第10話 10

「私はアダイブ・リーパー。死神のような天使と呼ばれています。」

野から現れた白い者は、アダイブの一部だという。

「天使だと? やはりアダイブは天使なのか?」

ミハイルはアダイブ・リーパーに尋ねる。

「そうですよ。神々に歯向かう元いた天使は、アダイブ・システムにより堕天使に変えられ魔界に落ちて行きます。そして天界にいるのは、新たに神が想像し、神に忠誠を誓う天使、アダイブだけが残るのです。ハハハハハ!」

アダイブ・リーパーは楽しそうに話す。

「聞いてないことまで、良くしゃべる奴だな。」

「なぜかって? それは・・・あなたには、ここで死んでもらうからです!」

アダイブ・リーパーは死神らしく大鎌を出し、ミハイルに襲い掛かる。

「舐められたものだ。」

ミハイルは呆れながら、神の裁きの剣で応戦しようとする。

「なに!?」

アダイブ・リーパーの大鎌を簡単にミハイルは剣で受け止める。

「おまえの言っている神は、本物の神か?」

ミハイルはアダイブ・リーパーの天使が堕天使に変えられているのは神の仕業だというが、ミハイルは半信半疑で信じていなかった。

「ええ~い!? 神は神に決まっているだろうが!?」

アダイブ・リーパーはミハイルと距離を取る。

「末端のアダイブに聞いても真実を知るはずもないか。おまえに用はない。消えてもらおうか。」

ミハイルは一歩一歩と前進して、アダイブ・リーパーとの間合いを詰める。

「消えるのはおまえだ! 死を司る神の恐ろしさを知るがいい! 即死するがいい! ビック・ドクロ・デス!」

おおきなドクロが現れ、ミハイルを食べようと大きな口を開けている。

「・・・。」

そして、そのまま大きなドクロはミハイルを呑み込んだ。

「ワッハッハー! このアダイブ・リーパー様に歯向かうからだ! ワッハッ・・・ハ!?」

勝利に酔いしれ笑うアダイブ・リーパー。しかし、大きなドクロは切り刻まれたかのように爆発し消え去った。

「おまえに用はないと言ったはずだ。素直に消えてくれ。」

大きなドクロの中からミハイルが無傷で現れた。

「な、なんなんだ!? おまえは!?」

予想外の展開にアタフタするアダイブ・リーパー。

「元大天使ミカエル。今は黒い天使のミハイルさ。」

ミハイルは剣を構え、黒い翼を広げ、アダイブ・リーパーに突撃する準備を整える。

「バカな!? アダイブは天使で、堕天使よりも強い存在のはず!? こんな簡単に破れるはずがない!? 何が起きているというのだ!?」

アダイブ・リーパーはミハイルの強さに少し錯乱していた。

「これで終わりだ。」

ミハイルが羽を羽ばたかせ突撃を試みる。

「それはどうかな?」

「こ、これは!?」

ミハイルの羽を地面から湧き出したであろう多数の死者の骸たちが取り押さえていて、ミハイルは身動きが出来なくなっていた。

「甘かったですね。私は死霊を司る天使の血を吸っているので、死者も利用することができるのです。死者をゾンビやスケルトンとして扱うなど容易いことです。クックク。」

「安らかに眠っている死者を冒涜するとは許せん!」

「はいはい。それではあなたが亡者たちと遊んでいる間に、他の3人の堕天使を始末してきましょうかね。」

そう言うとアダイブ・リーパーは、スイーツ村を目指した。

「待て!? アダイブ!?」

「ガア・・・ガア・・・。」

ミハイルはゾンビやガイコツの相手で身動きが取れなくなっていた。


「ミハイルはどこに行ったんだ?」

「知らない。」

スイーツ村ではシューの旅立ち前夜祭のエクレアパーティーがお開きを迎えていた。

「エリザ、もしかしたら我々と関わった君にも災いが及ぶかもしれない。そこで我々から護身用のプレゼントだ。」

「ペンダント?」

ペンダントには4つの石が付いていた。

「普通のペンダントではない。うっかりすると神の光と炎が出せて、傷つくと神の回復で自己回復し、殺されると自己蘇生する便利なペンダントだ。」

「なんか、縁起悪そう・・・。」

「これでも黒い天使の非売品アイテムなんですから。」

ジブリール、ラビエル、サリエルはペンダントをエリザに渡す。

「エリザさん、僕からは、これを。」

シューは新鮮、血液ジュースの缶を渡す。

「要りません!」

「そんな・・・美味しいのに・・・。」

「要るか! シューのバカ!」

