見張り
戦いを決意した俺はまず、下駄箱に手紙を入れる現場を抑えようと思った。
そりゃあそうだ。だって手紙を入れる現場を抑えればそいつは言い逃れ出来ない。そしてそいつさえ捕まえる事が出来れば何かが分かるかも知れない。
あくまでも可能性の一つなので今のところまだ何とも言えないがそれでも少しはこの話を進めたい。その思いだけで登校すると教室へは行かずにそのまま隠れて下駄箱を見張った。
今俺、後ろから見たら完全に不審者だな。そう思いながら見張り続ける。いっそ今日は一日張っていてもいいかも知れないな。そう思って見張っていた時だった。
「ねえ、何してんの?超怪しいんですけど」
「うおおおおお!!」
おっと。驚き過ぎてついデカい声が出てしまったぜ。気を取り直して。
「何かな?」
漫画だったらバチーンと言う効果音が出そうなほどのキメ顔をして振り返る。
「遅いから。あんたもう驚いたところ見られてるから」
くそっ。こいつは誰だ?俺のそんな心の声を読んだかのようにそいつは言った。
「私。
全く見た覚えが無かった。それに今はこんな奴に構っている場合ではない。
「わかった柏崎。俺のことは放っておいてくれ。今大切なところなんだ」
「下駄箱を見つめるのがそんな大事な事?変な奴」
「変でいいから」
本当に放って置いてくれという空気を発しながら言う。こいつは空気を読めないのか?これで見逃したらシャレにならない。いい加減人も減って来たしそろそろ来そうなものだが・・・・・・
「まあ何でもいいや。ちゃんと教室、来なよ」
そう言って柏崎が去っていく。これでようやく見張りに戻れる。それと同時に思う。柏崎か。あんな奴がいたんだな。俺の隣と言っていたから恐らく巳鏡とは逆側のお隣さんだろう。そんな事を覚えていたところで全くもってこれから先に役立つこともないだろうが健全な学生生活のためにも覚えておいて損は無さそうだ。むしろ覚えていなくて得する人間がいるか教えて欲しいぜ。
無駄な事を考えながら待つ。やがて昼になる。相当長い時間ここにいた事になるが結局手紙の主はあらわれなかった。
「まだいんの?暇だね」
またしても後ろから声をかけられる。柏崎だ。いい加減にして欲しい。
「暇じゃ無い。理由があるんだ」
「どんな?」
「話せないけど」
「やっぱり暇なんじゃん」
「違う」
ここまでで俺は気付いていた。やはり俺はこいつを知らない。
全く知らないとか知識の話ではない。このループの中でこいつに会ったことは無かった。それが今こうして出会って話もしている。どう言う事だろうか。
実はこの世界は完全にループしているわけではないのか?そうだとしたらどのくらいまでループしているのか?
ますます分からない。少し巳鏡に聞いてみるか。まだそこにいた柏崎に声をかける。巳鏡にも聞いてみる必要があるな。俺は教室へと急いだ。
教室に入ると少し不機嫌になった巳鏡がいた。どうやら今日朝から俺が教室にいなかった事に不機嫌になったようだ。だがそんな事に構っているひまはない。丁度今教室に二人きりになっている事だし早速聞いてみよう。
「巳鏡、もしかしてこのループは完全じゃないのか?」
「・・・・・・何が言いたいかわからないよ」
そこで俺は巳鏡に昨日とは違う行動をした結果、柏崎みおんと会話した事を説明した。その上でもう一度聞く。この世界の人間は自分たち以外は完全に同じ動きをしているはずではないのか?と言う疑問だ。答えは簡単だった。
「わからない。そもそも私、学校に来て昼過ぎまではいるっていうのは毎回やってるからそういう意味では私自身も行動を変えた事が無かったよ」
なるほどな。これで少しこの世界の事が分かった。恐らくこの世界の人間は行動自体は変わってない。だが意思のある人間が動く事ですこしずつ変化させる事が出来るのだ。そう、これはきっとテレビゲームの選択肢みたいな要領だ。そして彼女が死ぬというバッドエンドを防ぎに行く。
俺はこの少しずつ変化するという考えを巳鏡に話してみた。
「そういう事・・・・・・だから今日は君の下駄箱に手紙を入れる人間は現れなかったって事?」
「それは分からない。でもこうして少しずつ変えていけば何かわかる事がある可能性もある、とは思っている」
ためしに昨日とは全く違う行動を取ってみたらどうかと提案してみる。
「昨日の時点でかなり違う動きは色々取って来たけど・・・・・・あ、でもずっと人のいないところに行ってたかも」
「じゃあ今日は人のいるところに行ってみよう」
こうして、一旦の対策が決まった。これで何かが変わってくれればいいが。
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