第5話 5

「血って、早く動けるんだ。」

シューは血になったかのように血流のように早く動き、一瞬でアダイブの首を刎ねた。

「ジュルジュル。」

深紅の剣がブラッディソードとしてアダイブの血を吸っていき赤く血で染まっていく。

「おいしいかい? エクレアさん。」

剣が血を吸う様が、シューには、まるでエクレアさんが血を吸っているように思えた。

「僕は君のために、これからも血を集めるよ。あなたが生き返ることができるのなら。」

どこか寂しくも、どこか狂おしくもシューの精神は血を吸う剣をエクレアと思うことで正気を保とうとしているようにも見えた。

「ワッハッハー!」

その時、どこからか大声の笑い声が聞こえる。

「な!?」

シューが声のする方を向くと、首の無いアダイブの遺体が起き上がっていた。

「おもしろい。おもしろいぞ! 少年! その天使の血を吸った剣! 実におもしろいぞ! ワッハッハー!」

首を刎ねられても、アダイブは死んではいなかった。

「アダイブ!?」

シューはアダイブが動いていることに驚く。

「ガキと思って甘く見ていた俺様のミスだ。これからは敬意を込めて、少年と呼んでやろう。」

「な、なに!?」

「今回は見逃してやるが、俺様がもっと堕天使を狩り強くなった時に、また現れて、その天使の血を吸った剣を頂くぞ。奪われたくなかったら、俺様が現れるまでに強くなって置くんだな。ワッハッハー!」

そう言うとアダイブは空間に入り口を出し、笑いながら消えて行き次元の入り口も閉じた。

「・・・。」

シューは、ただ一人残された。

「・・・な、何、好きかって言ってやがるんだ・・・ふざけるな・・・ふざけるなよ!!!」

村はボロボロにした犯人には逃げられ、シューは大好きなエクレアを失ってしまった。

「はは・・・はは・・・ははははは!!!」

シューは自分の無力さと悲しみの余りに気が狂った。

「・・・エクレアさん。」

シューは笑い壊れて涙を流しながら倒れこみ、そのまま気絶して地面で横たわってしまった。

「エ・・・ク・・・。」

夢の中までもエクレアの名前を呼び続けるシューだが、悲しい記憶を心の奥底にしまい込み記憶喪失になってしまい、優しい修道士さんとして、寄付金集めと献血の募集に力を入れるのだった。



