第7話 7

「そこまでだ。」

サリエルのような黒い者が現れる。

「ガブリエル!?」

サリエルは援軍の登場に安堵する。

「ガブリエルじゃない。ガブリエルは天使の時の名前だ。今の私は、堕天使ジブリールだ。」

「そうでした。」

「うっかりウリエルに迎えに行かせたのが不安だったが、やっぱり不安が的中した。はあ・・・。」

「私だって、今はサリエルだ!」

ジブリールはサリエルの相手に疲れる。

「・・・。」

シューはジブリールを睨んでいる。1対2で数的に不利になっても気にしていなかった。

「サリエル、これから仲間になるのに、怒らせたの?」

「わ、私じゃない!? 彼が勝手に怒っているんだ!?」

「はいはい。」

ジブリールはサリエルを相手にしない。

「また不味そうな血が現れたよ、エクレアさん。直ぐに殺すからね。楽しみに待っててね。」

シューは深紅の剣と会話を楽しんでいる。

「うわあ!? 気持ち悪いんですけど・・・。」

「だろ!? だろ!?」

ジブリールはシューの精神の壊れ具合にひく。

「こんな子の相手はしたくないので、ジャーン! 新鮮なの血液ジュース!」

ジブリールは血液ジュースを取り出す。

「シューくんだっけ、これをあげるから仲良くしようよ。ほい。」

「ありがとうございます。」

シューはジブリールから血液ジュースを笑顔で受け取る。

「エクレアさん! 新鮮な血だよ! 汚そうな堕天使の血を飲まなくていいんだよ!」

シューは血液ジュースを開けて、中の血液を剣にかける。

「ゴクゴク。」

剣は血液ジュースを美味しそうに飲み、赤色が濃くなっていく。

「エクレアさん! おいしいんだね! 良かったね!」

シューもエクレアの飲みっぷりに喜んだ。

「シューくん、もっと新鮮な血液ジュースをたくさんあげるから、一緒に魔界に来てくれるかな?」

ジブリールは戦いではなく、頭脳を使いシューの説得を試みた。

「行きます!」

シューは血の誘惑に負け、あっさりと魔界行きを承諾した。

「私の戦いは何だったんだ!?」

「おまえがうっかり騒ぐからだ。」

「そんな・・・。」

サリエルはしなくて良い苦労をしてしまった。

「クスッ。」

シューはさっきまで戦っていたサリエルとジブリールの会話が愉快だった。

「ああ!? 笑ったな!?」

「そうだな。こういう時は笑うものだな。ハハハハハ!」

「ハハハハハ!」

ジブリールが笑うと、シューもサリエルも蟠りが消え素直に笑えた。

「シュー、今夜、君を迎えにいくよ。それまでに旅立つ準備をしていて待っていてほしい。」

「分かりました。」

「では、おやすみ。神の血を司る天使の剣を持つ者よ。」

ジブリールが指先から光を放つと、シューはフラッと意識を失って地面に倒れ込んだ。



「ん・・・んん・・・。」

シューは目を覚ます。

「シュー!?」

「シュークリームさん!?」

「シューお兄ちゃん!?」

シューは孤児院のベッドで眠っていた。シューの周りにはエクレア屋のエリザがシューが目を覚まさしたことを涙ながらに喜んでいる。おまけのフェルナンデスも喜んでいる。孤児院の子供たちも喜んでいる。

