第9話 9
「冷たいじゃないか。」
ミハイルはエクレアを食べながら不機嫌であった。
「え!? お茶が冷たい? 温かいお茶に入れ直しましょうか?」
エリザはお茶が冷たいと思う。
「ありがとう。今度は紅茶にしてくれるかな。」
「は~い。」
ミハイルはエリザと仲良しになった。
「あれ? 丘の上に置いてきぼりにされたのを怒っていたんじゃないのか?」
「ミハミハは単純なのよ。」
「そうか! うっかりでなく、本当にバカなんだ!」
ジブリール、ラビエル、サリエルはシューの暮らす修道院で、エリザの作ったエクレアを食べていた。
「あなたたち、本当に元天使ですか?」
「天使です!」
「見ろ、ミハイルのせいで私たちが疑われたぞ。」
「サリサリが不審者に見えるからだよ。」
「私か!? 私に問題があるというのか!?」
シューは4人を見ていると、本当に元天使なのか疑わしく思う。
「シュー、おもしろいお友達ね。」
「え、エリザさん?」
「いつになったら二人きりになれるのかしら!」
「ヒイイイイ!? 怖いよ!?」
エリザはシューが呼んだと思われる厚かましい4人の友達の態度に怒っていた。
「コーヒーに、紅茶を注いで、私が一生懸命に作ったエクレアを全部食べ尽くそうとしている。私は家政婦じゃないのよ! シュー!」
「すいません。すいません。彼らは、もうすぐ魔界に帰りますから。勘弁して下さい。」
「魔界?」
エリザは魔界と聞いてキョトンとする。
「魔界は、私たちの住んでいる住所です。」
「なんだ。住所なんですか。」
「そうなんですよ。ハハハハハ!」
「ハハハハハ!」
元天使たちは笑って誤魔化す。
「て、納得するか!」
普通の人間であるエリザは納得していなかった。
「どういうお友達なの!? シュー!? ちゃんと説明しなさいよ!?」
「は、はい!? 実は・・・。」
シューはどんどん凶暴化するエリザにタジタジであった。
「あ、悪魔!?」
シューから真実を聞いてエリザは驚く。
「いえいえ、元天使です。」
「言ってみたかっただけよ。」
軽いギャグを入れて本題に入る。
「元天使ガブリエルの堕天使ジブリールです。お嬢さん。」
「元うっかり天使ウリエルの堕天使サリエルです。エリザ。」
「元カワイイ天使のラファエルで、今もカワイイ天使のラビエルです。エリエリ。」
「そして私が神の代行者! 人々の憧れ! ああ~! 私に集う期待に応えたい!」
「あいつは天使ミカエルからのミハイル。ウザいから放置プレイでいいよ。」
「・・・確かにウザそう。」
これで黒い天使の自己紹介が終わる。
「私はエクレア職人のエリザ。いつもシューにエクレアを作っているの。」
「光源氏計画だ!?」
「食い物で胃袋を抑えて、男を釣る気ね!?」
「恐ろしい!? 人の皮を被った悪魔め!?」
「バレたからには、死んでもらおうか?」
「ギャアアアアア!?」
否定せずに乗っかかってくるエリザは悪魔よりも怖かった。まさに魔王の存在感である。
「まあまあ、落ち着いてくださいエリザさん。」
「シューが言うのなら。」
エリザはシューの前では可憐な乙女で居たいのだった。
「思い出したんです。記憶を。失っていた記憶を。」
「え!? 記憶喪失が治ったの!? おめでとう! シュー!」
「あ、ありがとうございます。エリザさん。」
シューは記憶が戻ったことをエリザに伝える。
「分かったんです。どうして僕がエクレアが好きなのか。どうして僕が剣が扱えるのか。 どうして血に敏感なのか・・・。」
「そうね。寄付金集めだけでなく、献血キャンペーンも応援していたわね。」
「はい。今日はA型の血液が足りません! 困っている人がいます! 皆様の勇気ある行動をお待ちしています! あ、クセで言っちゃった・・・。」
シューは記憶が戻り喜ぶべきなのだが、悲しい表情をする。
「シュー?」
エリザはシューを心配そうに見つめる。
「僕は、このスイーツ町が発展する前のスイーツ村の孤児院に孤児としていて、そこのシスターに育てられたんです。」
シューは自分の過去を正直にエリザに話す。
「シスター?」
「はい。名前は、シスター・エクレアです。」
「エクレア!?」
「僕はエクレアさんと呼んでいました。エクレアさんは天界から地上のエクレアが食べたくて、足を滑らせて人間界に堕ちてしまった天使です。」
「私を超える、うっかりさんだ!?」
「サリエル、チャチャを入れない。」
「・・・すいません。」
