移動
手紙と言うには簡素すぎる一言を見てから俺は考えていた。
信じるなとは?そもそもその手紙は何が目的なんだ?最初はやめておけ、次が巳鏡かがみを信じるな。これではまるで巳鏡を助けるのが悪い事の様な言い方だ。
「どうかした?」
難しい顔をしていたのだろう俺を見て巳鏡が言う。
「いや、ちょっとな」
ごまかすが上手く行っていただろうか。ちなみに今俺たちは俺の提案により、昨日行った町よりもさらに遠くに向かっている。海の近くだ。
「もうすぐ海が見えるな」
乗っている電車がトンネルに入った。長いトンネルを抜ける。
すると目の前にはトンネルに入る前の光景が広がっていた。一瞬何が起きたのか理解できない。いつのまに逆方向に進んでいた?そもそもこの線路はどういう構造なんだ?
「戻った・・・・・・」
「え?」
「この電車、元来た方向に戻ってる」
俺は口にした。明らかにこのままでは出発した駅に戻ってしまう。
「そんな・・・・・・この町から出られないの?」
「いや、昨日繁華街には行けただろ?要は一部行けない部分があるんだ」
それがどこか分からないのが問題だが。このままだと行けないところに行こうとして結果死にました、なんて事も十分にありえるわけだ。流石に見えてる地雷を踏む趣味は無いぜ。
「遠くに行くのは諦めよう」
巳鏡に告げる。
「じゃあどこに」
「・・・・・・うちに行こう」
「うちって・・・・・・え!?そんな急に心の覚悟が出来てないよ!」
こいつは何を慌ててるんだ。
「俺のループはいつもベッドから始まる。そこに他の人間がいた場合、どうなるのかを調べたい」
「ですよねー。わかってたよ」
慌てたと思ったら落ち込んで忙しい奴だな。こいつ。あまり気にせずうちへ向かう。
「ここだ」
やがて俺の家へと到着した。時間はまだまだある。ここで手紙の話をすべきか・・・・・・?いや、すべきじゃないな。すぐに思い直す。
「今日はこのまま誰にも会わないパターンを試そう」
「わかった」
そのまま待つ。またしても沈黙がやって来る。こんな状況になってから分かったが、お互いにそんな喋るタイプではなかったためである。まあ実際そんなにペラペラ喋ってもお互いすぐに話題は尽きてしまうだろう。この位が丁度いい。
しかし、待ち始めてから少ししてチャイムが鳴った。こんな時に訪問者だろうか。
「無視するぞ」
「わかった」
俺たちは無視をする事にした。しかし無視をしているとひたすらチャイムが連打される。ピンポーンと言うチャイムの音がエンドレスに鳴り響き、とても嫌な感じだ。
「今日ってお母さんはいるの?」
巳鏡が聞いてくる。
「いや、夜まで帰ってこないはずだ」
俺が答える間もチャイムは鳴り続ける。むしろチャイムの鳴る感覚が最初より短く鳴ってきている。一体誰なんだ?こいつは。確認するべきか?
いや、ここは。
「ちょっと玄関まで行ってくる」
そう告げて俺は歩き出した。玄関まで行った瞬間爆発とか無いよな?緊張しながら歩く。ゆっくり、だが早く。
そうして玄関にたどり着いた途端、チャイムは止んだ。それと同時に郵便受けになにかが放り込まれる音がする。なんだ?何を入れられた?
混乱する頭を抱えながらも俺は郵便受けの中のものに手を伸ばした。だがこれは失敗だった。
なぜなら、それを手に取った瞬間光り始め・・・・・・俺は気づくとまたベッドの上にいた。だが今回は一点違うところがある。
隣に巳鏡がいた。
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