「エリザさん、フェルナンデスさん、孤児院のみんな。・・・あれ? 僕はいったい?」

「マルマ村の魔物を退治しに行って、倒れているところを助けられたんですよ。」

「そうだったんですね。」

「シュー! 無事で良かったわね!」

「は、はい。」

シューは、アダイブを倒したことや、サリエルやジブリールに出会ったことが夢のように思えるぐらい、孤児院は温かい人の温もりに溢れているように感じられた。

「クスッ。」

つい、嬉しくなってシューは笑う。

「ちょっと!? 人が心配してあげてるのに笑うとはどういうことよ!?」

「え!? ギャア!?」

エリザは心配のあまりムキになってシューの襟首をつかみ揺らす。

「まあまあ! シュークリームさんも元気で何よりです! ワッハッハー!」

「そうね。ハハハハハ!」

「ハハハハハ!」

シューはエリザやフェルナンデス、子供たちの笑顔に心が和んだ。

「・・・。」

自分は生きているし、自分は幸せなんだと感じた。ここに居れば・・・。



「お帰りなさい。ウリウリ。ガブガブ。」

ここは魔界で、一人の天真爛漫な黒い者が笑顔で出迎える。

「ただいま。ラビエル。」

挨拶に答えるサリエル。

「その呼び方はやめないかい? いくら可愛いだけのキャラが嫌だからって。」

ジブリールは呆れている。

「やめないわよ! この世界は残酷で、強烈な個性がないと出番がやって来ないんですから!」

ラビエルと呼ばれている堕天使は、元は神の癒しを司る天使のラファエルである。

「そうそう、気持ちが分かるよ、ラビちゃん。」

「ありがとう。ウリウリ。」

分かり合うサリエルとラビエル。

「はあ・・・どうして、普通のノーマルキャラが私だけなんだ? はあ・・・ミハイルだけでも手に負えないのに・・・。」

ジブリールは疲れ切っていた。

「ダメ! 噂話をしてわ!」

「そうだよ! 現れちゃうよ!」

ラビエルとサリエルはジブリールを止めるが手遅れであった。

「キャッハッハッハー!」

魔界の奥底から笑い声が聞こえ、その笑い声は徐々に近づいてくる。

「誰だ! このミハイルを呼ぶのは! 私は、そんなに人気者なのか!」

そこに新たに黒い者が現れる。

「出た・・・ミカ子・・・。」

「ミカちゃん・・・。」

「ミカミカ・・・。」

ジブリール、サリエル、ラビエルは遠い目でミハイルを眺めている。

「そんなスターを見つめるような目で見るなよ。照れるじゃないか。」

「見てない!」

3人は自意識過剰なミハイルにツッコむ。

「これなら堕天して、暗く地べたをミノムシコロコロして這いつくばっていてくれた方が良かった・・・。」

「フッ、そんなもの元大天使の長であるミカエルだった私が克服できないとでも思ったかね? 堕天して名前が変わろうとも、私の輝きは誰にも消すことはできないのだ! キャッハッハ!」

堕天使ミハイルは、神の代行者として、神の裁きを司る天使ミカエルだった。

「ウザい・・・。」

3人は相変わらずのミハイルの性格にゲッソリしていた。

「あ、忘れてた。ルシファー様が堕天使は全員集合だって。」

「それを先に言え!」

「うっかりは私の専売特許だぞ!? キャラ被りは禁止だ!?」

「知るか! キャッハッハ!」

笑って誤魔化すミハイルだった。一同はルシファーに会いに移動するのであった。



「送りますよ。エリザさん。」

シューは意識は失って倒れていたが、体は健康そのものだったので、修道士の格好をして、エクレア屋のエリザを送っていこうとする。

「いいわよ。休んでなさいよ。病み上がりなんだから。」

遠慮するエリザ。

「大丈夫ですよ。それに・・・僕が送りたいんです。」

「え?」

いつもと違い自分に対して積極的なシューに内心ドキっとするエリザ。

「だったら、街が見える丘に寄って帰りたいな。」

「いいですよ。エリザさんが望むなら。」

二人は街が見える丘に行くことにした。



「よく集まってくれた。天使、諸君。」

ここは魔界で大広間の上段の間の玉座に座り、きれいな顔立ちをした黒い者が羽を休めている。

「天使の我々を堕天使と呼ぶ者もいるが、堕天使とは何だ? 我々は主である神の創造物であるが、人間の命を弄ぶ、神の暇つぶしのゲームに嫌気がさし、天界を出て人間界で平和に暮らしていた・・・だけだ。それを堕落というのか?」

ルシファーは意味深い話を集まった数十の堕天使に語る。

「ああ~、ルシファー様、きれいだ。」

「何を話されても気品漂うカリスマ性。」

言葉一つ一つに堕天使たちは、明けの明星といわれ、光をもたらす者ルシファーに心を奪われている。

「もしも、神に背くことを悪というのなら、神に戦いを挑む反逆ののろしを上げ、我々は喜んで悪魔と呼ばれようではないか!」

「おお!」

ルシファーの演説に堕天使たちは拳をあげ意気をあげる。

「もう神は敵に回している。アダイブは、この手で倒す。必ず!」

ルシファーは神と戦うことを覚悟し、そして勝利することを誓う。



「夕日がきれい。」

「そうですね。」

シューとエリザは街を見渡せる丘の上にやって来て遠くを眺めている。夕日が街をオレンジ色に染めていた。

「もう、暗くなってきましたね。大丈夫ですか?」

「平気よ。どこかの修道士様が守ってくれるんですもの。」

「はい。何があっても僕がエリザさんを守ります!」

いつになく積極的なシュー。

「おお! 今日のシューは積極的だわ! いつもいいところで現れる邪魔者フェルナンデスは十字架に縛り付けてきたし、今夜は私とシューの中を発展するチャンスだわ!」

鼻息が上がるエリザの心の声が外に漏れていた。

「ん? ええ!? うわあ!?」

その時、急にエリザの体が宙に浮いていく。

「シュー!?」

「エリザさん!?」

エリザの異変に気付くシュー。突然の出来事に何がどうなっているのか理解できなかった。

「な、なんなの!? 助けて!? シュー!?」

叫びながらエリザは宙で爆発し体がバラバラに地面に落ちていく。

「え、エリザさんー!?」

一瞬の出来事に、シューは何もできなかった。エクレアの時と同じだった。何が起きているのかも分からないままに・・・。

「何があっても守るんじゃなかったのかい?」

そこに神々しい長髪の男とも女とも分からないような者が現れる。


つづく。

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