第7話 魅惑の魔眼


 将軍にされていた経緯をニールが教えてくれた。

「ええ、王国もせめて地位だけはと」

「ああ、気にしないでくれ。好きでやっているから、見れば知っている顔も多いな。物資の方は好きに使ってくれて構わないし必要なら用意する。守りの方はこっちに任せて安心して魔王を倒してきて欲しい」

 こういう事がしたかったんだよな。ずらりと並べたレアアイテムを勇者一行に見せる。

「あのイーサン閣下、これ国宝の聖剣じゃ」

「凄いだろう。そっくりで切れ味や加護も本物と遜色ない偽物とはいえこれだけの業物そうそうない。まあレベルアップポーションでも飲んで落ち着きなさい」


「お茶感覚でなんてものを出しているんですか? 金貨何枚すると思っているんですかいや、時価次第じゃ値段が付けられないものですよ」

「ニールくんにはこれなんかどうだろうか。さっきの偽物の聖剣さ複数あってそれを知り合いの鍛冶屋に加工してもらって短剣にしたんだ。盗賊の君でも使いやすいよ」


「あわわわわ」

 何だろう。少し楽しい。その後贅を極めた壮行会の後勇者一行は旅立ち、ドーピングとアイテムの成果か大した苦戦もなく無事魔王を倒した。



 某月某日。マルセル王国を離れる際、剣聖ジードに会い話をした。

「ジードさん、どうすれば強くなれるでしょう」

 独腕の老剣士に尋ねる。どうも強くなった気がしない。以前に比べれば使える魔術も出せるアイテムも増えたが、キリーレイに遭遇したら死ぬと思う。


「ワシは剣の事しか解らんが。お前は武器は多いが決定的なものが欠けている。鍛えればマシになるだろうが才能はないから、どこまでいけるだろうか」

「決定的なものですか」


「一瞬の判断力や戦いの戦略性、あるいは天性のカンなど戦い方の上で核になるものだな。例えばワシとお前が試合をするとする。魔法あり異能ありでもワシの方が勝算が高いだろう」

「…………」


「お前が勝てないと思っている壁、その向こうに行くことはできない。天才が努力し続けた先の領域にはだがそれは試合での話だ。戦争という物は解からない。ワシも不覚を取って腕を失った。戦場ならワシもお前もあっさり死ぬかもしれないし大手柄を上げるかもしれない」


「つまり、試合での強さ対人戦での強さは諦めろということですか?」

「自分の剣を打ってもらい、鍛錬を続けろ。誰かのための剣ではなく自分のための剣を塵ほどだが勝率生存率は上がる。そんな塵をかき集めて勝ちを拾ってみろ」

「ありがとうございます。ひとまず自分の剣を打ってもらおうと思います」


 そう礼を言い頭を下げてマルセル王国を後にした。




 某月某日。アカツキ皇国にて、鍛冶屋に自分用の刀を打ってもらった。体のあちこちを触られたり色々質問を受けて少しうんざりしたが、握ってみると実際の重さよりも軽く。初めてなのに実によく手に馴染む。この黒い刀身の刀を持ち歩くことにしよう。


 某月某日。コピーした物を売った金を元手に商人スキルや投資家スキルを使い結構稼いでいる。これからあるエル・ウルスや異界との戦いをサポートする組織を作ろうと思う。


 某月某日。アカツキ皇国皇都にあるとある建物。この日ささやかながらもイーサン財団の設立を祝うパーティが開かれた。表向きは大規模災害や戦災などを専門にして人々の生活や福利厚生のために動く事になっている。


 聖明歴502年で八歳になったソウトも参加した。

「金持ちのやる事は解からないな。秘密結社ゴッコか」

「正直、個人の戦闘力を上げるよりも手駒や手札を増やして個人の戦闘力に頼らないですます方がいいと思っただけさ」


 そう答えると俺は次であるセルフィーナ帝国の件を見据えていた。



 聖明歴504年およそ二年後セルフィーナでクーデターが起きる。クーデターの首謀者であるサザーランド伯爵は真の魔眼の一つである。魅惑の魔眼を持つ。原作の中でもヤバい奴だ。まったく魔眼世界はヤバい奴らのバーゲンセールだぜ。


 魔術による洗脳ならば幾通りも対策はあるが、真の魔眼の持つ上位権能は魔術などで打ち消せない。必然的にサザーランド伯爵を相手にできるのは防御障壁の魔眼を持つ二部の主人公など一部に限られる。


 今回、財団を作ったのもそれだ。まともに相手をして洗脳されたら俺、世界を滅ぼしかねない。ので間接的に主人公メテルの支援をするのに留めよう。




 某月某日。そうだ教都に行こうと、エル・ウルスの首都、教都ラ・パイソに来ている。白を基調とした綺麗で大きな町だ。


 何故俺がわざわざ、こんなところまで来たというとスパイ活動だ。エル・ウルス内部の情報資料を漁って財団を情報的に優位にする。


 俺が行けば、隠密スキルで忍び込んでチラリと内部資料に触るか見るかして帰ってコピーして調べればいいだけなので他のスパイよりも格段に難易度が低いのもある。


 某月某日。ラ・パイソでの日々は続く。巨大図書館で知らない本を見て触ったり、研究所に忍び込んで資料や試作品を見て触ったり、中央政庁である教皇府に忍び込んで内部資料を見て触ったりスパイ活動というのはスキルがあっても地味につらい。


 財団でスパイを使う時は出来る限りの待遇をしよう。昔読んだ兵法書でもスパイは大切にしろ的な事が書いてあったな。




 某月某日。聖明歴503年になった。アカツキ皇国へ帰ってきた。財団は大きくなっている。俺の方は相変わらずに剣の鍛錬をしたり、ゴレームを開発したり、新しいアイテムや魔術を見て触って回ったり、ソウトやムツミと遊んだりしている。


 それと、旅をしている時にノスにあった。向こうは各地辺境でモンスターを倒して回る生活をしている魔眼のためか俺も彼もちっとも変わらない。


 某月某日。エル・ウルスの内部資料に俺の事が書いてあった。自称、イーサン。エル・ウルスにて製造されたホムンクルス失敗作の生き残り、エル・ウルスに恨みを持ち、人脈資金ともに大きく、真の魔眼を持つ疑いあり、国家転覆を狙う危険人物と思われる


 テロリスト扱いされていた。俺はエル・ウルスに穏便に滅びて欲しいだけだ恨みはないけど。キリーレイとかが殺しに来たらどうしよう。




 某月某日。聖明歴504年になった。反クーデター派で動く貴族を支援したり、事前にある程度情報をばらしたりしていたのにやはりクーデターが起こされた。帝国貴族が無能なのかサザーランドが化け物なのか良くわからない。


 実はサザーランドが魔眼を使うところは群衆に紛れて見たことがある。俺の真の魔眼、複製の魔眼は他の真の魔眼の効果もコピーできるようだ。試してみたらノスの自動全回復やアポスの身体強化も出来た。これでサザーランドのように洗脳もできるようなったがどうも俺の流儀にあわないので使う事はなさそうだ。


 洗脳なんかよりも、キリーレイを倒せる能力が欲しい。なんだよ能力使う前に殺すって……。


 某月某日。二部の主人公騎士メテルがセルフィーナ帝国の皇女シルキィさまとサザーランドを倒した報告を聞いた。

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