているだろう。


「それでは魔界にワープします。」

ジブリールが街の人間から見えなくなった所で話を切り出す。

「ワープ?」

「ワープといっても、ただの次元の入り口を開き、飛び込むだけです。」

「へ~え、便利なんですね。」

ジブリールはシューに説明する。

「はい。」

何も無い所に次元の入り口が開く。

「では、お先に。」

ジブリールは次元の入り口に飛び込んだ。

「キャッハッハ!」

いつも通りミハイルは剣を振り回し駆けずり回っている。

「あれは?」

「ミハミハは発作が収まれば勝手に帰ってくるから放置プレイでいいよ。エイ。」

「うっかりしていると、変な所にワープしちゃうぞ。エイ。」

「うっかり者に言われてしまった。エイ。」

ラビエル、サリエル、シューも次元の入り口に飛び込んだ。

「キャッハッハ!」

ミハイルを人間界に残し、次元の入り口は閉じた。


「ここが魔界?」

シューたちは次元の出口から出て魔界に着いた。

「そう、ここが魔界だ。」

「・・・普通ですね。」

魔界といっても、水も緑もあり人間界のようであった。

「シュシュは、どんな魔界を想像していたの?」

「もっと暗くて、血の池があって、亡者が行進している感じかな。」

「それは地獄か黄泉の国だね。魔界はルシファー様が黒い天使も暮らしやすい世界に変えられたんだ。」

別に魔界が水と緑が溢れた世界でも問題はないのである。

「ルシファー様?」

「我々、黒い天使の長だ。」

「とても美しい方で、みんなメロメロなの。」

「へえ~そんなにきれい人なんだ。」

「ルシファー様の残念な所は、ミハイルと双子らしい・・・。」

「え!? ミハイルと!? ・・・残念過ぎる!?」

ルシファーをゲットすると、おまけのミハイルも親族としてついてくる不幸であった。

「おお~い!」

そこに大声を出して手を振りながら近づいてくる黒い天使がいた。

「あ、サマエルだ。」

「お帰り! 昨夜に帰ってくるって聞いていたから、遅いから心配しちゃった。」

「それがアダイブに襲われて、ゾンビやガイコツに襲われたんだ。」

「それは大変だったね。」

「そうなんだ。・・・んん!? サマエル、君はアダイブに血を吸われたことはないよね。」

「あるよ。」

「ピキン! おまえの性か!? おまえの!?」

「こっちは死にかけたんだぞ!?」

「サマサマ! 死ね!」

サマエルはサリエル、ジブリール、ラビエルにボコボコに殴る蹴るされた。

「わ、私が何をしたというのだ!?」

サマエルは知らないが、どうみてもアダイブ・リーパーはサマエルの血を吸っていると思われても仕方がない。

「堕天使って、怖い。」

「シュシュ、堕天使でなく、黒い天使ね。」

「は、はい。」

シューは接する時は言葉遣いと態度に気をつけようと素直に思えた。

「それではルシファー様の元へ行こうか。」

「おお!」

ジブリールたちは何事もなかったように、ルシファーに会いに行こうとする。

「こら! 人に暴力を働いてタダで済むと思うなよ!」

サマエルは死を司る天使として、また死霊の君主としてのプライドが許さなかった。

「地獄で反省して来い!」

サマエルが憎しみを込めて、次元の入り口を地面に開ける。

「うわあ!?」

不意を突かれたシュー、サリエル、ラビエル、ジブリールは楽園になった魔界から、さらに下の地獄に落とされた。


「クソッ! サマエルの奴め!」

サリエルたちは地獄に落とされた。地獄は暗く溶岩のような赤い血の川が電気の代わりに暗闇を照らしていた。その川沿いを亡者が列をなして歩いている。

「あとで、ルシファー様にチクってやる。」

ジブリールもサマエルの態度には怒り心頭だった。

「あれ?」

「どうした? ラビエル。」

「シュシュがいないの。」

「なんだって!?」

「大変だ! こんな魑魅魍魎が大勢いる地獄で、生身の人間のシューが一人きりだなんて! 絶対に危ない!」

「シューを探さなくっちゃ。」

「おお!」

どうやらシューは3人の黒い天使とはぐれてしまい、3人の黒い天使は地獄でシューの捜索を始める。


「ここは?」

シューは目が覚めた。

「みんなは?」

周囲にはサリエル、ジブリール、ラビエルはいなかった。

「どこなんだろう?」

人間界や魔界に引けを取らない、暗い綺麗な世界が広がっていた。

「冥界だよ。」

「サマエル!?」

そこにシューたちを次元の入り口に放り込んだサマエルが現れた。

「ここは黄泉の国や常世の世界と同じぐらい深い底にある世界だよ。」

サマエルは死を司る天使として、冥界は居心地が良く表情も晴れやかだった。

「サマエル、どうしてこんなことを?」

「それは・・・ある方が君に会いたいと言っているんだ。」

「ある方?」

シューにはある方が誰なのか、想像することはできない。

「私の友達でね。アダイブを倒した君に興味があるんだよ。」

サマエルの言葉も途中でシューは動き始める。

「おい!? どこへ行く気だ?」

「サリエルたちを探さなきゃ。」

「あいつらは地獄に置いてきた。冥界に招待されたのは君一人だからね。」

「・・・。」

またシューは動き始める。

「・・・あくまでも私の誘いを断る気なのかい?」

サマエルもシューの反抗的な態度が気に障る。

「ここから抜け出して、みんなと合流するんだ。」

シューはサマエルの上から目線の姿勢が気に入らなかった。

「手荒なことはしたくわないけど、私にもメンツがあるので、君を連れて行かない訳には行かないんでね。」

周囲に死霊の魂を複数漂わせるサマエルは、シューに教育的指導をする気である。

「おまえの血は不味そうだ。」

剣を抜いたシューはエクレアが飲む、サマエルの血の味を考えていた。


「ただいま!」

ミハイルが魔界に帰って来た。

「おかえり、ミハイル。」

「ルシファー、今、帰ったよ。」

ルシファーがミハイルを出迎える。二人は双子なので同じ家に住んでいる。

「一人なのか? ラビエルたちと人間のお客様が一緒じゃなかったのか?」

「なに!? あいつらは、まだ着いていないのか? 私を置いて先に帰りやがったくせに!」

「・・・。」

そう、ミハイルは剣を振り回して騒いでいる間にサリエルたちに置いて行かれた。

「ところでルシファー。双子2人でお茶を飲む件が必要なのか。」

ミハイルは家に帰って来てソファでお茶を飲んで一服している。

「ミハイル、あなたは活躍してるからいいけど、私は全体演説の一度きりの登場だ。こうやって出番を増やしても文句はあるまい。」

「この目立ちたがりやめ。」

「おまえに言われたくない。」

実はミハイルの双子のルシファーは、やっぱりミハイルの双子の性格の持ち主だった。

「それよりも、やはりアダイブは天使なのか?」

「ああ。そうみたいだ。我々みたいに神に反旗を翻す天使ではなく、神に創造されたイエスマンの新しい天使だと。」

「また神の悪戯か・・・。」

ルシファーはミハイルから話を聞いてゲッソリする。


つづく。

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