ぼやき二題

千里温男

第1話

    ダイエットには

一時、トマトが値上がりしたことがある。

一部の店では品薄になったりした。

テレビでトマトは体に良いというようなことを言ったためらしい。

またかと呆れたものだ。

ずっと昔は”紅茶きのこ”が流行ったそうだ。

”寒天ダイエット”や”バナナダイエット”もあったけれど、今はどうなっているのだろう。

トマトやバナナのような比較的庶民的なものが値上がりしたり品薄になったりするのは迷惑だ、困ってしまう。

あ、そこの奥様、ライスダイエットはご存知ですか?

お米を炊くと、その時の適度な温度と時間によってウルチホソールとヌカヤセルンという二つの物質が作られることを、米国のソンナノアラスカ大学の研究チームが発見しました。

この二つは、成人の皮膚の再生のホルモンといわれるACTHが作られる時に重要な役割をしている物質です。

ご飯を食べるとウルチホソールとヌカヤセルンが摂取され、脳下垂体の中でACTHが充分に作られるのです。

そのACTHで皮膚の再生が促進されお肌が若返るのです。

皮膚の再生にはエネルギーが必要で、エネルギーを作るために脂肪がもやされます。

つまりご飯を食べると、お肌が若返るうえに、余分な脂肪がもやされて痩せるというわけです。

えっ、子どもの頃からご飯を食べているノに、ずっと太っているって?

奥様、それは炊き方が良くないのです。

電気炊飯器で炊いていませんか?

昔のお釜で炊かないとだめなのです。

奥様のお婆様はきっとお痩せになっていたでしょう?

それはお釜で炊いていたからなのです。

お釜で炊くと、ウルチホソールとヌカヤセルンが作られるのにちょうど良い温度と時間になるのです。

このお釜をご覧ください。

南部鉄で丁寧に手作りしました。

蓋も、この通り、分厚い檜で作ってあります。

これでお米を炊くと、電気釜で炊いたときの8.3倍もウルチホソールとヌカヤセルンが作られるのです。

ですから、ダイエットには最適なお釜です。

どうぞ、ダイエットには当社のこのカルーセル釜をお使いください。

今なら、檜の蓋をお付けして5万9千800円の特別価格です。

(おわり)


    女性は何を持ちたいか

むかしむかし、ウーマンリブの嵐が吹き荒れたことがあったそうだ。

『中ピ連』というのがあって、女性たちが大勢で手に手に角材を持って、気に入らない男の職場に押しかけて大暴れをしていたとか。

それをテレビ局が喜んで報道していたそうだ。

そんなの、威力業務妨害、器物損壊ではないだろうか。

角材をたくさん集めたのなら、凶器準備集合罪ではなかったかしらん。

また、一時、バレンタインデーのチョコレートのお返しは2倍とか3倍とか言われたことがあった。

あれは欲張りな女性の陰謀ではなかったろうか。

それとも、もてない男が、ぼくにくれれば倍にしてお返ししますと、吹聴していたのだろうか。

それにしても、男は弱くなったものだと思う。

時々、女性の男達への怒りは怨念あるがごときのように思えることさえある。

とうとう、漢字にまで文句をつけた女性たちがいたとか。

『婦』には、なぜ女だけが『帚』を持たなければならないのかと激怒。

それを恐れた某役所は「婦人課」を「女性課」に変えたという話を聞いたこともある。

一体、女性たちは『帚』に代えて、何を持ちたいのだろう?

『斧』でも持ちたいのだろうか。

団塊の世代の多くの夫たちは子育てや家事に非協力で、帰りはいつも遅かったという。

毎夜、遅く帰って来る。

時には午前様だったりする。

遅い帰宅に耐えかねて、妻が先に寝てしまうと、「誰のおかげで食えるのだ」と怒鳴り、翌朝になっても、まだ機嫌が悪い。

だが、妻にしてみれば、残業と称しているが、あてになるものか。

息は酒くさいし、その上、どこかの女の移り香がすることさえある。

日曜日は、夫はいつまでもゴロゴロしていて掃除の邪魔だ。

起き出してくれば、「タバコ」、「マッチ」、「灰皿」、「お茶」などと息つく暇もありはしない。

それでも、団塊の世代の妻たちは我慢していたらしい。

だが、その次の世代の妻たちは違う。

妻の忍耐も限界に近づいている夫婦がある。

ある朝、ふたりは大喧嘩する。

夫は、カッとなって妻の頬を張って、そのまま出勤して行く。

妻は、夕方まで何とか我慢していたが、遂に堪忍袋の緒が切れる。

彼女は、きょうこそは目にもの見せてくれると、ホームセンターに向かって駈け出して行く。

一方、夫は今夜もいつもの安酒場で同僚たちと飲んで、上司や会社の悪口を言って怪気炎。

まして、朝のことがあるから、しこたま飲んで酔っ払ってしまう。

すっかり遅くなって、やっと家路につく。

それでも、妻へのおみやげに屋台のたこ焼きを買うことを忘れない。

やっぱり妻と仲直りしたい。

夫はおぼつかない足取りで、我が家の玄関へとたどり着き、ドアノブを回す。

ドアの内側で、妻が買ったばかりの斧を握り締めて息を殺して待ち構えているとも知らないで。

いつか『婦』は、『女』偏に『斧』という漢字に変わるかも知れない。

それでも「フ」と読むことに変わりはない。

それにしても、『男』という漢字を見て思う。

なぜ、男だけが力んで田んぼを担がなければならないのだ。

もし『努』をオトコという漢字にしてくれるなら、それなら、そう嫌がらずに担げそうな気もしないではない。

願わくば、妻の又ではないことを…

(おわり)

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ぼやき二題 千里温男 @itsme

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