マッチ箱は電気羊の夢を見るか 技術用語解説 改訂5
いわのふ
第1話 マッチ箱は電気羊の夢を見るか 技術用語解説
あまりにも技術、科学にかたよりすぎてしまいまして、理解不能になっている可能性がありますゆえ、ここでお詫びもうしあげると共に誤りもあるかもしれませんが解説します。技術解説ゆえ、箇条書き、体言止め多々にて失礼します。
・AI:Artificial Intelligence。人工知能とされる。これまでに研究ブームが何度か起きている。最近では80年代終わりにPCが出始めた頃のこと。この頃までには、主な技術的要素は確立された。アクション・ゲームが流行し、敵キャラクターの動作を操作者の癖に合わせて変えることに応用されたりもした。80年代は日本の基礎研究黄金期で、人工知能を実現するために第五世代コンピュータ・プロジェクトが発起されたが、失敗に終わった。現在では演繹的な手法では本当の”知能”は実現できないのではないか、とされており、米国でおもに量子力学を使った研究がなされている。
・中央処理装置、中央演算処理装置:コンピュータの心臓部で主要な計算を実行する集積回路のこと。CPUと呼ばれることが多い。スマートフォンには各種機能を集積しているためSoC(System on a Chip)とよばれている。
・LSI:Large Scale Integration,現在用いられている集積回路の多くがこれに類するもので、多数の素子を小さなチップまたはダイと呼ばれる四角いシリコン板に焼き付け、加工したもの。CPU、SoCはこの一種となる。
・博士号:通常は大学を出た後、修士課程2年、博士課程3年を経て、博士論文を執筆。審査会合格をもって博士号を与えられるが、例外として特異な業績に対して贈られることもある。
・量子アニーリング:関数には極値、と呼ばれる極小点が存在することが多い。二次関数では放物線の描く最小値一つがその極値に相当する。複雑な関数では多くの極値が存在する。複数の極値のうち、最小のものが正解に近い、という数学的解法があり、沢山ある極値のうち、最小のものを見つける方法である。通常の古典コンピュータでは、計算回数が多くなるが量子アニーリングでは一回あるいは数回の計算で答えが出ると期待できる。
・物理学:現在では、自然現象を微分方程式で表わす手法、と大方では理解されている。微分方程式を作るには、背後となる実験事実をふまえつつ、自分の自然はかくあるべきだ、という思想を入れて方程式にする。いったん方程式になると、計算機で解くことができるので、様々な分野に活用される。
身近な例では、映画の爆発シーンやロケットの発射シーンなどにリアリティをもたせるために方程式を解いて、計算結果を表示する手法がとられる。リアルタイムでも計算が可能になりつつあり、ゲームの臨場感を与えるため、方程式を実時間で解いている。ゲーム好きはそれをみていることになる。
・量子力学:今もって議論の多い物理学の一分野。一分野とはいえ、すべての微細な世界での法則を支配し、人間には理解不能な現象が多々ある。方程式、解法は確立されているが、その解をどのように扱うか諸説がある。人間に理解可能にするための解釈がいくつか存在する。コペンハーゲン解釈では、全ては確率にしたがってものごとが起きる、とされ、多世界解釈では観測者の判定によって世界が分岐する、として説明される。本質的に人間の認知限界をしめした例として不確定性原理が知られる。
・ゲーデル:不完全性定理を発見した数学者。同様に人間の認知限界をしめした例として知られる。数学の閉じた体系の中では真か偽かを判定不可能な問題があることを示した。不確定性原理と同じく、同時代の科学者に衝撃を与えた。人間には理解できる限界があることを証明したひとつの原理である。
・ニューラル・ネットワーク:コンピュータによる演繹的な知性のシミュレーション手法、として説明される。全く内容的に難しいことはない。いまだ、現在に至るまで基本的手法は変わっていない。現在は極度に大きなデータを扱えることから、いわゆる”AI”的手法として使われる。要するにデータに規則性を見いだすことがその中心技術。例えばAIスピーカーは、人間の声を聞き取り分析し、結果を巨大データと照合して回答をする。データ解析、データ量が不足していれば解答は不可能である。分類が不可能、とされるからである。
・巡回セールスマン問題:セールスマンが、どの家から訪問していったら最短のルートになるか、という文化大革命で幽閉された中国人数学者の考えた問題。数学的に非常に解法が困難であると分かったのは後日になってからである。今以て厳密に求めることは不可能である。問題を解いた者には2000年に設立されたミレニアム問題として懸賞金が与えられる。普通にセールスマンがするように近似解を求めることは可能で、量子コンピュータに適した課題とされる。セールスマンではなくとも、人間が道を選ぶときにこれをつかっているのではないか、という説がある。
・ロジャー・ペンローズ:脳が量子力学的に動作しているとして、心の働きを量子力学的に説明しようとした。成功したとはいいがたいが、非常に興味深い示唆を与え賛否両論。不治の病の科学者、ホーキングとは旧知。