「アダイブ!?」

現在に話が戻る。

「会いたかったぞ! 少年!」

堕天使狩りのアダイブは愉快に笑う。

「・・・。」

シューは記憶を取り戻したが何も語らない。ただ、うまく言葉にできない感情だけが心の中で湧き上がってくる。

「俺様の大切な天使を殺したおまえを絶対に許しはしない。だが、俺様は心が広い。少年が天使の血を吸った剣を素直に渡すなら、命は見逃してやろう。どうだ?」

「・・・。」

アダイブの提案にもシューは微動だにしない。ただ無表情でアダイブを見つめている。

「・・・返事はないのか。どうした? 少年? あの時とは違い、勇猛果敢に挑んでは来ないのだな?」

アダイブはシューの静観している様子に違和感を感じる。

「・・・はは。」

長い沈黙を破り、シューは笑い声をあげる。

「・・・ははは・・・ははははは。」

そして、笑いを続ける表情は狂気を帯びてきた。

「んん? 記憶が完全に戻った訳ではないのか?」

アダイブはシューの様子を探るように見ている。

「ついに・・・ついにきたよ! エクレアさんが望んだことを叶える時が!」

シューは壊れたように喜び大声をあげる。

「そして・・・僕の望みを叶える時が。」

壊れていたシューが真顔に変わる。

「なんだ!? 人格が壊れているの・・・多重人格とでもいうのか?」

笑い狂ったかと思うと、剣を構え冷淡にアダイブを睨みつけるシューは、もう、自分のことが自分でも分からなくなっているのかもしれない。

「おまえを殺す。それがエクレアさんの望みであり、僕の望みでもあるから。」

シューは目の前のアダイブの強さなど気にしていなかった。ただエクレアと楽しく過ごしていた日々のことを思い出して涙が湧き出してくる。

「いいね。その目つきだ。そうでなければ面白くない。私を殺せるものなら殺してもらおうか。」

アダイブもエクレアが死んだ時よりも、更に強くなっているのだろう。自分は強いという自信からか余裕に身構え、神の光と炎を手で作り出しシューに放つ。

「・・・。」

シューはアダイブの放った光も炎もかわそうとしない。

「ドカーン!」

神の光と炎はシューに命中し、光柱と火柱を天まで高々とあげる。

「他愛もなかったな。ブラッディソードでも回収するか。」

アダイブは一撃で勝負が着いたことが面白くなかった。

「神の蘇生。」

光柱と火柱の中から声が聞こえ、蘇生の光が放たれる。

「神の癒し。」

また神々しい光が放たれ、消える光柱と火柱の中から全回複したシューが現れる。

「なんだと!? 神の光と炎を食らっても生きているというのか!?」

アダイブは死んだ者が生きていることに驚き戸惑った。

「殺しやる。」

そう言うと、シューは思考で深紅の剣から血が噴き出し、血の矢を無数に作り出す。

「なんだ? 血が矢になっていく? ・・・まさか!? その矢は!?」

アダイブはシューが作り出した矢に見覚えがあった。

「バカな!? 神の光と炎だというのか!?」

血で作られた一本の矢に光と炎が宿っている。

「死ね! アダイブ!」

血で作られ神の光と炎を宿した数百の無数の矢がアダイブ目掛けて飛んで行く。

「舐めるな!」

アダイブも神の光と炎を自身の周りに展開させ、シューの放った矢を防ぎきる。

「ふん、こんなものか。」

矢の雨が終わったアダイブは余裕を見せようとする。

「な!? に!?」

アダイブは目を疑う。

「血! 血! 血! 血! 血!」

目の前に、ほぼ下半身が血に変わって半血液の液体化し、自分に高速移動していたシューが振り上げた剣を振り下ろそうとしている。

「ギャア!?」

シューの振り下ろした剣はアダイブの体を深く斬りつける。

「ジュルジュル。」

飛び散ったアダイブの血を深紅の剣ブラッディソードが吸い、剣の色が血の色になっていく。

「うおおおお!? 俺様がこんなにもダメージを食らうとは!? 神の癒しで回復しなければ!?」

アダイブが自己の傷を回復しようと始める。

「させるかよ。」

アダイブが回復を始める前にシューが二撃目を斬りつける。

「ギャア!?」

アダイブは回復する間もなく、血まみれになる。

「ジュルジュル。」

その血をブラッディソードが美味しそうに吸っていく。

「蘇生もさせない。」

シューは剣技で連続してアダイブを斬りまくる。

「ギャア!?」

死せるアダイブは自己蘇生することもできずに血まみれに刻まれていく。

「これは魂の公正さを計る秤。」

攻撃を止めたシューは神々しく光る秤を出す。

「な!? それは俺様がミカエルから奪ったはず!? なぜ!? 少年が!?」

アダイブには不思議だった。どうして少年が次から次へと自分と同じスキルを使いこなすのか。

「エクレアさんは神の血を司る天使だったんだ。だから、おまえの血を吸ったブラッディソードは、おまえと同じスキルを使うことができる。」

血を吸い、血を司る、深紅の剣、ブラッディソード。

「この剣はエクレアさん、そのものなんだ。この剣はブラッディソード・エクレア。おまえなんかには絶対に渡さない!」

シューはもう一つ勝手に信じていることがあった。

「たくさん血を吸わせて、エクレアさんを甦らせるんだ!」

シューは、ただ、そのためだけに戦い続けている。

「少年に負けるというのか!? 俺様が!? この俺様が!?」

アダイブは今、自分が経験している出来事が理解できなかった。堕天使を狩っていても負けたことのない自分が、歳も15、6の少年に手も足もでないのであった。

「アダイブ、神の代行者として、おまえの魂を公正に裁く。」

シューは片手にブラッディソードを持ち天にかざし、もう片手で秤を持ち、その姿は、まさに神そのものであった。

「血を吸われて、死ね。」

アダイブへの神の御沙汰が下される。

「でやああああ~!」

シューは剣を突き立て、アダイブに突進する。

「ギャア!?」

シューの剣はアダイブの胸に深紅の剣を突き刺す。

「ジュルジュル。」

深紅の剣はアダイブの血を吸い、もっと深い血の色に変化していく。

「おいしいかい? エクレアさん。」

シューは剣に問いかける。

「全部吸いつくして、早く生き返ってよ。・・・そうじゃないと、そうじゃないと僕は、いつまでも戦い続けないといけないじゃないか・・・。好きな人の居ない世界で生きていくことは辛いことなんだよ。分かってるの? エクレアさん。」

シューは涙を流しながら本心を語る。

「ドサッ。」

全ての血をブラッディソードに吸われたアダイブは、ミイラのように窶れ地面に倒れ込む。

「終わったよ。エクレアさん。」

ついにアダイブを倒したシューは虚しく立ち尽くすしかできなかった。

「・・・。」

敵を倒しても最愛の人は甦らない。逆に復讐という恨みも無くなってしまえば、生きがいすらない世界である。

「・・・はは。」

戦いを終え、緊張感から解放されたシューは笑い始めた。

「・・・はは・・・はは・・・ははははは。」

虚しさが心を壊しているのであった。自分がこれからどう生きていけばいいのかも分からないのであった。

「まだ、終わっていないよ。」

そこに黒い羽をマントに身を着ている頭に黒い輪っかのある者が現れた。

「・・・はは?」

シューは悲しみの余り笑いが、直ぐには止まらなかった。

「アダイブは死んでないよ。生きてるんだ。」

「えっ!?」

その男の言葉にシューの笑いは収まった。


つづく。

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