第6話 6

「アダイブが生きているですって!?」

シューは現れた黒い者の言葉を疑った。

「そう、生きているんだよ。」

黒い者はアダイブは生きていると断言する。

「あなたはいったい何者なんですか!?」

シューは目の前の得体の知れない男に身構える。

「ああ~そうか、自己紹介がまだだったね。私の名前はサリエル。堕天使だよ。」

「堕天使!?」

シューは堕天使という言葉に、さらに緊張を高める。

「何か悪いことをしたんですか?」

普通は天使が悪いことをして堕天使に変わる。

「別に。ただ人間界に遊びに来ていたら、アダイブにやられちゃったっていうだけだよ。ほら、アダイブの使う神の光と炎は、元々は私が天使ウリエルの時にアダイブに血を吸われちゃったものなんだ。アハハ!」

「笑って誤魔化さないで下さいよ。あなたがうっかりしてるから、アダイブが強くなったんじゃないですか!?」

「ごめんごめん。」

シューのツッコミに謝るサリエル。

「それより、教えてもらおうか。どうして人間の君が、私の神の光と炎を使うことができるのか? 君はアダイブの仲間なのか?」

サリエルの顔から笑顔が消えた。人間ごときが神の光と炎を、自分のスキルを使えることが不思議でもあり、面白くもないのであった。

「ち、違いますよ!? 僕はアダイブを倒すためだけに、エクレアさんの敵を討つためだけに生きてるんですから!」

シューはアダイブの仲間ではないときっぱりと言う。

「エクレアさん?」

「はい。エクレアさんは元々は天使だったらしいんですが、人間界のエクレアが食べたくて、孤児院のシスターになった食いしん坊な天使です。」

「・・・素敵な天使だね。アハハハハ。」

サリエルの表情は笑顔がぎこちなかった。

「そんなことより、アダイブが生きているって、どういうことなんですか?」

「君が倒したアダイブはアダイブの一部でしかないんだ。」

「アダイブの一部!?」

シューはやっと倒したアダイブが、一部でしかないということを聞いてショックを受ける。

「そう、正確なことはまだ調査中だけど、アダイブは時を超えて複数人の姿で確認されているんだ。人類創世のアダムとイブの歪んだ姿とも言われているし、奴の本体がどこにいるのかは不明なんだ。」

「そんな・・・。」

シューは自分が得体の知れないものと戦っていたことを知る。

「でも、僕たち堕天使たちは、アダイブを倒そうと考えている。」

サリエルたち堕天使はアダイブと戦っているのだ。

「アダイブを倒す!?」

「そう、だからアダイブと戦える君をスカウトしに来たんだよ。」

サリエルの目的はアダイブと戦える仲間を増やすことだった。

「スカウト?」

「シュー、君を堕天使の住まう、魔界に招待するよ!」

サリエルたち堕天使は魔界に住んでいる。

「魔界!?」

人間のシューには理解できないことばかりであった。魔界や堕天使といわれても想像もできない話であった。

「先に行っておくけど、君に拒否権はない。我々の同士になり、一緒にアダイブと戦ってもらうよ。もしも従わないのなら、秘密を知った君を、君の周りにいる人間を殺さなければいけないんだ。ルシファー様の命令でね。」

「そんな!? 無茶苦茶だ!?」

シューの脳裏にエリザやフェルナンデス、修道院の子供たちの顔が浮かんだ。まるで人質を取られた嫌な気分だった。

「別に断ってくれてもいいんだよ。私は君と戦ってみたいという興味を持っているからね。人間が天使の・・・嫌、天使が司る神の力を、どう使いこなすのか、見てみたいからね。」

どこかサリエルは、人間のシューに特別な感情を持っているように見えた。

「どうだい? 軽くお手合わせといかないかい? 私が天使だった頃の神の光と炎と、堕天使となって得た、死と月と癒しの能力と、邪視の力を試してみたいんだ!今の自分が天使の頃よりも強くなったと知りたいんだよ!」