・ジョン・リリー:隔離タンクの発明者。体の感覚を全て奪うことによって、本当の心なるものの探求を目指した。かなりのマッド・サイエンティストとして知られており、脳に電極を刺そうとしたり、LSDを使って隔離タンクに入ったりした。この名前を出すだけで拒絶感を覚える人もいる。イルカとのコミュニケーションは有名。A.C.クラーク原作の映画、2010年ではこの様子が描写されている。また映画、アルタード・ステーツ(1980年、ワーナー)のモデル。
・微分方程式:ある仮定や思想を元に、現象を描き出そうとすると必然的に数式になるが、それをごく自然な形で表現する手法。ニュートンが創始者とされるが、ライプニッツである、という説もある。ほぼ全ての物理理論は微分方程式で表わされる。数学的に解くのは難しいが理解だけなら中学生でも可能。便利なので経済理論を説明するのに使われたりもする。ブラック-ショールズの式、という解くのだけは非常に難しい式があるが、現在では殆ど使われない。株式市況を予測できると信じる人まで出る始末で、90年代のアジア経済危機に影響を大いに与えた。この理論を積極的に応用したLTCM(Long term capital management)は破綻処理され、経済的に大きな影響を与えたが、ショールズらはノーベル経済学賞を受賞している。
・DNA:おなじみの二重らせんです。基本機能はタンパク質を構成するユニットであるアミノ酸配列を記憶していること。発見した人はたいそう偉ぶって、”セントラル・ドグマ(中心定義、とでも訳せる)”なる理屈を発表したが現在では部分的に破綻していることがわかっている。DNAもRNAもタンパク質の合成に関係しており、どちらも遺伝物質ではあるが、RNAを遺伝に使っているのは一部のウィルス類である。RNAの方が不安定で、ウイルスがよく変異する一因である。ワクチンが効かないと主張する人たちの根拠となっているが、正しくはない。
・分子生物学:DNAを基礎としたバイオ系の学問。流行りました。いろいろとわからない点があるにも関わらず、DNAの殆どは役に立っていないジャンクである、という仮説に基づき、DNA解析が実施されている。この説はRNAiの発見により疑問を持たれることになった。
・RNAi:RNA干渉と呼ばれる。細胞内にある配列のRNAを導入すると対応する配列のDNAの働きが停止される。この小さなRNAはどこからやってくるのか、まだよくわかっておらず、場合によってはジャンクDNA起因ではないか、という疑念がある。細胞の機能を規制するため、がんに有効ではないかとされたが現時点での実用的抗がん剤への適用はない。
・ブール代数:デジタル・コンピュータの基礎となる数学理論。非常に単純で誰でも理解できる。例えばブール代数における1+1は1となる。繰り上げを扱うと1+1=10となる。二進法での10は十進法で2をあらわす。そういう演算をたくさんこなすことによりコンピュータは動作する。二進法を使う。二進法では数はただのスイッチがオンかオフかという状態で示されるので、回路を作るのが楽になった。なので、デジタル・コンピュータは急速に発展した。人間は普通は10進法を使うが、時間は12進、60進を使う。要するに何個の記号を使って数字を示すかというだけのはなし。この理屈を使うと両手両指で1024まで数えることができる。
・ゲート素子:ブール代数による基本的な演算素子として広く使われている。単純な構造でただのスイッチである。両端に電圧をかける端子があり、真ん中にも電圧をかけるところがある。真ん中に電圧をかけると、両端の端子間に電流が流れ、スイッチがオンになる。二進法で1はオン、0はオフとしてあつかえばよいから急速に発達した。
・デジタル・コンピュータ:ゲート素子とブール代数を駆使して構築された現在のコンピュータ。動作は単純極まりない。しかし、実用化には実に多くの時間を要した。1チップでのコンピュータは日本人発案によるものでありインテルとの共同開発で実現された。発注元企業は電卓開発会社であったが、電卓戦争の末に勝者になりかけてしまい、目立ってしまった。このために役所の介入を招き、某電機メーカに部品供給を制限され倒産(NHKオンデマンド,電子立国日本の自叙伝、および石田晴久「マイコンのすすめ」(廃刊)参照)。基本特許はインテルに買い取られた。この事実はPCの黎明期における専門家にしか話題にされない。この日本人は一時期Z80という1チップコンピュータを開発して、世界を席巻したがインテルに敗れている。
・シリコン:この小説で扱うシリコンは単結晶シリコンである。量産方法は日本で確立された。製造方法を考案したのはチョクラルスキーという人。ゾーンメルティング、という製造法もある。この元素はどのような岩石にも含まれているが、含有量の多い北欧産が有利である。北欧は木材と水力発電により、エネルギー資源が豊富で安く手に入るため、もっとも安価にシリコン原石を生産できる。粗精製されたシリコン原石は、主に日本に輸出され、さらに精製されて不純物は徹底的に排除される。
以上、誤訂正などお願いします。
マッチ箱は電気羊の夢を見るか 技術用語解説 改訂5 いわのふ @IVANOV
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます