第9話 メムピスの総督
原作のラスボスである。教皇ウアノスを倒すのにはやはり原作と同じ状況に持ってくるのが一番だと考えた。
その過程で犠牲を減らし、主人公側を有利にするのが俺の目的であり、何故ならばウアノスの野望、魔眼を集めてその力で理想郷の如く異界へのゲートを開く過程での犠牲は決して許容できないし、エル・ウルスを放置していたらいつ狙われるかわからない。
原作設定を書き留めたノートを取り出し、読み返して考えをまとめた。レイメイに留まろう個人で出来ることはもう限られている。
某月某日。レイメイ首都ベラ湖の街にてある男と俺はあっていた。
「それで、レイメイに戻りたいと」
レイメイ国大臣、ノックス・クロフォード。元独立軍の軍師ノックスだ。
「何も中央のポストを寄こせとは言わない。西方の暗黒地帯だ。そこを開拓して来るべきエル・ウルスとの戦いに備え国力を上げる。もう一度の激突は避けられないと考えている」
「話自体は悪くはないし、エル・ウルス内部でレイメイ奪還の動きがあるのは事実だノス殿は兎も角、イーサン殿ならばなんとかと言ったところですね。よろしい新総督としてのポストを用意しましょう」
「お任せあれ大臣閣下」
今後の戦いの為、レイメイを強化すべく俺は新総督の地位につくことになった。
某月某日。ノックスに預けられた人員、物資を率いて西の暗黒地帯まで来た。暗黒地帯と言う物々しい名前だが実際は森がうっそうと茂っているよく解かっていない地域をそう呼んでいるだけだ。
「総督、ベースキャンプの準備整いました」
「ああ、ありがとう。サラヤ、ところで君は君幾つだったかな」
「14になります」
「そうか、じゃあ独立戦争の時は六つだな。俺は幾つだっけ」
副官としてつけられたエルフ族の少女とそんな会話を交わして暗黒地帯開拓の一日目は過ぎていった。
某月某日。物資はあるが人は集まらない。ミッチェルやアカツキで使われている蒸気重機を出して必要なものはだいたい作ったが、辺境のレイメイのそのまた辺境の暗黒地帯だ。
来ようとする奴がいない。まあ環境は整えた、宣伝もする。少しずつ集まってくるだろう。
某月某日。すっかりと大商人になったカエル人のコーカーが訪ねて来た。ここに支店を置きたいのだという。
「特に異論はないぞ」
「ではイーサンさん。書面通りに」
「コーカー、人を集めるにはどうすればいいと思う」
「さあ難しいですね。人を集めるだけなら奴隷でも流民でも引っ張てくることはできます。でも中央が求めるのはこの地を民度ある中央寄りの地域として自立させレイメイを支える事ですからね」
「よく解かっているじゃないか」
「これでも政商の端くれですから」
「やっぱりレイメイは部族の力が強いのか」
「ええ独立戦争の時は皆で力を合わせましたが、水場一つとっても意見のぶつかり合いばかり」
その後、コーカーと随分と話し込んでしたまった。独立戦争時代の事、ムツミやノスたちの事、当時の奴らは今何をしている。話の種は尽きなかった。
某月某日。精霊を召喚して、暗黒地帯に住ませてみた。
「総督、これは」
「サラヤか精霊だよ。多分害はない。折角都市や畑を作ったのに使わないともったいないだろう。そうだ機人やホムンクルスも作ってみよう。レイメイにはいろんな部族や種族がいるんだ少し増えてもあまり変わらないさ」
「そうかもしれませんけど」
「そうだ折角だから名前も変えよう。いつまでも暗黒地帯じゃ人なんて集まらない。そうだな公募を募ろう」
その後、公募の結果、この新しい地域はメムピスという名前になった。
某月某日。ホムンクルスを作ってみた。現代人だった俺からすると禁忌に触れる行為のようにも感じられる。イジュラン博士の研究資料、アカツキやエル・ウルスで手に入れた知識を総動員して数十体創り上げた。
ムツミはホムンクルスはホムンクルスの寿命を精一杯生きればいいと言っていたが俺はそこまで思えるほどの域には達していない。
彼女たちが人と同じ時間の流れを幸福に生きれたら少しだけ俺が救われるのかもしれない。
某月某日。メムピスの執務室で執務をしていると視線に気づく。副官としてつけられたエルフ族の少女サラヤがジト目で見ている。
「どうしたんだ」
「いいえ、可愛い女の子を作ってお父様なんて言わせてやっぱり男の人ってそういうのが好きなのかなって」
「彼女たちが勝手にそう呼んでいるだけだ」
「だいたい私とそんなに変わらないのに大人びちゃって」
「待てよ、何が気にいらない」
彼女は思春期なのだろうか、そっとしておこう仕事に支障がなければそれでいい。
某月某日。能力のおかげでやる事はたいていしてしまい。今は待ちと発生した問題を対処する事がおもだ。
「手際がいいんですね」
サラヤが次の報告書を渡しながら呟いて続ける。
「レイメイの総督は教育を受けた方が少ないです。総督ほど手際よく出来る方は少ないかと」
「これでもそれなりに教育を受けている土台と能力で手に入れたとはいえ十二分な知識があるからな」
「あっ私は巷の読み物みたいにちょろくありませんよ」
「ああ、そういう物を読むのか」
「くっ」
苦々しい顔をしている彼女の自爆なのでフォローはしない。
某月某日。メムピスも形になってきた。当初の計画よりも上方修正してもよさそうだ。
「総督、今回の件についてはあなたを認めます」
そう言うサラヤ。嫌そうな顔をしているが照れ隠しだと最近気づいてきた。
某月某日。早二年が過ぎて聖明歴509年になっていた。総督の任期が来た。自己評価でまずまずの結果だったと思う。
「総督……」
「ごめんな。俺にはこれからやらないといけない事がある」
名残惜しそうなサラヤや見送りに来てくれた住人達に挨拶をして俺はメムスピを離れたメムピスはレイメイの新しい中核州になるだろう。
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