真実

 巳鏡のいた部屋は真っ白なだけの部屋だった。地下室だとは思えないほどに明るい。

 「合格って・・・どう言う事だ」

 「そのままだよ。合格。おめでとう」

 どう言う事だ?俺は一体何に合格したんだ。全く分からない。

 「まあ分からないよね。記憶がないんだもんね」

 「何を言ってるんだ?」

 「まず君は高校生じゃないよ」

 なんだって?だが俺は確かにこの前入学式をしてこの高校に入って巳鏡と知り合い今の状況になったはずだ。そこに対して疑いは一切なかった。

 「まあ記憶を消したから仕方がないけど、本当の君はとにかく高校生じゃない」

 「じゃあ何歳だよ」

 「わからない。これは隠しているわけじゃなくて、本当にわからないの。君が言わないから」

 「もう全く意味が分からない」

 「いいよ。別に分からなくても」

 さっきから面白いくらい話が進まないのはどういうわけだ。こんなに面倒な奴だったか?

 「まずここはね。現実じゃない」

 「ループしてるって事だろ?」

 俺の言葉にため息を吐く巳鏡。

 「違うよ。この世界はVR。そもそもが現実世界じゃないの」

 「こんなにリアルな世界が? 嘘だろ」

 「嘘じゃないよ。事実ループしてたでしょう? プログラムにそって皆動いてたんだよ。だから何回でも同じ動きをした」

 「じゃあ柏崎はなんだったんだよ」

 「こっち側の人間が状況が思わしく無いと感じて介入して来たんだよ。いなくなってもらったけど」

 さっきから巳鏡の言う事が頭に全く入って来ない。何がどう言う事で俺は誰なんだ?この学校から出られなくなってから全てがおかしい。

 「それでね? 君のことなんだけど」

 何か巳鏡が言っている。

 「ここは実験のための空間なの」

 目の前が暗くなって行く。

 「本当のあなたは殺人犯。女子高生を夜の学校で殺したの。なぜ夜に?なぜ殺したのか?それが分からなかった」

 殺人犯?ああ、俺は誰かを殺したのか・・・・・・いや、何度も救えなかった時点で人殺しか。

 俺は巳鏡の話を遮る形で話した。

 「じゃあ巳鏡が何度も死んでるって言うのは?」

 「嘘よ。最初の一回だけはあなたに見せる必要があったからやったけどそれ以外は一回も死んでいない」

 「毎回部屋から始まったのは?」

 「そこがこの実験の鍵でね? 個体から個体間の記憶移植と記憶の改ざん実験を兼ねてたの」

 「どう言うことだ」

 「こう言うことよ」

 巳鏡が何かのスイッチを作動させると、壁が開いた。そしてそこには・・・・・・俺がいた。大量の俺俺俺。見てて気持ちが悪くなってくる。

 「まあ失敗したところで所詮殺人犯。大した問題にはならない。だから今回は全日程で違う君を作った。それだけ」

 巳鏡はニコニコしながら語り続ける。

 「どう? すごいでしょ?」

 ああ・・・・・・こいつは本当に俺の守りたかった巳鏡ではないのだ。あいつは巧妙にこの世界を操っていた。

 「手紙を入れたのは?」

 「全部プログラムだよ」

 「合格って言うのは」

 「ああ。もう埒が開かないしいいかなと思って。ここまで来れたら殺してあげようと思って待ってたんだよ。ここまで来れたから合格」

 「俺は死ぬのか」

 「そう。もう謎は謎のままだけどいいや。学校で殺した理由、覚えてないでしょ?」

 「やってない事は思い出せない」

 「やったんだよ。じゃあ死んでもらうね」

 「俺の言い分を」

 ここまで言った瞬間、パァンと乾いた音が響いた。瞬間。ブラックアウト。

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