エクレア食べたさに天使の身分を捨てる。これがエクレアさん伝説である。
「それからエクレアさんは、エクレアを食べるために孤児院を作り恵まれない子供たちの寄付を集め、その中からエクレア代を捻出していました。」
「悪魔だ!? 子供たちの寄付と言いながら、自分がエクレアを食べるためにやっていたなんて!?」
「ジブリールも正論でチャチャを入れない。」
「・・・悪かった。」
しかし、エクレアさんが元天使として、恵まれない子供たちのために活動していたのが分かる。
「僕はエクレアさんと毎日、楽しく過ごしていました。・・・ですが、アダイブという堕天使狩りと名乗る者に村が襲われ、エクレアさんは村人を救うために自らの体に剣を突き刺し命を絶ちました。その剣に血を吸わせたのが僕の剣、ブラッディソード・エクレアです。」
シューは失っていた悲しい記憶をエリザに伝える。
「そんなことがあったのね。シューがぐれないで、優しい修道士さんになってくれて良かったわ。」
「はい。もしかしたら、僕がエクレアが好きなのは、子供の頃からエクレアさんにエクレアを食べさせてもらっていたかもしれません。」
「これからはエクレアを作る時は感謝の気持ちを込めて作るわ。」
「え?」
「シューをエクレア好きにしてくれて、ありがとうって。エクレアさんがエクレアをシューに食べさせていなかったら、私はシューに出会えなかったかもしれないんだから。」
「・・・はい。僕もエクレアさんに感謝します。だって、エリザさんに会えたから。」
見つめ合うシューとエリザの二人だけの空間にロマンチック雰囲気が流れる。
「ゴホン!」
ジブリールが咳払いをする。
「キャア!?」
シューとエリザの二人だけの世界が壊される。
「悪いけどお二人さん。話を補足させてもらうよ。我々、黒い天使は元々は天使で、神々の悪戯に付き合いきれないから天界を出て人間界で暮らしていたんだ。そしたらアダイブに襲われて堕天使になってしまって困ってしまったんだ。そこで我らがリーダーのお美しいルシファー様がアダイブを倒そうと元天使を集めているんだ。そして、我々はシューのスカウトに来たんだが、天使は死んで剣になっているし、シューは生身の人間だし、ちょっと事情が違うみたいだが、我々は一人でも多くの仲間が欲しいので、シューには、ぜひ、我々にご同行願いたい。」
「ガブガブ、すごい長台詞。」
「はあ・・・はあ・・・死ぬかと思った。」
ジブリールも長台詞は大変であった。
「シュー、来てくれるよね?」
「ぼ。僕は・・・。」
シューはエリザを気遣って、なかなか返事をすることができない。
「行きなさい、シュ。」
「エリザさん?」
エリザは決めかねているシューの背中を押す。
「シュー、友達が困って、あなたの助けを求めているのよ。あなたの力で助けることができるなら、助けてあげなさい。」
「エリザさん。」
「それに、そいつをぶっ飛ばして、エクレアさんの敵を取らなきゃ!」
「いいんですか? 僕は街を出て行くことになるかもしれませんよ?」
笑顔に気丈に振る舞うエリザだが、エリザと離れたくないシューは女々しい。
「いいわよ。美味しいエクレアを作って待ってるから。あなたの家は、この修道院なんだから、必ず帰って来てよね。」
「・・・はい。」
エリザの言葉にシューは旅立つ決心をする。
「やったー! やったなー! シュー!」
「これでシュシュも仲間だね!」
「さあ、冒険の始まりだ! アダイブを倒すぞ!」
サリエル、ラビエル、ジブリールは、シューを仲間として歓迎する。
「痛い!? 痛いよ!? サリエル!?」
シューにサリエルは肩を組み頭をグチャグチャに混ぜ回す。
「ハハハハハ!」
一同は喜び和やかな雰囲気になる。
「キャッハッハ!」
ミハイルは喜びの余り剣を振り回し街に繰り出していく。
「ほっといていいの?」
「ミハイルは、いつものことだからね。気にしないで。」
「相手にすると、ウザいだけよ。」
「ハハハハハ!」
シューを仲間にすることが決まり黒い天使たちは喜んだ。シューもエリザも昔からの友達のように仲良くなった。
「キャッハッハ・・・この辺りでいいかな。出て来いよ。」
ミハイルは狂喜乱舞のスタイルを止め、誰も居ない野に呼びかけた。
「よく分かりましたね。完全に気配を消していたのに。」
野の陰から白い者が現れる。その姿はアダイブに瓜二つであった。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。