乙女心の分からないシューであった。

「ハハハハハ!」

シュー以外の4人は笑い合った。エリザがサリエルたちを堕天使と思っているかは分からないが、まるで昔からの知り合いのように仲良しになれた。

「それじゃあ、私たちは先に失礼するよ。」

ジブリールが帰ろうとする。

「そうね。旅立ちは明日にしたから、今夜はごゆっくり。」

ラビエルも何かに気づき帰ろうとする。

「私は、まだエクレアを食べていくぞ。」

「ウリウリ! 空気を読みなさい!」

「え? ・・・ああ!? そういうことか!? うっかりしていた!? 私も帰るよ!」

黒い天使たちはシューとエリザの最後の夜になるかもしれないと気を利かしているのである。

「シュー、友達を修道院の外まで送ってあげたら? 修道院の扉の外までね!」

「は、はい。」

エリザの真意は邪魔者を帰したら早く帰って来てね、ということである。

「みんな! 送るよ!」

「シュシュ、今から尻に敷かれているのね。」

「完全なかかあ天下だな。」

「ああ~、私のエクレアをタッパに詰めさせてくれ!?」

こうしてシューは、サリエルたちを送りに修道院の外に出て扉を閉めた。


「遅いわね? シュー。」

シューはサリエルたちを修道院の扉の外に見送りに行ったきり帰ってこない。

「まさか!? 逃げた!?」

エリザは最悪の事態を考える。

「そんなはずはないわ! だって私とシューは相思相愛! 私がいなければ、シューは大好きなエクレアも食べれないんですから! 胃袋を抑える者は強いのだ!」

エリザはシューが自分から絶対に離れない自信があった。

「それにしても遅いわね。少し様子を見に行こう。」

内心、少しは不安なエリザは修道院の扉を開けて外を眺めてみた。

「きゃあー!?」

エリザが見た修道院の外はゾンビやガイコツたちが蟻の這い出る隙間もないほど大量に溢れ修道院を取り囲んでいた。

「え、エリザさん!?」

「シュー!?」

シュー、それにサリエル、ラビエル、ジブリールもゾンビとガイコツに囲まれて体を抑えつけられ身動きの取れない状態だった。

「エリザさん!? 来ちゃダメです!? 逃げて下さい!?」

「ええ!? シューを置いて逃げれないわよ!? ど、どうすればいいの!?」

緊急事態に戸惑うエリザ。

「おや。新しいお客さんだ。」

アダイブ・リーパーが現れる。

「なんなの!? あなた!?」

「私はアダイブ・リーパー。目的は堕天使の抹殺。人間はどうでもいいんだけど、見られたからには・・・死んでもらわないと。殺せ、アンデットども。」

「ガアー!」

「きゃあ!?」

ゾンビやガイコツの群れが修道院の扉の前に立ち尽くすエリザを目掛けて突進してくる。

「エリザさんー!?」

シューはゾンビやガイコツに押さえつけられ動くことはできない。

「いや~!? 来ないで!? 来るな!?」

「ガアー! ガアー!」

怯えるエリザに容赦なくゾンビやガイコツが突撃し、あと一歩の所までやって来る。

「・・・まだ結婚もしてないのに、死にたくない!」

エリザの女心にペンダントが秘められた力が発動し輝く。

「ガ!? ガ・・・。」

ペンダントの光が溢れ出し、ゾンビやガイコツを溶かしていく。

「こ、これは?」

エリザには何が起こったのか分からない。

「裁きの光だ。」

「ミハイル!?」

そこにミハイルが現れる。

「遅れてすまない。そのペンダントの光は私からのプレゼントだ。エリザが望んだら、神の代行者として悪を裁くことができる力を宿してある。」

「へ~え。ミハイル、あんた意外と、すごいのね!?」

「これでも元大天使だからな。」

エリザは狂い咲き芸人でウザいだけと思っていたミハイルを見直した。

「約束通り、消しに来たぞ。」

ミハイルはアダイブ・リーパーを怖い視線で睨む。

「やはり、この堕天使の中ではミハイルが一番厄介ですね。」

「おい、言い残すことは、それだけか?」

「はあ? もう勝った気でいるんですか? 私もアダイブの一部なのに舐められたものですね。私が本気を出せば、あな・・・あな!?」

喋っているアダイブ・リーパーの体から光が溢れてきた。

「消すと言っただろ。神の裁きを受けろ。」

ミハイルは約束を守る。


つづく。

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