第6話 土埃の征旅

 一口、コーラを飲んで口を開く

「さて、何から話そうか。キラガサキ・ソウト君、俺は今君の抱えている問題を何とかできる」

「…………」

「信じていないな。ちょっとこっちに来なさい」

「…………」

「君が思っているような事はしないからこっちに来なさい」


 近づいてきたソウトの頭に触れ、彼のスキルの空きスロットに世界言語のスキルをコピーした。

「どうだい。世界は違って見えるかい」

「日本語みたいに言葉が自由に使える」

「さて、次はこいつだ」


 そう言って俺はレベルアップポーションを渡す。

「飲めばレベルの上がるポーションだ。運動が苦手? レベルを上げて物理で殴ればいい」

 そう言うとソウトはポーションを飲み干した。



 これでこの世界の子供とのハンデはだいぶ無くなったはずだ。彼のこれからの人生が少しだけマシになって欲しい。

「俺がしてやれるのは今はここまでだ」

「何で同じ転生者なのに」

「幸い少し力に恵まれた」

「ならくれよ。もっと力を」


 見るとソウトは真っ暗な瞳で俺を見ていた。あまり原作キャラに説教をするなんて事はしたくないが今の彼を放置しておくのはヤバイと判断した。

「いずれ、俺みたいなもらい物の力でなく、お前だけの本当の力が目覚める今はその力に溺れない自分を手に入れるんだな」

「そんなの知るか! お前ばっかりずるい」

 どうする。こんな性格が複雑骨折しているキャラ。原作でどうやって成長したんだっけ。ああノスって本当にいい子だったんだな。


「少し落ち着けよ。他人に何かを分け与えるのには余裕がいる。君は分け与えることができる人間だ」

「勝手なことを言う何も知らないくせに」

「知っているさ。だから来た」

「うるさい」


 それから俺とソウトは日が暮れるまで意見を言い合った。結局、合意は得られなったが少しだけソウトが丸くなったように思えた。ため込んだストレスが発散されたのだろうか。

「日が暮れたから帰るけど、また来るのか」

「そうだな。また来よう。そうだソウト君、君には魔術の才能があるよ長じたら習ってみるといい」

「ふん」


 帰っていくソウトの背中を俺は見送った。



 某月某日。与えられた猶予期間を有効に活用すべく。俺は学院で知り合った学者たちを集め、学院の一室を借りてある研究をおこなおうとしている。

「使用はこんな感じで、一品物、整備性と生産性は忘れていい」

「一つ聞いていいか」


「何かい」

 集まってくれた学者の一人ゴレーム工学のウシオ博士が皆を代表して手を上げた。

「資金、材料、設備は自由にしていいって言うのは本当かな」

「ああ、おかわりもいいぞ。最高のモノを作ってくれ」


「ふふふ、すぐにハンターギルドに依頼を送れ」

「異界街でレアパーツを大人買いしろ」

「基本フレームはオーダーメイドしよう」


 どうせ、コピー能力を使えば数は揃えられる。これからの戦いに向けて手駒になるゴレームの製作を俺たちは開始した。



 ソウトと遊んだり、ゴレームの試作品を作ったり、ムツミといちゃついたりしているうちに聖明歴500年は終わってしまった。今年はマルセル王国で異界が出現する。なんとか

ゴレームの試作品だけでも完成すればいいと思う。



 某月某日。ゴレームの試作品が完成したのでコピーし、ムツミにアカツキで買った家の留守を任せると俺はマルセル王国へと向かった。


 某月某日。マルセル王国辺境の酒場にて、男たちが噂話に興じている。

「おい、聞いたか土埃の征旅の話を」

「一騎当千のゴレーム軍団を率いた魔術師の傭兵。荒野に大量発生したグラップラーリザ

ードの群れを僅かな報酬で倒しつくしたっていうアレかい。眉唾だよ。しかも戦いが終わったら土埃を風に舞わせて消えちまうって何だよ」


 ゴレームの実践テストと、原作キャラと会うために来ているのに妙な噂が流れてしまった。

「ん、何だガキ興味あるのか。まあ子供はそういう話好きだよな」

 ガキか外見年齢が精々十代後半にしか見られないのは仕方がないか。

「ふん。こんなところにいるんじゃない早く帰りな」

「ああそうだ。占いで妙な結果が出たんです。帰った方がいい、ここはこれから危なくなくなるって紳士の皆様方も偶に早く帰ったら奥方も喜ばれるかと」

「何言ってやがる」

「ははは、一応忠告はしました」


 そう言うと俺は多めに銀貨を置いて店を出た。



 空間が歪み、大穴が空く。この世界では異世界とのゲートがたびたび開く。人々はそれを異界と言って時に交流し時に争う。


 ゲートから無数のガーゴイルが躍り出てきた。俺はミッチェルを大量にコピーして地平に並べた。


 エコロジー蟻型歩兵ゴレーム、ミッチェル試作型。中ボス級の戦闘能力を持ち、自己判断と俊敏性、多様性に優れる。高さ二メートル蟻型のゴレームである。


 念波を飛ばすことで素早く命令する事が出来、指揮官との魔術による感覚の共有も可能。おっと、スペックを確認している間に第一陣のガーゴイル軍団を壊滅していた。


 そして、最大の特徴はナノマシンによる自己分解機能、土埃になって風に消えていくように何も残らない。




  原作では多大な被害を受けるマルセル王国だが、現在異界の軍勢を俺のミッチェル軍団が押し留めているので、被害は最低限だ。精々、ゲート周辺が魔物の死体ため作物が育ちにくくなるくらいだろう。


 さて、原作では戦で独腕になってしまった剣聖ジードから身体強化の魔眼を受け継いだ一部主人公のアポスが異界の王である魔王を倒す事になっているがどうなっているのだろう。一応、ミッチェルを残して遠方から念話と感覚共有で指揮が取れない事もないが大事に備えてあまり動けない。


 某月某日。ゲート前にて。

「イーサンさま、勇者様ご一行がきました」

「そうか、挨拶に行く」

 俺が資材を用意して、自腹で作った砦に王国が派遣した連絡役という名の見張りの兵がそう言

ってきたので答える。


「…………」

「久しぶりだなアポス、師匠のジードは元気か」

「……はい」

「そうか」

 ジードには少しだけ剣を習ったことがある。すぐに才能がないと止められたが腕をなくす前は間違いなく最強の剣士だった。


「はい、イーサン将軍。あっしは盗賊の二ールという者ですが勇者様は口下手でお話の方はあっしが」

「ああ、気にしないでくれ。知っているから彼、はいといいえしか語彙がなくて苦労しているだろう。

それと将軍なの俺」

 いつの間にか将軍にされていたようだ。

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