じかん

かき氷を食べて、コーヒーを頼んだ。

芸能人の話、音楽の話、また差し障りのない話をする。

だけど自然と話は尽きない。

話は尽きないのに、恋愛の話には一切触れない。不思議だ。

だからと言って、私からする気にもなれない。

こうやって、週末にユキに会えなくなるのは嫌だ。

2人のこの時間が、壊れるのが嫌だ。

窓から見える冬の空は、いつの間にか夜になって、晴れて澄んでいた。

私達は店を出た。

寒い。でも今の寒さは嫌いじゃない。

もうすぐ、また一週間か、二週間か、会えなくなる。

「新宿まで、歩いてみる?」

「うん!」

また即答。だって少しでも一緒に居たい。

ユキも、そう思ってるのかな。

雨のあがった道を、また私達に関係の無い話をしながら歩く。

酔っ払い、カップル、よくわからない人たち。

私達も、よくわからない2人だな、そうぼんやり思いながら、歩いていると、駅についてしまった。

2人とも途中までは同じ電車だ。

ユキは決して家まで送ったりしてくれない。まぁいんだけど。

空いた席に私を座らせて、その前に彼が立つ。

後何駅で乗り換えだろう。自然と口数が減る。

また会えるのかな、このままついていっちゃおうかな。

そんなとんでもない事を考えながら電車の駅名の表示を見つめていた。

なんとなく、ユキの視線を感じる。

ユキのほうを見る。何も言わない。だけど、少し溶けてる気がした。

男の人の溶けてる目は何度も見たことがある。それなのかな。

耐えられなくて視線を外した。

ユキが、持ってる鞄を握りしめるのが分かった。

それから彼の顔を見れないまま、乗り換えの駅に着いた。

「あたし、乗り換えだ、じゃあね」

「うん、じゃあね、また」

手を振って電車を降りた。

振り向かずに歩く。

まだ電車は止まっている。

途中で振り返った。ユキの居る方を見たけどもう分からない。

人の波に押されるまま、エスカレーターに乗った。

歩きながら、何度か振り返ったけど、当たり前だけど、彼は追いかけたりしてこなかった。そんなもんだ。そんなもんだ...

最寄りの駅について帰る道は、凍えるように寒くて痛く刺さった。

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