「・・・壊れている!?」

サリエルもシューのように、どこか心が壊れているようだった。

「この鎌は彷徨える霊魂を狩るものなんだ。死を司る私が使うのにピッタリだろ? 君の命も私次第なんだよ? クックック! 分かる?」

サリエルは大鎌を取り出し、舐めるような目つきで鎌を愛おしそうに見つめる。

「どうだい? 人間? 怖くなってきただろう?」

「・・・。」

サリエルはシューを脅すというより、アダイブに殺されていましたと魔界で報告しそうな雰囲気を漂わせ、手合わせというより、シューを殺してもいいと思っていた。

「・・・。」

シューはサリエルのことを気にしないで、剣に何か独り言を言っている。

「ん? 人間ごときが私のことを無視するのかい?」

イライラするサリエル。

「生意気だ!」

天使よりも下等生物と思っている人間に無視されてイラっとしたサリエルは大鎌を振りかざしてシューに襲い掛かる。

「・・・そんなことを言わないで、エクレアさん。堕天使だからって天使より血がまずいとは決まってないから。」

シューはブラッディソード・エクレアと会話をしていたのだった。

「剣と会話!? 気持ち悪いんだよ!」

サリエルは振り上げた大鎌をシュー目掛けて振り下ろす。

「僕も死んだ天使を司っている。」

「なに!? 私の鎌を受け止めただと!?」

シューは死んだ天使の血を吸った深紅の剣で、魂を狩る大鎌を受け止める。

「君はいったい何者なんだ!?」

サリエルは自分の攻撃が防がれるとは予想もしていなかった。

「サリエル、あなたの質問に答えていませんでしたね。確かに僕は、ただの人間です。でも、この剣は、エクレアさんは違います。」

「エクレアさん?」

「はい。甘いモノが大好きなエクレアさんは、神の血を司る天使だと言っていました。この剣は、アダイブを倒すために、天使だったエクレアさんが自ら血を吸わせて、赤く染まったんです。」

「な、なんだと!?」

サリエルはブラッディソード・エクレアの誕生の話を聞いて驚愕する。

「エクレアさんが相手の血を吸えば、相手の能力も吸い取るということみたいです。それに剣に血をたくさん吸わせれば、エクレアさんは生き返ります。」

血を吸えば吸うほど強くなる深紅の剣。

「だから・・・あなたの血も吸わせていただきます。」

シューもサリエルを殺す気だった。

「血液化(ブルーディゼーション)。」

シューの体が血液のように液体化していく。

「え!?」

サリエルは驚く。目の前に半分人間と半分血液がドロドロ混ざったシューが瞬時に現れ剣を振り下ろす。

「クッ!?」

サリエルは紙一重の所でかわすが、少しだけ頬が切れる。

「血が足らない・・・あなたの血を吸わないと・・・エクレアさんが生き返れないじゃないか!」

そう言うと、シューは液体化してサリエルに突進する。

「なんなんだ!? 君は!?」

「うおおおおお!」

シューは呪われた血が実態化した姿のように、剣を振り回しサリエルを追いかける。

「しかし、その程度なら私を倒すことはできないよ。」

サリエルも1度見たシューの血液化のスピードになれ、シューの振り回す剣を軽やかに避ける。

「君は厄介そうな相手だ。一瞬で魂を抜いて楽にしてあげよう。デス。」

サリエルはシューの魂を体から引き外しにかかる。

「うわあ!?」

シューの魂がシューの肉体から引き抜かれそうになる。

「へっへっへ・・・んん!? なんだ!?」

突如、シューの体が光り、シューの魂が体に戻っていく。

「アダイブの血をエクレアさんが吸った時に、死者を蘇えらせる天使の血も吸ったんだと思うよ。」

「ガ、ガブリエルか!?」

神の言葉を司り、死者を蘇生させることができる天使ガブリエル。

「今度は僕の番だ! くらえ! 神の光!」

シューは腕を伸ばし手の平をサリエルに向け、サリエルが堕天使になる前の天使の時のスキルを繰り出す。

「甘い! 月の光!」

サリエルは月の光で、シューの神の光を対抗しようとする。

「クッ!?」

「やるな!?」

月の光と神の光は互角で、光と光がぶつかり合い激しい衝撃の光が周囲に拡散する。

「まさかここまでやるとは!? ・・・こうなったら、仕方がない。これだけは使いたくはなかったが、このサリエルの奥の手で君を倒そう。」

サリエルは何か大技を使うことを決めた。

「・・・ごめんね。エクレアさん。血が少なくて。」

シューは微動だにせず、戦いの最中でもエクレアとの会話を楽しんでいた。

「これで終わりだ! 邪視!」

サリエルの額に3つ目の目が現れる。サリエルは邪視でシューの動きを封じてしまおうというのだ。

「エクレアさんの目!」

剣から血が湧き出し、サリエルの邪視に対抗するように血でできた大きな赤い目が盾のようにシューを守る。

「バカな!? 邪視が効かないなんて!? そんな血は反則だ!? いったい、どんな血なんだ!?」

奥の手まで使い、切り札が無くなったサリエル。

「エクレアさん、喉が渇いただろう? そろそろ、おまえの血をいただくよ。」

シューは狂気に包まれながらサリエルに一歩一歩と間合いを詰めて迫る。

「ヒイイ!? 来るな!? こっちに来るな!?」

いつのまにかサリエルはシューに恐怖を感じていた。

「そこまで!」

その時、新たな黒い者が現れた。


つづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る